人間の体の動きをリアルに再現した人体模型を作り、世界中から注文が殺到している「原型師」前田強さん  【10時のグッとストーリー】

キャラクター人形やフィギュアを作る際、その元になるひな形を作る「原型師(げんけいし)」。

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東京・八王子の 前田強(まえだ・つよし)さん・58歳は、この道21年のベテランです。

前田さんが、研究を重ね作り上げたのが、デッサン用人体模型「S.F.B.T(サフビット)」

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サイズは30センチほどですが、これは、ただの人体模型ではありません。
実際に動かせる部分が80カ所もあり、人間の体の動きを、驚くほど忠実に再現できるんです。
手首は180度なめらかに回転。指も5本すべて動かせるほか、まぶたも瞳も動かせます。
筋肉の動きもリアルで、ヒジを曲げると力こぶができる徹底ぶり。

でも、人が痛がるような無理な動きは、ストッパーが働くようになっています。

それだけに構造も緻密になっていて、特殊な合成樹脂でできたパーツは、1体で230個以上。
これを前田さんが、ルーペを片手に手作業で一つ一つ組み立てていきます。

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複雑すぎて、私しか組み立てられないんですよ(笑)。だから量産できないんです。

この「S.F.B.T(サフビット)」は世界中で評判を呼び、注文が殺到。1年先まで予約で一杯という人気ぶりですが、このスーパー人体模型が生まれるまでには、さまざまな苦労がありました。

もともと私は、マンガ家になりたかったんです。

少年時代、アニメや特撮に夢中だった前田さん。佐賀の高校を出て、名古屋の大学に進学しますが、何か飽き足らないものを感じて4年で中退。
それからマンガを書きためて、24歳のときに上京、東京の出版社へ持ち込みを始めます。
しかし道は険しく、様々な仕事を経て、26歳のとき、特撮の美術セットを作る会社に就職。ここに10年間勤め、模型作りの基礎を身に付けました。

特撮用の模型って、映像に映すためのものなので、映らない部分は作らないんです。
360度、ちゃんとしたものが作りたい、という欲求が日に日につのっていって…。

前田さんは、フィギュア・模型の大手メーカーに転職。ここで原型師の仕事を任されます。
ヒーローの写真やイラストを渡され、そこからイメージを膨らませて、フィギュアを一から作り上げていくクリエイティブな仕事。
多忙でしたが、充実した日々を過ごしました。
ところが・・・48歳のとき、前田さんは突然解雇通知を受けたのです。
会社にも貢献したのに、まさかのリストラ。しかし前田さんは、この苦境を前向きにとらえました。

独立して、自分の好きなものを作るチャンスじゃないか!

ちょうど10年前の2006年、前田さんは自分の名前をもじった「Mフィールド」という会社を立ち上げ、フリーの原型師として活動を開始。
作品のクォリティの高さと、それまで培った人脈のお陰ですぐに注文が舞い込み、会社は順調なスタートを切ったかに見えました。
しかし翌年、不況になると一転、注文はゼロに。
Mフィールドは、倒産の危機に直面します。

よそと同じようなものを作っていては生き残れない。世の中にないものを作ろう!

そこで浮かんだのが、20年以上前から温めていた、リアルに動かせる人体模型を作ることでした。
しかし、実現には様々な試行錯誤がありました。3年ほど研究に研究を重ね、ようやく完成。
2009年、販売を開始したとき、業界内では
「そんなマニアックなもの、誰が欲しがるんだ?」
「コストが掛かって値段も高くなるから、売れないだろう」
という冷ややかな見方をされましたが、フィギュアの世界で影響力のある有名人が、偶然「S.F.B.T(サフビット)」の存在を知り注文。
前田さんの作った人体模型がいかに素晴らしいかを、SNSに投稿したことがきっかけで、口コミで火がつき、やがて注文が殺到するようになりました。

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前田さんは常に改良を続け、最新のモデルは、肩や腕回りの可動域(かどういき)が拡がり、動きもより、リアルになりました。
今では医療機関からも発注が来るようになり、視覚障がいを持つ人たちに、体の動かし方を教える研究にも使われているそうです。

模型を買って、最初に箱を開けたときの感動って、忘れられないですよね。
私はそれで運命が変わりました。
自分が作る商品も、それを手にした人の、
仕事の支えになるものを作っていきたいと思っています。

【10時のグッとストーリー】

八木亜希子 LOVE & MELODY 2016年5月7日(土) より

八木亜希子LOVE&MELODY