調律師の方が「ピアノの中に羊がいる」と。この言葉で閃きました。 本屋大賞受賞作品『羊の鋼の森』著者 宮下奈都さん。 【ひでたけのやじうま好奇心】

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高嶋 今回は、久しぶりに作家の方をお迎えします。
長編小説「羊と鋼の森(ひつじとはがねのもり)」(文芸春秋)で、「第13回本屋大賞」を受賞された宮下奈都(なつ)さんです。よろしくお願いします。

宮下 よろしくお願いします。

《宮下奈都さんプロフィール》
1967年福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒。
2004年、文學界新人賞佳作に入選した『静かな雨』で、デビュー。
2007年、初の単行本『スコーレNo.4』(光文社刊)は、書店員の熱烈な支持を受け、秘密結社が誕生。
『太陽のパスタ、豆のスープ』(集英社刊)、『田舎の紳士服店のモデルの妻』(文藝春秋刊)など、ありふれた日常を題材に据え、心の襞を丁寧に掬い取る描写が、多くの読者の共感を呼ぶ。
『誰かが足りない』(双葉社刊)で、2012年の本屋大賞ノミネート(7位)。近著に、一家で北海道の大雪国立公園内トムラウシ集落に1年間限定で暮らした日々を綴った『神さまたちの遊ぶ庭』(光文社刊)があるほか、ESSE(扶桑社)でエッセイ「とりあえずウミガメのスープを仕込もう。」、
地元・福井新聞社発行の雑誌 fu にエッセイ「緑の庭の子どもたち」を好評連載中。

高嶋 どんな雰囲気の方なのかなと思ったら、色白の女学生がそのままこう大人になって、ウン十年と。年代は聞いても大丈夫ですか?50代?

宮下 いや、49歳(笑)

高嶋 失礼しました。福井に今、住んでいらっしゃるんですよね。

宮下 あっ、はい。凄く暮らしやすい。海のすぐそばに山があって、人が温かくて。

高嶋 『羊と鋼の森』ですが、ごくごく簡単に言うと、ピアノの調律に魅せられた1人の青年と、彼を取り巻く人々の日常を描く物語。
北海道の美しい自然を舞台に、主人公・外村(とむら)が、調律師として研鑽の日々を送る中で出会った先輩や顧客との交流を静謐(せいひつ)な筆致(ひっち)で綴っている成長物語。
宮下さんもピアノを?

宮下  はい。45年ほど。

高嶋  本屋大賞ってね。芥川賞や直木賞と比べて、世論の支持みたいなものが大きい賞だと思うのですが、なぜ、ピアノの調律というお仕事に注目されたんですか?

宮下  ピアノの中には羊がいたんです。
うちに45年間ずっと来て下さっている調律師の方が古いピアノを見て、「まだまだ大丈夫。中に良い羊がいるから」っておっしゃったんです。

高嶋  作家として、ひらめいた言葉だったんですね。「ピアノの中の羊」と言うと?

宮下  本当は羊の毛を刈って、それを丸めて作ったフェルトで作ったハンマーというものがピアノの中にありまして、それが鍵盤を押すと、ハンマーが弦(鋼)を叩いて音を出すっていう仕組みなんです。
ピアノの中って、木で出来ていて、本当に木のニオイがして、森に通じるな。

高嶋  グランドピアノの中の森。

宮下 今は福井に暮らしているんですけど、1年間、北海道に暮らした事がありまして、その山の中というのが本当に緑の綺麗な素晴らしい場所だったんです。
そこで毎日暮らすうちに、この素晴らしい自然を何とか言葉に出来ないかと思いまして、その時に初めて他にも言葉にしにくい音楽と自然を結びつけたら、面白いものが書けるんじゃないかと。
「そっか調律師の物語を書くんなら、北海道だ」と自分の中で結びつきました。それで北海道で書こうと。

高嶋 この本を読んで、瑞々しい感性、素直さと言うか。成長して行こうという意欲だとか、かつて「俺もこういう時、ちょっとあったなぁ」みたいな。日本の古き良き時代と言うか、先輩後輩とか。今、失われたかなと思われるような。
スマホ時代だと何でもチョイチョイと調べられて、プロセスが失われちゃうわけですよ。
昔は先生、先輩に聞くと言っても、それなりの準備とかプロセスがあって、知識を得た。体験が出来た。
そこを「羊と鋼の森」の主人公は先輩から教わる。

宮下 はい。

高嶋 そして、224ページ。
「一万時間を越えても見えなかった何かが2万時間をかければ見えるかもしれない。早くに見えることよりも、高く大きく見えることのほうが大事なんじゃないか」という良いセリフがあるんですよ。こういう事をみんな忘れているんじゃないかと。日本全体が。

「羊と鋼の森」ぜひ、みなさん読んで下さい。作家の宮下奈都さんでした。

6月3日(金) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より