犬を伴侶にひとりで暮らすこととは?【ペットと一緒に vol.33】

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ブル・マスチフ,しあわせな人生の選択

7/1より公開の映画『しあわせな人生の選択』を試写会で鑑賞しました。
スペインのアカデミー賞である第30回ゴヤ賞で最多5部門を受賞した本作品は、犬を伴侶としてひとりで暮らす男性が主人公。
犬を愛する主人公と、余命わずかな飼い主に寄り添う老犬との日々が、多くの愛情で包まれながら紡がれた作品から、筆者は最後まで目を離すことができませんでした。
今日はその映画を元に、犬を伴侶としてひとりで暮らすことについてちょっと考えてみたいと思います。

原題は犬の名前だった本作品

この映画の原題は、登場する犬の名前である『トルーマン(Truman)』だったそうです。
それほどまでに、本作品では犬がストーリーの大きな鍵を握っています。

主人公のフリアンは、スペインでブル・マスチフの老犬トルーマンと、俳優として生計を経てながら暮らしていました。
そこへ突然、古い友人のトマスがカナダから訪ねてきます。
フリアンが自慢する美人のいとこであるパウラから、フリアンの余命が長くないことを聞かされたからです。

しあわせな人生の選択

4日間の滞在となるトマスは、到着早々、トルーマンの散歩をひとりで任されます。
その散歩でトマスは、離婚をして前妻とも息子とも離れて暮らすフリアンが、いかに犬を通してほかの人々とつながりを持ち、愛犬を息子のように愛しているかを実感したに違いありません。

それにしても、レトリーバーよりもシェパードよりも大きく、ブラックマスクの迫力ある顔をしたブル・マスチフでありながら、トルーマンが初対面のトマスの歩みに自らの歩みをそろえるほど穏やかで、終始、柔和な表情をたたえていること!飼い主の愛情をたっぷりと受けた犬は、人を信頼することを知っています。そしてまた、人の心をよく読み、人への愛情も深いのです。
これならば、フリアンが心配しているトルーマンの里親探しも、きっとうまく進むでしょう。

ブル・マスチフの特徴

さて、ここでブル・マスチフとはどんな犬種かをご紹介したいと思います。

ブル・マスチフ,しあわせな人生の選択

この犬種は、その名のとおり、マスチフにブルドッグの血を導入して生まれました。
19世紀後半のイギリスで、主に私有林の番人が仕事のパートナードッグとするために作出されたと言われています。
密猟者が接近するまで粘り強く待ったのち、地面に密猟者を倒して押さえ込むのが仕事でした。
とはいえ、攻撃的に咬みついたりはせず、勇猛果敢でありながらも忠実で温厚。
家族を献身的に護る、愛情豊かなパートナードッグです。
外見の特徴である小麦色やこげ茶色の被毛やブラックマスクは、闇夜の中で密猟者から見えづらいという点でも役立ったそうです。

フリアンはトマスの滞在初日に、動物病院に一緒に向かいます。そこで獣医に尋ねます。

しあわせな人生の選択

「犬も喪失感を感じるのか?」
「新しい家族に引き渡すときは、俺の匂いがついた服を持たせるべきか?」
「ひとり暮らしの男に預けるべきか?」と。

愛犬より先に旅立つ飼い主であれば、誰もが同じようなことを心配するでしょう。
フリアンの言葉を横で聞いていたトマスの表情も印象に残ります。
フリアンとトルーマンの結びつきの強さを、あらためてひしひしと感じたはずです。

その後、トルーマンの里親探しをめぐって、フリアンは子供のように泣いたりもします。
死への恐怖に対する本音を、トマスにポロリと漏らしたりもしますが、それを支えるトマスの友情は深いのです。
そう、この映画は、男同士の友情のストーリーでもあります。


トルーマンの里親は見つかるのか?

老犬という点がネックになっているのか、トルーマンの里親探しは少々難航します。
トルーマンにふさわしい新しい家族は、トマスの4日間の滞在中に果たして見つかるのか……。

フリアンとしても、トルーマンのしあわせを願って理想的な譲渡先を選んでいる節もあります。
同じように老犬と暮らす筆者が考えても、それは当然だと思えます。

筆者は動物愛護団体への取材も数多くありますが、やはり、老犬は譲渡希望者が少ないと聞きます。

ブル・マスチフ,しあわせな人生の選択

ストーリーの展開を気にしながらも、ときには筆者も涙したり笑ったりしながら、登場人物たちとトルーマンの“しあわせな人生の選択”とは何であろうかと思いを巡らせました。
そして、筆者自身や愛犬の“しあわせ”についても。

劇中に散りばめられた、スペインの犬事情も興味深く観ました。
トルーマンは超大型犬とはいえ、カフェにも入れタクシーにもそのまま乗れ、まわりの人々も気に留めません。
それはやはり、犬が家族の一員としてだけではなく、社会の一員として受け入れられてきた歴史がヨーロッパは長いからでしょう。
トルーマンは劇中一度も吠えることなく、まるで自分の運命を静かに受け入れる準備を整えているかのように見えました。

犬を愛する人々の心にも訴えかけ、見どころの多い『しあわせな人生の選択』でした。

映画公式HP : http://www.finefilms.co.jp/shiawase/
監督・脚本:セクス・ゲイ 出演:リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、ドロレス・フォンシ、犬トロイロ
2015/スペイン、アルゼンチン/カラー/スペイン語、英語/108分
原題Truman
映倫:R15
後援:スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、アルゼンチン共和国大使館
配給:ファインフィルムズ
© IMPOSIBLE FILMS, S.L. /TRUMANFILM A.I.E./BD CINE S.R.L. 2015

7月1日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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