もうすぐ70年、企業戦士の朝食を支え続ける 『ミルクショップ酪』 「あけの語りびと」(朗読公開)

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』

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けさは、ミルクスタンドのお話です。

JR秋葉原駅、その総武線のホームに、『ミルクショップ酪(らく)』があります。
「らく」は、酪農の「酪」と書きます。

昼下がり……、サラリーマン、おじさん、おばさん、学生さんが、次から次へと、牛乳を買って、その場で飲んでいます。
このミルクスタンドを経営しているのが、「大沢牛乳株式会社」。

会社は「電気街口」を出て「AKBカフェ」の隣の「ガンダムカフェ」、その横を入っていくと、高架下に、「大沢牛乳株式会社」が見えてきます。
支配人の稲村さんに、その歴史を伺いました。
秋葉原駅のホームに「ミルクスタンド」を開いたのは、戦後間もない、昭和25年のことだそうです。

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昭和30年代の「高度経済成長」、昭和から平成へ向かう「バブル景気」、「24時間、戦えますか!」そんな企業戦士の朝食を支えたのが、ミルクスタンドでした。

 十秒ほどで飲み干して、満員電車へ吸い込まれていきましたね。
 餡パンはポケットに突っ込んで、会社で食べたんじゃないかな

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当時は、白牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など、5種類ほど。
それが今では、十倍の50種類に増えています。
白牛乳だけでも、大手メーカーのほかに、福島や群馬、飛騨といった地方の牛乳も扱っています。

『ミルクショップ酪』の営業時間は、朝6時半から夜9時まで。

ここで1日に飲まれる本数は……、何本だと思います?
聞いてビックリ! 多い日で3000本!

自動販売機の、パック入りの牛乳は、手軽ですが、やはり、牛乳ビンで飲む牛乳の方が、格別に、うまいんですね!

一番忙しい時間帯が、朝8時半ごろ。
それでも、「スイカ」といった電子マネーは、導入しません。
十円単位なので、現金のほうが3倍速い、と稲村さんは言います。

 ほら、八百屋さんが、吊るしたザルに、バラ銭を入れて、夕方のお客さんを、さばいているでしょう。
あれと同じ!
 商品を、いちいちレジに通して、ここにタッチしてください、ピピッ!
 なんて、やってたら、行列が出来ちゃうからね。

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ベテランの従業員、永沢光子さんに話を伺うと、注文の声は、「牛乳!」とか、「シロ!」とか、または、「明治!」「メグ!」「飛騨(ヒダ)!」と様々なんだそうです。
永沢さんは、それを一瞬で聞き分けて、牛乳を用意します。
牛乳の値段は、120円から150円。人気の餡パンは100円。

 餡パンと牛乳で、220円です!

と言いながら、手は牛乳の蓋を開けています。

 中には、一万円札で払うお客さんもいますが、そんなことでは、バタついていたら、仕事になりません。

さすが、ベテランの永沢さん。
数秒のやりとりでも、毎日のことだと、顔なじみも出来るそうです。

 お嬢さん! 牛乳!

と、毎朝、声をかけてくるお客さんが、ぱったりと姿を見せなくなった。どうしたんだろう?
いつしか年月が流れた、ある日のこと、

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 お嬢さん、牛乳!(あ、あのときの、お客さん!)

もうリタイアされている様子で、背広じゃなくて、普段着姿です。

 いまも元気でいられるのは、毎日ここで牛乳を飲んだおかげだよ。

と嬉しい言葉をかけてくれます。

 ここ、長いね。

 もうすぐ70年なんですよ。

 お店じゃなくて、お嬢さんがだよ。

 私? 私は、もうすぐ30年。お嬢さんが、おばあちゃんに、なっちゃったわ。

かつての企業戦士……、
あの頃は、十秒ほどで飲み干していた牛乳を、このときは、ゆっくり、味わいながら帰っていったそうです。

 また来るよ!

の言葉を残して……。

2016年4月27日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ