あけの語りびと

くたびれても手を加えればいい味が出てきます。革のカバンに魅せられた職人「あけの語りびと」(朗読公開)

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』

梅雨の季節に入りましたが、突然の雨に濡れるのは、嫌なものです。
でもあえてお店の名前を「雨(あま)ザラシ工房」とつけた人がいます。

雨ザラシ工房

高崎市井野町(いのまち)…
高崎駅から両毛線に乗って、二つ目の「井野駅」で降り、前橋へ続く県道を15分ほど歩くと、この「雨ザラシ工房」が見えてきます。
芝生の庭がある平屋の可愛らしいお店で、もちろん屋根はあります。

雨ザラシ工房

店主の小野里健一さんは、高崎生まれの高崎育ちの39歳。

8つ上に双子の姉がいて、私は長男で末っ子、甘やかされて育ちましたよ。

と笑います。

雨ザラシ工房,小野里健一

雨ザラシ工房 店主 小野里健一さん

中学を卒業すると、高崎工業高校の建築科へ進みます。
学校全体では9割が男子生徒ですが、建築科はクラスの半分近くが女子生徒。

“女子にモテたい、彼女が欲しい……”

小野里さんにとって、モテるアイテムは、服とカバンでした。
ある日、前橋にあるカバン屋さんで、かっこいいカバンを見つけます。
ドイツ製の3ウェイバック。値札を見ると、なんと4万円!

お店のオーナーから『ヌメ革を使ってるからいまは肌色だけど、使い込むと飴色に変わって、いい味になるよ。』と言われ、聞けば聞くほど欲しくなり、小遣いを貯めて買ったんす。

このカバンを背負って意気揚々と学校に通った小野里さんですが、高校3年間、女子にモテることは、なかったそうです。

高校を卒業すると、地元の建設会社に就職。
マンションなどの建設現場で、監督の助手として働きますが、現実は職人さんの小間使い。
上司からガミガミ言われ、ちやほやされて育った小野里さんは耐えきれず、1年半で、やめてしまいます。

このとき、

うちで働いてみないか。

と声をかけてくれたのが、学生時代から足繁く通っていた、あのカバン屋さんでした。

販売だけじゃなく、修理も始めたいから、小野チャン!カバンの修理職人やってみないか。

小野チャンと呼んでくれる気さくなオーナーの人柄に惹かれて、小野里さんは週2回、都内にある革工芸の学校に通わせてもらい、20歳でカバンの修理職人として働き始めます。
チャック直し、ハンドルと呼ばれる持ち手の交換、ほつれの直しなど、どんな注文にも応え、どんなカバンでも直してきました。

いやいや、はじめは5年ほどで辞めるつもりだったんです。
その当時、大人気の猿岩石の影響で『お金が貯まったら、ヒッチハイクで世界中旅してみたい』そんな夢があったんですけどね、気がつけば18年も働いていて、この間結婚し、子供が2人生まれました。

カバンを修理することで製造技術も身に付けた小野里さん、去年5月3日に独立し、「雨ザラシ工房」を開きました。
そうです、「雨ザラシ工房」は、カバン、財布、小銭入れなど、革製品の販売、オーダーメイド、そして修理を請け負うお店なのです。

雨ザラシ工房

雨ザラシ工房

雨ザラシ工房

カバンのオーダーは、じっくり1時間以上お客様の話を聞いて、皮の素材、色、縫い糸、ジッパーまで、細かく決めていきます。
完成まで、だいたい2ヶ月ほど、かかります。
受け取りに来たお客さんが完成品と対面した時、わー、これ、いいなぁ!と感動してくれる、この瞬間が一番嬉しいといいます。

雨ザラシ工房

そしてなにより、布やナイロン製と違って、特別な愛着が生まれます。

子供のようにカバンが成長し、ぶつけるとケガもし、すり切れて歳をとり、手入れをすると、また元気になり、大事に使えば人生の友になります。

「雨ザラシ工房」では、ランドセルも作っています。
「しょってアルマジロ」と名付けたランドセルは、蓋の部分がアルマジロのような〝うろこ状〟のちょっと目を引くデザインです。

小学3年生の息子が、しょって行ったら、みんなに大注目!女の子にモテモテだったと、喜んで帰ってきたんですよ。

雨ザラシ工房

雨が好き。シトシト降る雨は静かで落ち着くから、という小野里さん。

雨ザラシのまま錆びた鉄って、一見ガラクタに見えても、ちょっと手を加えると、不思議な魅力が生まれてくるんですよ。
くたびれた革のカバンも、手を加えれば、いい味が出てきます。
そんな魅力を発信したくて「雨ザラシ工房」と名付けたんです。

きょうも雨です。
「雨ザラシ工房」で、革のカバンを作っています。

雨ザラシ工房

2017年6月14日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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