扇風機回しながら、爽快なエレキサウンドを聴く…エレキの神様・寺内タケシ【GO!GO!ドーナツ盤ハンター】

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昨今のアナログ盤ブームで、改めて注目されているのが歌謡曲のレコード(ドーナツ盤)。
デジタル音源より音に厚みがあり、またCDでは味わえないジャケットの大きさも魅力の一つ。
あえて「当時の盤で聴きたい」と中古盤店を巡りレコードを集めている平成世代も増えているようです。
そんなアナタのためにドーナツ盤ハンター・チャッピー加藤が「ぜひ手元に置きたい一枚」をアーティスト別・ジャンル別にご紹介していきます。

梅雨入りして毎日ムシムシ、コンビニの棚にも冷やし中華が並ぶ季節になってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?わたくし、暑い時期に聴く音楽は「エレキサウンド」と決めております。そう、夏はテケテケ!
王道のベンチャーズから、「♪のってけのってけ」のオリジナル『太陽の彼方』のアストロノウツ、映画『パルプ・フィクション』でもおなじみ『ミザルー』のディック・デイルなどなど、扇風機を回しながらアナログ盤も回して、爽快なエレキサウンドを聴く…これ最高!そして、テケテケは絶対にレコードで聴くべし。質感が違います。
夏本番になったら「エレキ歌謡」について特集したいと思っていますが、その前に、日本のエレキサウンドを語るなら、絶対に忘れてはいけないお方が一人。「エレキの神様」こと寺内タケシ御大です。現在78歳ですが、今なお現役でエレキ片手に全国のホール・公民館・学校を行脚しておられるのはグレイトの一言。凄いのは、先に挙げた海外の有名エレキバンドが全盛期に来日した際、自分のバンドを率いて共演し、堂々と渡り合うどころか、逆に彼らを食ってしまうこともあったとか。
今回は、世界の有名ギタリストたちに「テリー」と呼ばれ尊敬されている御大のアナログ盤をご紹介しましょう。避暑用にぜひゲットしてください。

【その①】・・・『ユア・ベイビー』寺内タケシとブルージーンズ(1965)

ユア・ベイビー,寺内タケシとブルージーンズ

父親が電器店を経営する実業家で、母親が三味線の家元だったテリー御大。「電器屋+三味線=エレキギター」ということで、幼少時よりエレキに親しみ(ご本人いわく「当時日本に実物がなかったので、自分で造った」)大学時代から米軍キャンプを廻って腕を磨きました。そして1962年、インスト中心のバンドを結成。それが「寺内タケシとブルージーンズ」です。
この62年は、英国でザ・ビートルズがデビューした年でもありますが、彼らの活躍によって、日本のバンドシーンにも、自らオリジナル曲を作って歌う「自作自演」の波がやって来ます。世界の潮流に敏感なテリー御大は「もうインストだけやってりゃいい時代じゃないぞ」と、いち早くそのムーヴメントに対応。ビートルズのカヴァーなど、歌モノをレパートリーに採り入れるだけでなく、オリジナル曲も作ろうぜ、ということに。
そこで御大が「お前、曲を書け!」と命じたのが、後にザ・ワイルドワンズを結成する加瀬邦彦。歌詞は作詞家の安井かずみが担当。のちにジュリーの『危険なふたり』など、数々のヒット曲を手掛けるコンビが書き下ろした「歌モノ第一作」が本作です。(ジャケット前列左が加瀬/右が寺内)
加瀬とリズムギターの岡本和夫がユニゾンで歌い、他のメンバーがコーラスを担当。ちょうどこの頃、ザ・スパイダースも、かまやつひろしの書いた『フリフリ』でオリジナル路線へ舵を切るのですが、こうして日本の音楽シーンはGS時代へと突入していったのです。そんな意味でも、ぜひ備えておきたい記念碑的一枚。500円〜1,000円前後で入手可能です。

【その②】・・・『太陽野郎』寺内タケシとバニーズ(1967)

太陽野郎,寺内タケシ&ザ・バニーズ

先述のように、時代の流れを先読みするのが得意だったテリー御大。古い慣習に縛られたブルージーンズでは、そのうち新しい潮流に対応できなくなると見切ると、あっさりバンドを脱退。66年6月、アマチュアバンドから優秀な若手メンバーを選抜して、新バンドを結成します。それが「寺内タケシとバニーズ」。なぜバニーズかというと、テリー御大がウサギ年生まれだからです(笑)。
御大は徹底的なスパルタ主義でメンバー全員に猛特訓を課し、66年暮れ、バニーズは『テリーのテーマ』でデビュー。翌67年3月に『レッツ・ゴー・シェイク』が大ヒットし、10月にはベートーベンの名曲をエレキサウンド化した『運命』をリリース、その超絶テクが話題になりました。
11月にリリースされたこの『太陽野郎』は、夏木陽介主演の同名ドラマ主題歌で、詞曲は岩谷時子・いずみたくコンビが担当。疾走感溢れる演奏がたまりません。ちなみにメンバーのうち、リズムギターの黒沢博(俳優・黒沢年男の弟、ジャケット中央)は、後に「ヒロシ&キーボー」のヒロシとして『三年目の浮気』を大ヒットさせ、同じくギター担当の輿石秀之(黒沢の左隣)は「大石吾朗」と改名し、俳優に転向。『コッキーポップ』のDJとして活躍しました。
バニーズの活動が軌道に乗ると、テリー御大はバンドをキーボードの荻野達也に託し、自分は一歩引いてソロ活動にも力を入れるようになりますが、そのうちバンドの方向性を巡って、テリー御大と荻野が対立。結果、バニーズは荻野が率いる形で独立し、御大は新生ブルージーンズを結成、現在に至っています。そんなゴタゴタがあったものの、近年は和解したようで、黒沢と大石はブルージーンズのライヴに時々ゲスト参加しています。
本作、割と出物が多く、200〜500円ぐらいで入手可能です。

【その③】・・・『津軽じょんがら節/黒い瞳』寺内タケシ vs 三橋美智也(1967)

津軽じょんがら節,黒い瞳,寺内タケシ vs 三橋美智也

テリー御大のギターテクニックを語る上で重要なポイントが「三味線の影響」です。母親が家元だったことは冒頭で触れましたが、御大の演奏を聴いていると随所に三味線風のフレーズが出てきます。少年時代、母から叩き込まれた技術が、間違いなくギターにも活かされているのです。
そんなバックグラウンドを持つ御大が、津軽三味線の名手でもある三橋美智也に「異種格闘技」を挑んだのが本作。ジャケットからして猪木vsアリ以上のインパクトがありますが、67年に舞台共演したことから意気投合。「一緒にレコードを出そう」という話になったようで、所属が同じキングレコードだったため、世紀の決戦がスンナリ実現しました。
ジャケット裏にレコーディングの詳細が載っているのですが、収録日は67年9月14日。驚くことに両者とも「本番は一発録りで」と約束を交わし、簡単な打ち合わせのみでスタジオ入りしたそうで、まさにガチンコ勝負。
まずはバニーズの演奏で幕を開け、続いて三橋の三味線ソロ→テリー御大のエレキソロ→そして両者の掛け合いへと進んでいくのですが、火花バチバチ!エレキが疾れば、三味線も疾る。互いに一歩も引かない演奏の凄まじさは、このレコードを手に入れて聴いてください、としか言えませんが、マジで鳥肌モノ。しかし、50年前の日本でこんな超絶セッションが行われていたとは…。
余談ですが、クイーンの名ギタリスト、ブライアン・メイも、テリー御大のファンの一人で、ロンドン五輪でも演奏した『ブライトン・ロック』には三味線を彷彿とさせるフレーズが出てきます。私が思うに、彼はこのレコードを日本で入手し、秘かにそのエッセンスを採り入れたのではないかと。だとしたら、凄いことだと思いません?
1,000円前後で入手可能ですが、それだけ出す価値は十分あるので、見付け次第すぐ購入することを強くオススメします。

【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5,000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。

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