故人の面影がロボットに宿る…AI時代の新たな“弔いのかたち”とは

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故人の面影がロボットに宿る…AI時代の新たな“弔いのかたち”とは

もうすぐお盆も終わりですが… 誰もが知ってるマンガ、あの『鉄腕アトム』の中で、「お盆」をテーマにした、ちょいと泣けるお話があるのをご存じでしょうか。

それは、昭和35年に発表された、『ロボット流し』という短編作品です。
「精霊流し」でも、「灯篭流し」でもありません。
コレをもじった、「ロボット流し」というタイトルの作品なんです。

ロボット流し

雑誌『少年』昭和35年夏の増刊号に掲載された「ロボット流しの巻」。画像は1997年光文社刊『鉄腕アトムORIGINAL』の復刻版より。講談社版全集では228巻『鉄腕アトム』第8巻に収録されている ( TezukaOsamu.net(JP) より)

いったいどういうお話なのかといいますと…アトムが活躍する、未来の世界では、お盆のことを、“おもいでの日”と呼ぶようになっています。
“おもいでの日”とは、なんでしょう。 作品の冒頭で、アトム自身が、こう説明しています。

「“おもいでの日”。亡くなった人とそっくりなロボットたちは、注文されたそれぞれの家庭へと、送られていきます。」

「日のくれるころ…うちでは、家族じゅうが待っています。『あっ きたよ』『わぁ~い おじぃちゃんだ』『おじいちゃーん』『おじいちゃん ようこそ』『さぁ! うちへ おはいんなさい』」

「こうして そのうちでは せめてロボットをかこんでなくなったひとたちを なつかしむのです」

「この日を昔の人は おぼんとよんでいましたが… いまでは『おもいでの日』という名がついています」

「三日たつとロボットたちは……なごりをおしまれながら川へながされます」

「これを『ロボットながし』というんです」

ロボット流し

「ロボット流しの巻」の冒頭シーン。アトムの世界では、「お盆」という慣習が「思い出の日」に変わってることが簡潔に紹介されている。画像は光文社カッパ・コミクス版『鉄腕アトム』第19巻より。この設定、とっても良かったのでほかのストーリーでも使い回してもらいたかったなぁ ( TezukaOsamu.net(JP)より )

(このあとアトムは、行方不明となったアトムそっくりの男の子の家に行くこととなるのですが…)

この短編は、膨大なアトム作品の中でも、涙なくしては読めない屈指の名作のひとつと言われているんです。
亡くなった人そっくりのロボットが、わずかな期間ではありますが、愛する家族のもとへと帰ってくる…」。

天才・手塚治虫さんならではの、じんとくる未来のアイデアだと思いませんか?
ところが… 驚いちゃぁいけません。
いま、このアイデアが、まさに、現実のものになろうとしているんです!

文化庁メディア芸術祭

文化庁メディア芸術祭 JAPAN MEDIA ART FESTIVAL 公式サイトより

今年の「第20回文化庁メディア芸術祭」。
メディア・アーティスト、市原えつこさんのチームが開発した、「デジタル・シャーマンプロジェクト」という出品作品が、優秀賞を受賞したのですが…このプロジェクトこそ、ズバリ!
家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせる」という、驚異のプロジェクトなんです!

「デジタル・シャーマンプロジェクト」の「シャーマン」とは、巫女(みこ)さんを意味します。日本でいうと、死者の口寄せをするという、恐山のイタコと呼ばれる方々も、「シャーマン」の一種ですね。
つまり、「デジタル・シャーマンプロジェクト」とは、「シャーマン」の役をロボットに務めてもらおう…というプロジェクトのことなんです。

Digital Shaman Project

Digital Shaman Project 公式サイトより

では… 具体的にはどんなプロジェクトなのでしょうか?

まず、生きているうちに、事前に顔をスキャンしまして、3Dプリンターで、立体的なお面を作ります。そして、このお面を家庭用ロボットの顔の部分にくっ付けます。でも、これだけですと「見かけ」だけですよね。

次に、音声データや、人格、口癖、そのヒト特有の仕草など、あらゆる特徴を、プログラミングします。すると… その人が、たちまち「憑依」する──つまり、とりついたかのような「コピーロボット」ができあがる!顔もソックリ、声もソックリ、仕草もソックリ、簡単な会話もするのですが、口癖もそのまんま!

でも、これで終わりではありません。
実にまぁ、ここからが日本人の仏教観にピタリと合致する感じがするのですが…この「デジタル・シャーマンプログラム」は、「死後49日間だけ発動する」という仕組みになっている!
要するに48日間は、このコピーロボットとまるで生前のようにやりとりできるのですが…魂があの世に旅立つとされる「49日目」になると、さよならの言葉をロボットがつぶやきまして、プログラムが終了するんです。

たとえば、49日めを迎えるとロボットは身振り手振りもその人のまま、こんなふうに話します。

「僕、そろそろ、逝かなくてはいけないんですが…僕も、これくらい一緒にいられたら自分に納得ができるので、みなさんも元気で楽しくやって下さい。」

「じゃあ…。向こうで、待っていますんで…」

そして、ロボットは、ゆっくりと、首をうなだれるのだそうです。

故人の面影がロボットに宿る…AI時代の新たな“弔いのかたち”とは

発案者の市原さんは、ご自身のおばあさんを亡くされたときに、残された者たちへの弔いという儀式の影響…さらには、弔いのかたちについて、深く考えるようになったのだそうです。

そして生まれた、「デジタル・シャーマンプログラム」。
現在はまだ、実用化の一歩手前でして、まだ存命中の関係者たち数名が、自分たちのデータをプログラミングしている段階なのだそうですが…興味のある方は、いちどホームページをご覧になっては如何でしょうか。

草場の陰の手塚先生も、さぞや驚いていることでしょう。
「AI時代」「ロボット新時代」ならではの、全くあたらしい、弔いのかたち…「デジタル・シャーマンプロジェクト」が、永久の別れのありかたを、ドラスティックに変えるかもしれません。

故人の面影がロボットに宿る…AI時代の新たな“弔いのかたち”とは

8月16日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00

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