パピーも老犬も、元気過ぎる犬も臆病な犬もOK! どんな犬も楽しめる究極のドッグスポーツ「ノーズワーク」【わん!ダフルストーリー】

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■保護犬たちの「遊び」がルーツ。脳も体もフル活用して楽しめるノーズワーク

人間の約1億倍もあるといわれる犬の嗅覚。人と暮らすようになる前の犬は、この鋭い嗅覚を活用して狩りをし、獲物を捕らえて生きていました。その習性は今も犬の本能にしっかりと刻み込まれています。匂いを追って食べ物を得ることは、今も昔も犬たちにとって大きな喜びなのです。

そんな犬たちの嗅覚と習性に着目したスポーツが、「ノーズワーク」です。もともとはアメリカでシェルターに収容されている保護犬たちの「遊び」として始まったものですが、今や世界中で一大ブームを巻き起こしています。
では、ノーズワークとは具体的にはどんなスポーツなのでしょうか?

ノーズワークの様子。一生懸命です!(w680)

ノーズワークの様子。一生懸命です!

ノーズワークを日本に紹介したドッグトレーナー・細野直美さんによると、ノーズワークの基本は「フードサーチ」。あらかじめ目に見えない場所に隠しておいたフード(食べ物)を犬に探させることです。
フードサーチだけでも十分ですが、もしも難易度を上げて楽しみたい場合は微量のアロマオイルを染み込ませた綿棒を探す方式に発展させていきます。

細野直美さんと愛犬(w680)

細野直美さんと愛犬

「ノーズワークの素晴らしいところは、何といっても、犬種や年齢、性別等に関わらず、どんな犬でもできる点。他の犬のいない空間で完全な単独競技として行うので、臆病な犬も安心して楽しむことができます。歩くことさえできれば、パピーでも老犬でもマイペースで楽しむことができます」と細野さん。

「そして飼い主さんにも特別な技術や資格は必要ありません。匂いの元(フード)を隠して、あとは犬がそれをみつけるまでしっかりと見守ってあげるだけでOK。車いす生活を送っている飼い主さんにも、愛犬と一緒にノーズワークを楽しんでいる方がいらっしゃるんですよ。フードを探す愛犬を、それはそれは嬉しそうに見つめていらっしゃいましたね。ドッグスポーツは数あれど、飼い主さんが、こんなに優しいまなざしで愛犬を見つめるスポーツって他にないのではないでしょうか」。

■フロリダの公園での偶然の出会い

もともと看護師として救急医療の現場で活躍していた細野さん。ドッグトレーナーとしての道を歩み始めたのは、結婚後にビーグル犬を飼い始めたのがきっかけでした。知人に誘われて参加したしつけ教室でドッグトレーニングに出会い、勉強をスタートしたのです。
その後、トレーナーとして独立、教室などで教えながらも勉強を続け、トレーニングの一環としてドッグスポーツにも取り組むようになった細野さんですが、ドッグスポーツをする飼い主さんたちの様子を見て、ずっとあることが気になっていました。それは、ドッグスポーツをしているときの飼い主さんの表情。

「真剣になればなるほど、飼い主さんの顔から笑顔が消えるんですよね。むしろ怖い顔になってしまう人も…」と細野さん。
「それに、従来のドッグスポーツは運動神経が良くて健康な若い犬が主役。他の犬がいるとビビってしまって動けなくなるような臆病な性格の犬や足腰が弱い犬、老犬にはなかなか楽しむことができません。とても残念なことですよね。それで、どんな犬も自然に楽しめて、飼い主さんも笑顔になれるドッグスポーツはないものだろうか…と思うようになったのです」。

そんな細野さんがノーズワークと出会ったのは、今から約10年前のこと。全くの偶然でした。
「仕事でアメリカのフロリダを訪れたとき、時間ができたので近くの公園に散歩に出かけたんです。すると、そこに犬を連れて嗅覚の訓練のようなことをしている人たちが。彼らは後にアメリカでノーズワークの協会を立ち上げた人たちで、まさにそのとき、公園でノーズワークをしていたんです。話しかけて説明を聞き、すぐに『あ、これは他のドッグスポーツとは違う』と直感しました。人が主導して犬にやらせているのではなく、犬が本能に基づいて楽しみながらやっているものだということが、わかったのです」。

ノーズワーク中のビーグル犬。脳もフル活用!(w680)

ノーズワーク中のビーグル犬。脳もフル活用!

帰国後、細野さんはアメリカの協会と連絡を取りながら、日本でノーズワークを普及する道を探り始めましたが、商標の問題などもあって、アメリカ人講師の来日が難しく、なかなか実現しませんでした。
「途中で、『日本オリジナルの団体を作ってしまえばいいんじゃない?』というご意見もいただきましたが、それはやりたくなかったんです。私自身がまだノーズワークを完全に理解できていなかったこともありますし、どうせ学ぶなら正しい知識を持っている人から学ぶほうが絶対にいいじゃありませんか」。

粘り強く交渉を続けた細野さんの夢が叶ったのは、フロリダの公園で初めてノーズワークを見てから約10年後の2016年。念願かなってトップトレーナーのロクサンヌ・バードリーが講師として来日してくれ、トレーナー向けのノーズワーク講習会を開くことができたのです。

■人間にはわからないことを、犬が教えてくれる

「ロクサンヌの講義を受けて、ああやっぱり私は間違ってなかったと実感、すごく嬉しくなりました。ノーズワークこそ、どんな犬でもどんな飼い主さんでも楽しめる究極のドッグスポーツだと確信できたのです」。

現在、細野さんはトレーナー仲間とともに立ち上げた団体「スニッファーズドッグ・カンパニー」の一員として、ノーズワークのコンペを開催したり、各地で講習会を行ったりしてノーズワークの普及活動に力を入れています。

講義中の細野さん(w680)

講義中の細野さん

「ノーズワークを始めて改めて感じているのは、犬の力はすごいなということです。嗅覚だけで何かをみつけるなんて人間には絶対にできないこと。本当に尊敬してしまいます。こんな素晴らしい能力の持ち主である犬を人間が粗末に扱うなんて、あってはならないこと。ノーズワークがもっと知られるようになれば、犬を尊び、大切にする人がもっと増えるはず。それにノーズワークは犬とのコミュニケーションにも最適です。犬の動きをじっと見つめることによって、飼い主さんは犬の気持ちや心の状態を上手に読み取れるようになってくるはず。そしたら、『犬が手に負えない』などといって飼養放棄をする人も減るのではないかと考えています」。

もう1つ細野さんが考えているのが、保護犬へのノーズワークの実践。
「保護犬には怖がりな性格のコが多いのですが、ノーズワークを行うと『自分にはできる』という自信がつきます。ノーズワークを活用して人を怖がらず、社会生活を送れる犬にしてあげることで、保護犬の譲渡率UPにもつなげていきたいと願っています」。

ノーズワークとの偶然の出会いから10年。細野さんの思いが、今後、日本でどのように花開いていくのか、今後の展開から目が離せそうにありません!

☆スニッファーズドッグ・カンパニー  http://sniffer-dog.net/

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  わん!ダフルストーリー Vol.54

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