札幌駅「ジンギスカンあったか弁当」(1,000円)~1日1本!札沼線・新十津川行の旅② 【ライター望月の駅弁膝栗毛】

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石狩月形駅でキハ40の交換

石狩月形駅でキハ40の交換

札幌の1つ隣・桑園(そうえん)と新十津川(しんとつかわ)を結ぶJR札沼線(さっしょうせん)。
沿線に学校が多いため「学園都市線」の愛称があり、途中の北海道医療大学駅までは札幌都市圏の一部となっています。
しかし、北海道医療大学以北は、2~3時間に1本程度の単行気動車が走る超ローカル線。
特に終点・新十津川まで行く列車は、石狩当別7:45発の1日1本のみ。
そんな5425D普通列車新十津川行で、途中の石狩月形駅までやって来ました。

札沼線の車窓

札沼線の車窓

石狩月形で上り列車から駅員さんを介して「スタフ」という“通行手形”を受け取り、5425D列車は定刻通り発車。
キハ40が1両で「鉄分濃いめ」の人たちを乗せて、石狩川の右岸をのんびりと北上していきます。
車窓右手は石狩川沿いの田園風景、左手は樺戸連山~増毛連峰と続く山並みです。
10月下旬の沿線はまだ紅葉が残り、山の上は雪化粧といったところ。
北海道の本格的な冬がスグそこまで来ているのかもしれません。

新十津川駅

新十津川駅

札幌からちょうど2時間半の9:28、札沼線の終点・新十津川駅に到着しました。
無人駅ながら地元の方によってきれいに掃除された小さな駅舎には「祝・新十津川駅開業85周年」の文字が・・・。
実は新十津川駅の開業は、昭和6(1931)年10月10日のこと。
今月10日には地元主催で「新十津川駅85周年を祝う会」が行われたばかりなのです。
「新十津川」は奈良・十津川村を明治の大水害によって追われた人たちが開拓した土地。
最初は石狩川を舟で渡ったといいますから、自分たちが切り拓いた土地に汽車が通ったことは、とても大きな喜びだったに違いありません。

参考:新十津川町ホームページ

新十津川駅のキハ40

新十津川駅のキハ40

「札沼線」の線路は、新十津川駅の砂利が敷かれたホームから少し先で途切れています。
札沼線は昔、留萌本線の石狩沼田(いしかりぬまた)駅まで繋がっていました。
札幌と沼田を結ぶ路線ということで「札沼線」だったワケです。
ただ、戦時中は「不要不急線」として運行休止され、線路は撤去され樺太へ移設されました。
戦後復活したものの、今度は国鉄の赤字が拡大、昭和47(1972)年に新十津川~石狩沼田間が廃止されました。
「札沼線」として機能したのは、戦前の8年間と戦後の21年間のみ。
今の姿になって、来年で「45年」になろうとしています。

参考:雨竜町ホームページ

新十津川駅の時刻表

新十津川駅の時刻表

今、新十津川駅にやってくる列車は、乗ってきた9:28着の列車1本のみ。
わずか12分で折り返し、次に列車がやってくるのは24時間後。
この列車が「初列車」にして「終列車」なのです。
各メディアでは「札沼線・北海道医療大学~新十津川間」の厳しい未来が報じられています。
でも、地元の皆さんは、決して「鉄道」への愛を失ってはいません。

新十津川駅のお見送り

新十津川駅のお見送り

実は新十津川駅に列車で来ると、駅前にある空知中央病院の保育所の子供たちが、先生と一緒にお出迎え、お見送りをしてくれるのです。
下りたお客さん1人1人にポストカードを手渡してくれることも・・・。
先生によると、平成23(2011)年7月から週末も含め、天気が悪くても毎日行っているといいます。
ただの普通列車に乗っただけでこんなに歓迎してくれる駅は、全国でもまずありません!
折り返しの準備を終えた1両のキハ40は、子供たちの可愛らしい「いってらっしゃ~い!」の声と共に石狩当別に向けて発車していきます。

新十津川駅到達証明書

新十津川駅到達証明書

新十津川駅を出て左に向かうと、徒歩5分ほどで「新十津川町役場」があります。
その足で1階の産業振興課へ行くと「日本一かわいい終着駅到達証明書」を貰えます。

で・・・新十津川はなぜ「列車が1日1本」でも、地元から大きな声が上がらないのか?
「札沼線」は石狩川の右岸を北上していますが、左岸には「函館本線」が並行して走っています。
この新十津川役場から路線バスに乗ると、簡単に函館本線・滝川(たきかわ)駅へ行けます。
新十津川9:40発の札沼線普通列車ですと、途中、石狩当別乗換えで札幌には12:15着。
一方、新十津川役場9:50発の路線バスで滝川駅へ出て、特急「スーパーカムイ16号」に乗継ぐと札幌11:25着。
新十津川からは、滝川経由で札幌へ向かったほうがトータルで1時間も早いんです。

ちなみに今回は「滝川⇒新十津川」という酔狂なきっぷで札沼線に乗車してみました。
下車時に「無効のサイン」をいただく際、運転士さんも思わず絶句されていました。
バスなら「14分・230円」で行ける所を「1泊2日・3,240円」もかけて移動している訳ですから。

ジンギスカンあったか弁当

ジンギスカンあったか弁当

新十津川の対岸・滝川市は「味付けジンギスカン発祥の地」と言われています。
今回の札幌駅弁は、北海道らしくジンギスカン!
札幌駅立売商会の「ジンギスカンあったか弁当」(1,000円)です。
毎年冬場になると発売されている、ひもを引っ張って温まる加熱式駅弁。
今シーズンも3連休明けの10/11から販売が始まりました。

ジンギスカンあったか弁当

ジンギスカンあったか弁当

平成16(2004)年、北海道の郷土料理として「北海道遺産」にも認定されたジンギスカン。
ルーツには諸説ありますが、第一次世界大戦で欧州の羊毛が入手できなくなって国産自給が求められ、羊の飼育が始まったことが北海道の羊肉料理の始まりといわれています。
ジンギスカンの食べ方は2種類あって、焼いた肉にタレを付けて食べるのが「札幌式」。
タレに漬け込んだ肉を焼いて食べるのが「滝川式」で道内でも地域によって食べ方が異なります。
滝川では「ルーツは滝川種羊場、普及は松尾ジンギスカン」という認識が一般的だそうです。

参考:滝川市ホームページ

ジンギスカンあったか弁当

ジンギスカンあったか弁当

「ジンギスカンあったか弁当」は『オリジナルの特製タレに漬けこんだ肉を使用・・・』とあります。
札幌駅弁ですが、ジンギスカンとしては「滝川式」といえそう。
漬けこんだ肉にしているのは「駅弁」として販売する上で、特有の匂いを軽減するため。
ひもを引っ張り、8分待ってふたを開ければ、白い湯気と共に香ばしいタレの匂いが辺りにいっぱい!
コレが食欲をそそるんですよね!
その勢いで思い切り肉に喰らいつけば、寒さに縮こまっていた体も元気が出てきそう。
凍てつく北海道の冬だからこそ、旅行者に有難い加熱式の駅弁でもあります。

石狩川

石狩川

新十津川からの滝川行路線バスは、軽快に北海道を代表する大河・石狩川を渡っていきます。

札沼線が敷かれたのは、石狩川に橋を架けるのが大変だった時代。
沿線の浦臼には平成23(2011)年まで、美唄(びばい)への渡船が残っていました。
そういう時代は「札沼線」の存在意義もあったのかもしれません。
時代は移り変わり、丈夫な橋も架けられ、函館本線の駅へ簡単に行けるようになりました。
部分廃止から45年も鉄道が続いてきたのは、地元の皆さんの鉄道愛の賜物ではないかとも。
余裕のある時期なら何とかなりましたが、今は厳しい経営状態と伝えられるJR。
わずか1往復のワンマン列車でも、雪の多い所で安全に列車を運行するには、保線作業など様々なメンテナンスを定期的に行わなくてはなりません。

でも、鉄道の存在が、町の知名度を上げていることも確か。
私自身、札沼線が無かったら、新十津川へ足を運ぶことは無かったでしょう。

無くすのは簡単ですが、失った鉄道は二度と戻りません。
コスト、利便性、地元の皆さんの鉄道への思い・・・、果たしてどんな形で着地するか?
まだまだ注目が集まる「札沼線」です。

(取材・文:望月崇史)

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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