お経をあげ、座禅をおこなう【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第151回

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わたしはまだ至らないので、侮辱されると腹が立ち湯気がたつほど怒りますが、その後、持仏堂にかけこみひたすら祈ります。心が猛り狂っているのでまともな祈りのことばも出てきません。それでお経をあげます。
帰依する天台宗の経典が法華経なので、毎日のお経と法華経をかたっぱしからあげます。不思議なことに、はじめはただくやしさまぎれに字づらだけ追って大声を出していたのがいつのまにか声が落ちついて呼吸も楽になってきます。
そこで座禅をはじめます。座ってしまえば心が澄んできて、樹々に風の吹きすぎる音、筧(かけひ)の水の音、小鳥の声が静かに聞こえてくる。深山幽谷に座っている気分になります。何のためにわたしは逆上し、だれを殺してもやりたいほど怨んでいたのかを忘れてしまっています。

瀬戸内寂聴

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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