戦時中を背景に語られる『この世界の片隅に』生きる幸せ【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第104回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回の「しゃベルシネマ」は、『君の名は。』にハマった人にも是非観てほしい劇場アニメーション『この世界の片隅に』を掘り起こします。

戦時を背景に語られる、この世界の片隅に生きる幸せ

この世界の片隅に

昭和19年、18歳のすずは、顔も見たことがない若者と結婚。
生まれ故郷の広島県江波を離れ、日本一の軍港のある街・呉に嫁いできた。
それまでは得意な絵を描いて過ごすのんびりとした日常だったが、生活は急転、一家を支える主婦に。
戦争によって様々なものが欠乏する中でも、家族の毎日の食事を作るために創意工夫を凝らし、衣服を作り直し、慎ましくも穏やかな毎日を送っていた。

やがて戦争はますます激しくなり、日本海軍の拠点である呉はアメリカ軍による凄まじい空襲の標的に。
庭先でいつも眺めていた軍艦は燃え、街は破壊され、すずの身近なものも次々と失われていく。
それでも日々の営みは続き、昭和20年の夏を迎える…。

この世界の片隅に

『君の名は。』『聲の形』など、今年はアニメ映画のヒットが話題となっていますが、新たに注目したいのが、本作『この世界の片隅に』。
原作は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した、こうの史代の同名コミック。『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督が映画化しました。

主人公すずを演じたのは、女優・のん。
のんびりとした中にも芯の強さを伺わせる すず に、優しく柔らかく命を吹き込みました。
すずを囲むキャラクターには、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓ら実力派キャストが集結。

厳しい戦時下、前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描いています。

この世界の片隅に

本作で興味深いのは、戦争中の庶民の暮らしを丁寧に掘り下げていること。
食料が不足するなかでも、家族で食卓を囲む喜び。
空襲警報に怯えながらも連日の出来事になると次第に慣れ、防空壕の中でお喋りすることでさえ、いつしか楽しみに。
可笑しな出来事があれば共に笑い、誰かが困っていると知れば助け合い…。

戦争が暗い影を落とす中にも人々の暮らしはあり、戦争という影があるからこそ、これら日常の営みが決して“当たり前”ではなく、いかに愛おしいものであるかが伝わってきます。

この世界の片隅に

私たちは戦争を知らない世代ですが、いまこの世に生を受けているということは、戦争を生き延びた人々の命を受け継いでいるから。
徹底した原作追及、資料探求、現地調査、そしてヒアリングを積み重ね、すずの生きた世界観を丁寧に紡いだ本作は、私たちの毎日とつながっていることを実感させてくれます。

アニメとか実写とか、その表現方法を問わず、100年先まで語り継ぎたい映画です。

この世界の片隅に

この世界の片隅に
2016年11月12日からテアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:片渕須直
声の出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓 ほか
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト http://konosekai.jp/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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