お客さんの人生を支える大切な道具を1つ1つ手作業で作り上げる靴職人【10時のグッとストーリー】

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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

今日は、お客さんの足に合った木の型を取るところから、ひとつひとつ手作業で作り上げていく靴職人さんのグッとストーリーです。

お客さんの人生を支える大切な道具を1つ1つ手作業で作り上げる靴職人【10時のグッとストーリー】

ギルド銀座店 店内

東京・銀座の一角にある、革靴の専門店「ギルド」。
浅草からこの場所に移って10年、日々、何人ものお客さんが靴を作りにやってきます。

「ギルド」の靴は、完全オーダーメイドの「ビスポーク靴」。
ビスポークの語源は、英語の「Be spoken(ビー・スポークン)」で、「話し合う」という意味。
まず片方の足だけでおよそ50箇所を採寸し、お客さんの足にぴったり合った木の型を作ります。
その上で、どんなデザインにするか、どんな革を使うかなどを徹底的にお客さんと話し合い、手作業で作り上げていくビスポーク靴。
木を削って型を作るまで3ヵ月、それから製作に取りかかるため、完成まで最低でも半年は掛かる、まさにこだわり抜いた靴です。

ビスポーク,ギルド

株式会社ギルド代表 山口千尋さん (ビスポーク木型の切削中)

その「ギルド」の代表を務めるのが、日本のビスポーク靴作りの第一人者でもある山口千尋(やまぐち・ちひろ)さん・56歳。

気付いていない人が多いですが、人間の左足と右足のサイズは同じではないし、形も違います。
既製の靴を履くということは、靴に足を合わせていることになります。

山口さんはもちろん、左右の足を別々に採寸。
それぞれの木型を作り、履く人の足に完全にフィットした靴を作ります。
その履き心地はごくごく自然。履いていることをつい忘れるほどです。

ビスポークシューズ

ギルドオリジナルデザイン 『ビスポークシューズ/Trinidad』

革製品が好きだった山口さんは、1980年、大阪の高校を卒業後、ある大手の靴メーカーに就職。
靴作りに携わるようになりましたが、そこでは、ほぼすべての工程が機械化されており、山口さんはやがて「自分が本当に作りたい靴」が作れないことに気付きます。

そこで機械がやっていた作業は、もともとは全部、人の手でやっていたことなんです。
しかし、大量生産のため機械化が優先されて、そのため切り捨てられてしまった技術がたくさんあることに気付いてしまったんですね。
ならば、それを学ぼうと思いました。

靴をすべて手作業で作っていた時代の細かい技術、当時それを学ぶには、本場・イギリスに渡るしかありませんでした。
87年、山口さんは会社を辞め、単身渡英。26歳の時でした。
ツテも何もない中、語学学校で得た情報を頼りに、靴職人を養成するカレッジに入学。
改めて、手作業で靴を作る技術を学んでいった山口さん。現地で暮らすうち、イギリス人が靴を非常に大切に考えていることに気付きます。

人間は寝ているときと、座っているとき以外はずっと歩いているわけで、その足を支える道具である靴には、ちゃんとお金を掛けていいものを買う…

そんなイギリスの文化に触れつつ、めぐり逢ったのが「ビスポーク靴」でした。
日本には帰らず、現地で修業を重ねること4年。91年に、山口さんは日本人として初めて、一流の靴職人の証しである「ギルド・オブ・マスタークラフツメン」の資格を授与されます。
帰国後、5年ほどフリーランスのシューズデザイナーとして働いた後、96年に現在の「ギルド」を設立。

ビスポーク靴職人は、当時日本に私ぐらいしかいませんでした。昔はいたんですが、日本の社会がいつしか、靴をじっくり作る職人を求めなくなっていたんですね。

という山口さん。
しかし、お客さんと納得いくまで話し合い、たっぷりと時間をかけて、その人の足にぴったり合った靴を作り続けていくうちに、だんだん顧客も増えていきました。

ビスポークシューズ

スタンダードなフォーマルデザイン『Crown Perforation』

ビスポーク靴のいいところは、何年かに一度、靴底や表面などを修繕していけば、何十年も同じ靴を履けることです。
ある日、こんな出来事がありました。以前、ギルドで靴を作った人の息子さんが店を訪れ、「亡くなった父の靴を、自分用に作り直してくれませんか?」と山口さんに依頼してきたのです。

靴を大切にするその方の思いが、息子さんにもちゃんと伝わっていたわけで、嬉しかったですね。
息子さんの足の方がワンサイズほど大きくて難しかったんですが、改めて型を取り直して、何とか仕上げました。

という山口さん。
ビスポーク靴は、一生履ける、まさに人生のパートナーでもあるのです。
山口さんは言います。

靴は、人生を支える大切な道具なんです。
履いて玄関を一歩出たときに、体の一部になっている靴が理想です。
そういう心地よい靴を、これからも作っていきたいですね。

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年5月27日(土) より

八木亜希子,LOVE&MELODY

番組情報

LOVE & MELODY

毎週土曜日 8:30~10:50

番組HP

あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
今、聴きたい曲を書いて送ってくださいね。

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