さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回の「しゃベルシネマ」は、フランス映画祭2016で最高賞となるエールフランス観客賞を受賞した『92歳のパリジェンヌ』を掘り起こします。

「いままで本当にありがとう。幸せな人生だわ。」
92歳のバースデーパーティーの席で、集まった家族に感謝を述べるマドレーヌ。
しかし、その後に続いた言葉に、その場に居合わせた者たちは耳を疑った。
「2ヶ月後の10月17日に、私は逝きます。」

かつては助産婦として働き、子どもや孫にも恵まれて、現在は穏やかな老後を過ごしているマドレーヌ。
まだまだ元気な彼女だったが、数年前から書き記していてる「一人で出来なくなったことリスト」の項目が増えていることが気がかりで、周囲に迷惑をかける前に人生の幕を降ろしたいというのだ。

絶対反対を唱える家族たちと、決して揺るがないマドレーヌの意志。
母を説得しようと会話を重ねるうちに、娘のディアーヌは次第に、母の生き方やその強さに心を動かされていく…。

2002年、リオネル・ジョスパン仏元大統領の母であるミレイユ・ジョスパンが、自らの人生を終える日を決め、それを実行し、世間を騒然とさせました。
そのミレイユの娘で作家のノエル・シャトレが綴った小説「最期の教え」を原案に、映画化されたのが『92歳のパリジェンヌ』。

主人公のマドレーヌを演じるのは、84歳にして現役女優のマルト・ヴィラロンガ。
娘ディアーヌを演じるのは、近年は監督としても名を馳せているフランスの名女優、サンドリーヌ・ボネール。
監督を務めたパスカル・プザドゥーは原作小説に感銘を受け、自分の美学を貫き、美しく、凛としたまま人生を終える決意をした女性と家族が過ごす“最期の日々”を描き出しました。

本作のテーマは、尊厳死。
フランスでは尊厳死は認められていませんが、『みなさん、さようなら』や『海を飛ぶ夢』『母の身終い』など、その是非を問う映画はこれまでにも多く製作されています。

死を決意して準備を淡々と進めるマドレーヌは決して重苦しくなく、生き生きとユーモアにあふれ躍動的。
むしろ残された時間を愛おしむかのように、生を堪能しています。
若い頃は活動家で様々な運動に参加し、恋も謳歌したひとりの女性が最期まで“自分”を保とうとする姿には、凛とした清々しささえ感じさせられてしまいます。
一方、娘は母の想いを受け入れるものの、息子は断固反対。
残される家族ひとりひとりの心情も丁寧に映し出しており、「自分らしい終わり方」を描くと同時に、「どう生きたいか」を私たちに問いかけてきます。

フランス映画らしいエスプリの効いた作風でありながら、観終わった後には様々な想いが去来する本作。
もしも、家族がマドレーヌと同じような決断をしたら、どうすればいいだろう…。
そして自分が年老いたとき、どんな幕引きを望むだろう…。
簡単に“答え”が出せないテーマではありますが、高齢化社会となった今だからこそ、なお自分自身に置き換えて考えるべきテーマなのではないでしょうか。

92歳のパリジェンヌ
監督・脚本：パスカル・プザドゥー
原作：ノエル・シャトレ
出演：サンドリーヌ・ボネール、マルト・ビラロンガ、アントワーヌ・デュレリ、グレゴール・モンタナ、ジル・コーエン ほか
公式サイト：http://gaga.ne.jp/92parisienne/
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