安保法違憲訴訟で請求棄却~時代は変わり「理想的な平和主義」から「現実的な平和主義」へ

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月8日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。安全保障関連法は違憲とする訴えを東京地裁が破棄したニュースについて解説した。

安保関連法をめぐる違憲訴訟、東京地裁が請求を棄却

集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は違憲で、施行により精神的苦痛を受けたとして、市民ら1553人が国に1人当たり10万円の慰謝料の支払いを求めた訴訟の判決が7日、東京地裁で行われた。裁判長は原告に「損害賠償で保護すべき利益はない」と述べ、請求を棄却している。なお、憲法判断はしなかった。原告側は控訴する方針。

飯田)平和的生存権の侵害だと訴えたそうです。

宮家)私はこれでも法学部出身なので、思い出すのですよ。学生のころ、やはり自衛隊違憲訴訟などの多くの違憲訴訟が出ていました。しかし随分、時代は変わったという印象です。昭和40年代のころと比べると、いい意味で成熟したと思います。まず、今回地裁は事実上門前払いしているのですよね。損害賠償で保護すべき利益はない、というのは当たり前です。こんなことにいちいち苦痛を受けていたら大変な話になるわけで、これは1つの司法判断だと思います。憲法判断もしなかった。原告はご不満でしょうから控訴はするのだろうけれど、こういう時代になったということでしょう。逆に言うと、今もこういうことを言っている人がいるのかという気持ちにもなります。

冷戦時代の「理想的な平和主義」から「現実的な平和主義」へ

宮家)1940年代、50年代、60年代以降に冷戦があって、完全に日本は守られていました。悪く言うと、一種の温室のなかにいたのです。しかし冷戦の時代はもう終わり、北朝鮮は核兵器を持ち始め、中国が台頭して来た。60年安保、70年安保の世代からすれば、当時の思想観とはまったく違う思想観を持つべき大きな環境の変化があるわけですから、それに応じて国民も徐々に成熟されているのだと思います。こういう判決でも、不満な人は不満でしょうが、社会が動揺するわけでもない。日本も成熟したものだという感じを持ちました。

飯田)しかし、逆にそれだけ突きつけられているということでもありますよね。

宮家)多くの国民は、違憲だったらどうなのだと思っているのではないでしょうか。実際に日本に対する脅威が増していて、中国などの公船が来ている例もありますから、やはりこれは無視はできません。そのことは国民も理解しているのだと思います。今回の判決を聞いて、日本も理想的な平和主義から、現実的な平和主義に移行しているのだなぁと、象徴的な印象を持ちました。

飯田)いまはアメリカとタッグを組んで、抑止力で日本を守るのが常識的な守り方なのだろうという議論になっています。

宮家)別にアメリカでなくてもいいのですけれどね。日本への脅威は、今や北から来るわけではありません。北海道にはもう来ないかもしれないのです。むしろ南の海に船が来たりする。そうなれば、日本はどのような同盟国を見つけるべきなのか。自分で全部防衛できればいいけれど、できないから同盟国を選ばなくてはいけない。その同盟国は、脅威が南の海から来るのだから、当然海洋国家になります。そうなればおのずと対象は限られて来る。ペルシャ湾で有志連合を行ったのはアメリカであり、イギリスであり、オーストラリアです。日本の同盟国は海洋国家であり、大陸国家ではないのです。

安保法違憲訴訟で請求棄却~時代は変わり「理想的な平和主義」から「現実的な平和主義」へ

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

安全にはコストがかかる

飯田)周辺環境や地球儀全体を見ると、宮家さんも指摘されていますが、1930年代のような世界になりつつある。そうすると大国同士のパワーゲームのなかで、日本という国がどうやって生きて行くのか。

宮家)巻き込まれ論がいつもあるのだけれど、巻き込まれないために自分も防衛力をしっかり持って、不必要な隙をつかれないようにすることで、巻き込まれる状況から脱却する。その方が現実的だと思いますし、そういう考え方が少しずつ増えている気がしますが、どうですかね。

飯田)現場というか、情勢からの積み上げで考えると、冷戦時代から何となく残っているGDPの1%の防衛費というのは、はたして適切かというところですよね。

宮家)科学的ではないですね。たまたま1%だったわけで、NATOは2%だけれど、その2%にも根拠があるわけではない。しかし目安としてはありますよね。アメリカは3~5%くらいでしょう。中国はもっと使っていますからね。

飯田)技術開発費はまた別という話もあります。

宮家)自分たちが1%だから相手も1%にしてくれるとか、そういうことではありません。周りの状況の変化に応じて、パーセンテージで議論する時代はとっくに終わっているのだと思います。

飯田)一部の指摘なのですが、そろそろ韓国と日本の防衛費が逆転して、日本の方が低くなるという話があります。

宮家)韓国は本気で自国を守らなければいけませんし、実際に戦争もありました。日本はいい意味でも悪い意味でも島国で、海に守られていますから、もしかしたら韓国の方がお金がかかるようになるというのは、あり得る話かもしれません。忘れてはいけないのは、「安全にはコストがかかる」ということです。

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