「余計なことはできるだけしない」故郷・宮古島で在宅医療に取り組む医師【10時のグッとストーリー】

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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

今日は、故郷・宮古島に診療所を作って、島民たちの在宅医療に取り組んでいるある医師のグッとストーリーです。

どこまでも続く青い海と珊瑚礁に囲まれた、沖縄・宮古島。
19年前、高齢化が進むこの島に在宅診療を行う医院「ドクターゴン診療所」を開業。宮古本島と周辺の5つの島を、車や船、時には自ら水上バイクを走らせて往診に駆け回っているのが、「ドクターゴン」こと、泰川恵吾(やすかわ・けいご)さん・53歳。
宮古島は、泰川さんの生まれ故郷でもあります。

「“ゴン”というのは、私が宮古にいた頃のアダ名なんです」

ドクターゴン診療所

宮古島に診療所を開いていたお父さんの後を継ごうと、東京の医大に入った泰川さん。
ゆくゆくは島に戻るつもりでしたが、入学してすぐお父さんが急逝。診療所は閉鎖になりました。
帰る場所がなくなった泰川さんは、宮古島に戻る夢を封印。外科医として、東京女子医大の救命救急センターに勤務。人の生き死にに直接関わる現場に立ち会ってきました。

最新の医療機器が揃った環境で、がむしゃらに救命医療に取り組み、多くの命を救ってきましたが、ある時、ふとこんな疑問が浮かびました。最新の医療技術で一命を取り留めても、その後ずっとただ生かされている状態になった患者は、それで本当に幸せなんだろうか…?
高齢化の影響で、お年寄りが多数運ばれてくるようになると、さらにその思いが強くなりました。

この人たちは病院ではなく、思いのつまった場所で、人生の最期を迎えたいんじゃないだろうか?
心の奥にしまっていた思いが甦ってきました。

「宮古島に帰って、在宅医療の診療所を作ろう」

1997年夏、泰川さんは救命救急センターを辞め、宮古島に戻り、「ドクターゴン診療所」をオープン。
生まれ故郷とはいえ、泰川さんは幼い頃に島を出て親戚も少なかったため、初めの頃は患者さんがほとんど来なかったそうです。泰川さんは、まず島のみんなに顔を覚えてもらおうと、飲み屋をハシゴして仲良くなり、在宅医療を紹介。そんな努力が実って少しずつ患者さんが増え、往診の依頼も来るようになりました。

ドクターゴン診療所

診療用ビークル(左から 近隣離島往診用高速船(船名:DENKICHI)、送迎車、ジェットスキー(船名:MARS))

ある日、宮古島と橋でつながった来間島(くりまじま)から、「93歳のおばあさんが、急に発熱した」という電話が入ります。さっそく往診に向かうと、おばあさんは肺炎を起こし危険な状況でした。応急措置を施すと、苦しそうな表情が穏やかになりました。さらに酸素吸入と抗生剤の点滴を始めようとしたところで、娘さんが一言。

「母は長いこと寝たきりでした。後は静かに見守りたいのです。畳の上で看取る覚悟はできています」

少し前まで、生死の境にある患者を救ってきた泰川さん。そんな危険な状況にある患者を、何もせず見守るのは初めてのことでした。それから毎日往診に通いましたが、家族は一切の処置を望まず、4日目の深夜、おばあさんは安らかに息を引き取りました。
家族に泣きながら「ありがとう」とお礼を言われた泰川さん。帰り道、車の窓を全開にして叫びました。「これで良かったんだ!」

その後も、多くの島民の最期を看取ってきた泰川さん。その中には、診療所を開設して以来、18年間往診に通った患者さんもいます。人口わずか30人の大神島(おおがみじま)に住む、ウメおばあ。
宮古島から水上バイクを飛ばして行くと、泰川さんの食生活を心配し、いつも昼ご飯を用意して待っていてくれました。
2年前、そのウメおばあにがんが見付かります。しかしおばあは手術を望まず、こう言いました。

「90を過ぎたし、島にいるよ。神様になるのは、順番さあ〜」。

宮古島にある長男の家で、安らかに逝ったウメおばあ。最期は幸せそうな表情でした。

在宅診療用の電子カルテを全国に先駆けて作ったり、携帯式の超音波診断装置などの最新の機器を導入した泰川さん。その上で、一番大切なことは「余計なことは、できるだけしない」。
12年前から、高齢化が進む神奈川県の鎌倉でも在宅診療を始め、宮古島と往復するという多忙な日々を送っています。
スタッフも増やし、後継者を養成していますが、泰川さんはこう言います。

「近い将来、日本社会は高齢化が進み、どこも宮古島や、鎌倉のようになっていきます。患者さんや家族の思いに沿った在宅医療を、これからも続けていきたいですね」

八木亜希子,LOVE&MELODY

番組情報

LOVE & MELODY

毎週土曜日 8:30~10:50

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