1978/3/21発売の矢沢永吉「時間よ止まれ」はツアー中の楽屋でギター1本で作られた【大人のMusic Calendar】

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時間よ止まれ,矢沢永吉

39年前の1978年3月21日は矢沢永吉のシングル「時間よ止まれ」がリリースされた日である。キャロル解散を受けて、矢沢がソロデビューしてから3年後のことだった。ソロとなった当初はキャロル時代のファンからとまどいの反応や否定的な意見もあったのだが、クオリティーの高い作品を発表し続け、精力的なライブ活動を展開して、着実に支持を広げつつあったタイミングで、矢沢の存在がより広く一般的に認知されるターニングポイントになったのがこの「時間よ止まれ」の大ヒットだった。当時のオリコン・チャートでも3週連続1位を記録。その後、この曲が収録されているアルバム『ゴールドラッシュ』が大ヒットして、矢沢はスーパースターの座を確固たるものにしていく。

ゴールドラッシュ,矢沢永吉

ちなみにこの曲は資生堂のCMソングでもあった。タイアップがまだそんなに一般的ではなかった時代に、ロック・ミュージシャンと化粧品メーカーとの組み合わせはかなりのインパクトがあった。“時間よ止まれ”というコピーを考えたのはコピーライターの小野田隆雄。資生堂からの“時間よ止まれ”というコピーとCMの絵コンテをとっかかりとして矢沢が作曲して、山川啓介に作詞を依頼して、この曲は完成した。ツアー中の楽屋でツアーメンバーの前でギター1本で短時間で作ったメロディだったと2000年代に入ってからのインタビューで矢沢が語っている。矢沢のメロディーメーカーとしての才能はこの曲からもはっきりうかがえる。

スケールの大きさと空間的な広がりと深みを備えたロマンティックなメロディと山川による情景が見えてくるような歌詞とが絶妙にマッチしている。歌詞の舞台となっているのは真夏の海辺だ。情熱的で刹那的な恋が描かれた作品なのだが、“時間”“生命”“WORLD”など、マクロの視点で使われることの多いワードが使われているところも特徴的だ。半径数メートルの生活圏を舞台とした身近なラブソングとは正反対の、壮大なバラードは矢沢だからこそ歌うことができたとも言えそうだ。

トロピカルなテイストのある風通しのいいサウンドもこの曲の世界観を魅惑的なものにしている。実は演奏メンバーもすごい。キーボードは坂本龍一でドラムは高橋幸宏だ。レコーディングされたのが1978年の年頭なので、YMO結成直前のふたりが参加していたことになる。さらにベースは当時、サディスティックスに在籍していた後藤次利、ギターは矢沢の盟友であり、その後、NOBODYを結成した相沢行夫と木原敏雄、パーカッションはサザンオールスターズの「勝手にシンドバット」のリズムアレンジをしている斉藤ノヴである。

歌はもちろんのこと、メロディ、歌詞、アレンジ、演奏、すべてが最高のレベルだったからこそ、名曲「時間よ止まれ」が誕生したのだろう。この「時間よ止まれ」は1978年に続いて、2014年にも資生堂のCMソングとして使用されている。矢沢が2009年にNHK紅白歌合戦に出場した時にもこの曲が歌われて、歌詞を間違えるハプニングがあったのだが、それでもやはり素晴らしいという絶賛の声が数多く上がっていた。タイトルは「時間よ
止まれ」だが、名曲は“時間を超えていく”ことをこの曲が鮮やかに証明している。

「時間よ止まれ」「ゴールドラッシュ」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
ソニーミュージック 矢沢永吉公式サイトはこちら>

【執筆者】長谷川誠(はせがわ・まこと):1957年北海道・札幌生まれ。小学生の頃に壁新聞に夢中になり、文章を書く人間になりたいと思ったのがこの世界に進むきっかけ。出版社勤務を経て、フリーランスのライター、音楽評論家に。吉川晃司、奥田民生、TRICERATOPSなどのアーティスト関連書籍の構成を多数担当。著書『WITH THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』(ぴあ)、『 PRINCESS PRINCESS DIAMONDS』( シンコーミュージック)など。

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