長岡駅「牛めし」(890円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.5「池田屋」編③)

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】

特急「しらゆき」

E653系・特急「しらゆき」、信越本線・青海川~鯨波間

北陸新幹線の開業と共に誕生した、新潟~上越妙高・新井間の特急「しらゆき」。
上越妙高で新幹線「はくたか」と接続し、新潟と北陸の連絡特急の役割を担っています。
車両は、常磐線で「フレッシュひたち」として活躍していたE653系電車の4両編成です。
新潟有数の海水浴場「西鯨波海水浴場」は、列車がよく見える“鉄分濃いめの”ビーチ。
この時期は、白い砂浜に咲いたパラソルの花を横目に、潮風を浴びて快走していきます。

池田屋

池田屋

そんな「しらゆき」も停車する長岡駅で駅弁を手掛けるのが、「株式会社池田屋」。
明治20年創業、今年で創業130周年の老舗で、駅弁には戦後から参入しています。
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第5弾は、池田屋の5代目・永橋ひかる専務が登場。
新幹線の開業や相次ぐ天災などで、競合していた駅弁屋さんが次々と姿を消していく中、いかにして長岡駅弁の灯を守り、未来への展望を描いているのか、お話を伺っています。

●小さくても“ひかる”駅弁屋さんへ!

永橋ひかる

池田屋・永橋ひかる専務

―ひかる専務曰く「新潟で一番小さな駅弁屋さん」だそうですが、一番小さいハズだけど、ちゃんと“生き残って”いる・・・何か理由のようなものはあるんですか?

他に先駆けて、『規模を小さくした』ということがあると思います。
父(四代目・晃社長)が、「手を広げずに身の丈に合わせよう」と言い出したんです。
だから今は、大きな駅弁大会さんもお休みさせていただいています。
輸送駅弁をするにしても、(たくさんの駅弁を)作りきれないということで・・・。
今、駅弁屋さんは、「大きくするか」「小さくするか」のどちらかでないと生き残れないんです。
駅弁屋さんの中には給食も手掛けたりされている所もありますが、ウチはそこまでの体力は無いので、ちょうど「かがやき」が無くなると分かった頃からでしょうか、身の丈に合ったサイズに削いで、細く長くやっていこうということになったんです。

―その中で「ひかる」専務が、駅弁屋さんを継がれることになったきっかけは?

実は私、前職がアパレルなんです。
服が好きだったので高校・大学も服飾系で、帰ってきてからもショップの店員をしていました。
2店目ではバイヤーも兼任させてもらっていました。
ただ、アパレル業界は、見た目の2割こそ華やかですが、残りの8割はハードな部分も多いので、結婚などを機に退職される方も多いんです。
私もそんな“流れ”に乗って辞めまして、(自然と)“家を継ぐ”ということになっていました。
お客様と対面させていただいてモノを売るという仕事は、服でも食べ物でも変わらないので、その意味では、アパレルでもいっぱい勉強させてもらったかな・・・と。

 

●セレクトショップのセンスを駅弁に・・・

長岡駅 駅弁売場

長岡駅の駅弁売場にも立つ永橋ひかる専務

―アパレル時代に学んだことで、今、活かしているところはありますか?

駅弁の「売り方」ですね。
昔は売店に、駅弁をあるだけ高く積み上げて売っていました。
でも、私が売るようになってからは、店頭には2~3個だけ置くようにして、弁当の種類をたくさんそろえるようにしました。
例えば、デニムがたくさん山積みされていて、種類もあって・・・となった時、選べないですよね?
『お客様が見やすく、提案しやすいように・・・』というのは、アパレルで学んだことなんです。
いわゆる“セレクトショップ”の売り方ですね。
あと、駅弁を高く積み上げると、「掛け紙」が見えないんですよ。
せっかく力を入れて作った掛け紙なのに、積み上げたら、お客様の目線が来ないので、見ていただけないんです。
服選びでもTシャツを高く積み上げたら、柄を見て貰えませんよね。
ファストファッションなら別にいいんですけど、セレクトではまず売れません。

―今も駅の売店にも立っていらっしゃるんですよね?

私自身、駅でほぼ毎日売り子もしています。
常連さんのお顔は大体憶えていますね。買われるお弁当も。
専務というのもなんなので、『駅弁アドバイザー』という肩書を、勝手に作ってやっています。
私自身も一応、各社さんの駅弁を食べ歩いているので、駅弁を買われる方に、お出かけの行先を伺って、その地域の「おすすめ駅弁」などの情報を提供しています。
“食べログの駅弁バージョン”みたいな感じですかね。

 

●世代を超えて愛される長岡の駅弁!

牛めし

牛めし

―今、ある長岡の駅弁で一番古い駅弁は?

「牛めし」でしょうか。
祖父の代からあります。

―世代を超えて愛されている味ですよね?

ホントに地元の方が支えて下さっているお陰です。
加えて、長岡は観光地ではなく、ビジネスのお客様で支えられている所が大きいので、外からのお客様も「リピーター」の方が多いんです。
お子さんと一緒に家族で買いに来て下さる方もいます。
「ウチはお祖父ちゃんの代から、(牛めしが)好きなんですよ!」と言っていただいた時は、すごく嬉しかったですね。
しかも、お祖父ちゃんは既に亡くなっていて、「牛めしはお仏壇に上げてからいただくんです」と。
この味は代々受け継がれているんだなぁと実感した瞬間ですし、ホントに寄り添っていただいているんだなぁと思うと、とても嬉しくなりました。
やっぱり、お客様から伺うエピソードが嬉しいんですよね!

(永橋ひかる専務インタビュー、次回に続く)

牛めし

牛めし

長岡で「牛めし」と聞いて、あまりピンと来なかった人もいるかもしれません。
そんな方は「牛めし」のふたの裏面をじっくり読めば、スッキリ納得!
今は長岡市の一部になっているかつての山古志村(やまこしむら)で1,000年以上にわたって続けられている「牛の角突き(闘牛)」の由来が書かれています。
何気なく見える「牛めし」駅弁も、地域の歴史の裏打ちがあると一層美味しくいただけますよね。

牛めし

牛めし

牛めし

牛めし

やや甘めの牛肉の旨煮の下に入っているのは、隠し味の「きんぴらごぼう」。
お好みで唐辛子や紅生姜を載せて、ピリ辛にしていただくことも出来ます。
長岡駅弁の中では第3位の人気を誇り、長岡へ出張で来た方の人気も高いといいます。
当たり前の駅弁が、当たり前に美味しいからこそのロングセラー。
地元に愛され続ける味ということを頭の片隅に置いていただくと、一層美味しく味わえそうです。

特急「しらゆき」

E653系・特急「しらゆき」、信越本線・青海川~鯨波間

時代に合わせて、会社の形をリサイズするということは、なかなか出来ることではありません。
その中で将来を見据えて、背伸びをし過ぎず、地に足の着いた展開をしてきた「池田屋」。
長岡駅前には「米百俵の精神」を謳った記念のモニュメントがありますが、共通するのはリアリズムに徹した“先を見据えた展開”ということかもしれません。
そんな「米」つながりで・・・次回は駅弁の柱・お米へのこだわり!
「池田屋」のお米の技にも迫っていきたいと思います。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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