虫に学ぶ新たな技術の可能性 ~昆虫や小さな生物の機能を生かしたモノ作りはいま! 【ひでたけのやじうま好奇心】

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ご存知の通り、20世紀は「石油の科学」であり、そこに依存した結果、その資源は枯渇しています。
代わって、21世紀に大きく羽ばたいているのが、「バイオミメティクス」や「バイオミミクリー」という名前の科学。
“生物模倣技術”と訳されることが多いのですが、聞いたことがあるでしょうか?

人間が一番偉いというのは全くの思い込みでして、昆虫などの小さな生物は、人間には全く真似できない優れた機能や体の構造を持っているのです。
長い年月を経て、進化したこれらの生物の特性を模倣して、技術開発やものづくりに生かすというのが、「バイオミミクリー 」や「バイオミメティックス 」。
日本を始め、世界各国で競い合うようにその技術開発が進んでいます。

日本ではすでに、独自に「生物を模倣して技術開発」に役立てている様々な例があります。
たとえば・・・1989年、開発当時、世界最速の記録を打ち立てた新幹線500系

500系
JRおでかけネットより

意外なことに、速く走らせることはそれほど難しくなくても、その際に生じる騒音を少なくするのが大きな問題だった。
そこで、JR西日本の技術開発者が目を付けたのが、趣味のバードウォッチング。
羽の音が全くせず、最も静かに飛ぶフクロウを研究すると、他の鳥にはないギザギザがあって、これが空気をうまく逃がして抵抗を少なくする。
その羽の形をパンタグラフに応用したところ、騒音を30%もカットすることができた、ということなのです。

そのほか、
「蚊の針を模倣した、赤ちゃんもいたくない注射針」
「抵抗力が少ないサメ肌の水着」
「壁や天井を自由自在に歩けるヤモリの足の裏の構造を再現した、ヤモリテープ」~接着剤なしでツルツルのガラスに貼り付きます。
「さらに光を反射しない機能を持つ蛾(ガ)の目の構造を模倣した反射防止フィルム=モスアイ・フィルムをスマホやパソコンの表示画面に仕様」
と、どれもおなじみになっている技術が、生物の独自の機能を研究した結果から生まれているのです。

特に、子供の頃から「カブトムシ」をペットで飼うようなお国柄のニッポンは、その研究熱心さでは群を抜いていると言われています。
では、世界が注目する「生物模倣技術」を紹介しますと・・・七色に光り輝くタマムシを応用した金属というのがあります。
タマムシは、実は色素を持っていないのに、あのきれいな色を出しているのです。
その秘密は、皮膚にナノレベルの層がくっついていること。
その層が反射することで、赤や緑、紫と色を発色しているのです。
これに注目したのが新潟県燕市の「中野科学」。
やかんから半導体まで、様々な金属の表面処理を行う会社です。
中野科学は、ステンレスを酸化させることでタマムシと同じような膜を加工。そうすることで塗料を使わずに、ステンレスにきれいな光沢を与えることに成功したのです。

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塗料を使っていないので有害物質は一切ナシ。
剥がれたり錆びたりすることもない。
そして何といっても、何も混ざっていないのでそのまま再利用が可能。
この持続可能な技術、というのがとても評価されて、ロンドンオリンピックでキラキラと輝いていたモニュメントには、この技術が採用されているのです。

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(燕市長鈴木力の日記より)

そして、まもなく実用化の段階にまでやってきているのが、「エチゼンクラゲのチップ」。
あの大量発生したエチゼンクラゲは、9割が水分。
つまり、そもそもが“保水性”という機能が物凄い。
そこで愛媛大学名誉教授の江崎次男(えざきつぎお)先生が、クラゲを乾燥させてチップにして、山火事の跡地にまいたところ、1年で植物が、他の土地の倍の大きさに成長という、素晴らしい結果が得られたそうです。

エチゼンクラゲというと、日本海のイメージですが、クラゲの大量発生はそれだけではありません。
今は、原発の代わりにフル稼働している火力発電所の周辺で、海が温かくなったせいで、エチゼンクラゲとは種類が違いますが、別のクラゲが大量発生。
先生はこのクラゲを利用して、チップを生産するシステムを構築している最中だと言います。

そしてもうひとつ、目覚ましい研究成果が得られているのが、シルクの研究。
実は蚕だけではなくて、3分の1の昆虫が何らかのシルクを作る構造を持っているのです。
言ってみれば、クモの糸もシルクと同じタンパク質。
東京農大の研究室では、このシルクの特性が様々な製品へと技術転嫁できないか、研究を進めています。
シルクには、“紫外線を遮へいする”特性があることから「UV化粧品」の開発。
“油を吸着する”特性があることから「ダイエット食品」へ。
その応用は尽きることがありません。
これからの課題としては、研究する学問の場と、産業界がどう力を合わせていくか、という点。
ドイツではすでにこの「生物模倣技術」の開発に、国が3000億円補助しているそうですが、日本は10億円単位程度とまだまだ。
2020年東京では、こうした日本の技術が披露されるような場があるといいのではないかと思いますが、どうでしょうか。

5月17日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

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