土仏をひねる【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第141回

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ある夜、わたしはふと、土仏をひねってみました。
深夜思いついて、土をひねりはじめると、いつの間にか神経がなだめられ、いい気分になっていました。だれに教わったわけでもありません。まな板で土をこね、スプーンは形つけに柄や腹をちょっと使い、つまようじで顔を描きます。
観音さまとお地蔵さまの、手のひらに入ってしまう掌仏(たなごころぼとけ)とでもいいましょうか。
どれもみんな微笑してかわいらしいのです。わたしはすっかり夢中になってしまいました。時間も空間もなくなって、仏たちと縹渺(ひょうびょう)と天空に遊んでいるような気分でした。
土仏たちがみんなわたしに慈眼を注いでくれました。それはまったく思いもかけない法悦と浄福のひとときでした。
思わず自分のつくった土仏たちに合掌して般若心経を唱えていました。

瀬戸内寂聴

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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