ラグビー日本代表・福岡を目覚めさせたジョーンズHCの一言

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月20日のラグビーワールドカップ(W杯)・南アフリカ戦を最後に、15人制日本代表を引退。新たな道を目指す、福岡堅樹選手にまつわるエピソードを取り上げる。

ラグビー日本代表・福岡を目覚めさせたジョーンズHCの一言

【ラグビーW杯2019日本大会 日本代表対スコットランド代表】前半、トライを決める日本代表・福岡堅樹=2019年10月13日 日産スタジアム 写真提供:産経新聞社

「ここまで頑張れたのは、ここ(W杯)が最後だからです。後悔はありません」(福岡)

史上初めてW杯で8強入りを果たし、開幕から1ヵ月、日本中を沸かせ続けた「ブレイブ・ブロッサムズ」こと、ラグビー日本代表。

注目の準々決勝は20日、東京スタジアムで行われ、日本は優勝候補の南アフリカと激突。前回のW杯では1次リーグで対戦し、日本が勝って「世紀の大番狂わせ」と世界中に衝撃を与えてから4年。今度は負けたら終わりのノックアウトステージ(決勝トーナメント)で、本気も本気の南アフリカと再び相まみえることに。

前半こそ、3-5という野球並みのロースコアで、王者と互角に渡り合った日本でしたが、「ハーフタイムで選手が少しダウンしていた」(ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)。

後半は徐々にフィジカルとパワーの差が出始め、南アフリカはスクラムとモールで日本を圧倒。何とか押しとどめようと踏ん張った日本でしたが、終盤、立て続けにトライを決められ万事休す。3-26で桜は散り、ブレイブ・ブロッサムズのW杯は終わりを告げました。

ただ、敗れたとはいえ、1次リーグでアイルランド、スコットランドという世界屈指の強豪を撃破し、4戦全勝で1位通過。体格の大きい海外勢を向こうに回し、いくつもの攻撃パターンと、スピード感あふれるプレーでベスト8に駒を進めた日本の戦いぶりは、海外メディアからも絶賛されています。

その象徴が、松島幸太朗との俊足コンビで「Wフェラーリ」の異名を取り、1次リーグで3試合連続トライを決めた、身長175センチのWTB(ウィングスリークォーターバック)・福岡堅樹です。

1992年、福岡生まれの27歳。5歳からラグビーを始め、福岡高校時代は、花園(全国高校ラグビー)出場も経験しました。県内でも有数の進学校で、ラグビーと勉学を両立させて来た福岡には、複数の強豪私立大から入学の誘いが来ましたが、福岡が目指したのは国立大受験、しかも「医学部」でした。

祖父が内科医、父が歯科医という家庭で育った福岡は、幼いころから自然と「将来は医師になりたい」という夢を抱いて来ました。しかし、受験した筑波大学医学専門学群には不合格に……。

「やはり、ラグビーと医師の二兎は追えない」と痛感した福岡は、一浪の末、筑波大学の情報学群に進学。「医師は後からでも目指せるが、ラグビーはいましかできない」と、まずは大学でラグビーを究めることにしたのです。ただし、医師になるために必要な勉強は、短時間でもコツコツと続けて行きました。

大学2年のときに、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)率いる日本代表に初選出。4年生だった2015年、前回W杯のメンバーに選ばれましたが、出場したのは大敗を喫したスコットランド戦のみ。チームメイトたちが南アフリカ戦の大金星に沸き上がるなか、自分は何も貢献できていないと、一人落ち込んでいたそうです。

そんな福岡に「常に全力を出せ」とアドバイスしたのが、ジョーンズHCでした。文武両道を支えていた「要領のよさ」が、逆にマイナスになっていると指摘。「後先のことを考えていては強くなれない。常に100%の力を出せ」と指摘されたことが、自慢の快足を磨くことにつながったのです。

今回の南アフリカ戦でも、4試合連続トライはなりませんでしたが、俊敏な動きで相手の攻撃を食い止めるなど、存在感を示しました。ノーサイドの瞬間、ピッチ上にしばらく立ち止まり、同学年のWTBコンビ・松島と抱き合った福岡。

15人制日本代表からはこれで退き、今度は7人制代表として東京五輪を目指します。そして五輪終了後、かねてからの夢である医学部を受験すると公言している福岡。

「サイズ(身長)のない人たちが、どうやってフィジカルな競技で戦って行くか。その希望になれば嬉しいです」

「余裕がない」「どうせ自分には無理だ」……そうやって簡単に諦めず、夢を持ち続け、努力を続ければ、いつか道は開ける。そのことを、身をもって示してくれた福岡。五輪でのメダル、そして医師の道へ……次なる“トライ”を目指して、まだまだ福岡の戦いは続きます。

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