トルコがシリアで停戦合意~日本へも悪影響を及ぼす理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月18日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トルコがシリアで停戦合意したニュースについて解説した。

トルコがシリアで米と停戦合意~5日間でクルド人民兵退避

アメリカのペンス副大統領は17日、トルコのエルドアン大統領と会談し、シリア北部の停戦で合意したと明らかにした。シリア北部でトルコが5日間停戦する間に、クルド人の民兵組織「人民防衛部隊」を退避させることで合意したということだ。

飯田)これを停戦と呼ぶのですか?

宮家)トルコはこれを停戦とは言っていないのですよ。5日間の猶予期間を与えるから、その間に撤退しなさいと言っているのです。「5日間はあげるから、その間にどいてくれ。トルコ軍がそこを取るから。そうしたら人が死なないで済むだろう」ということです。要するにトルコとしては、何ら譲歩していないということです。

トルコがシリアで停戦合意~日本へも悪影響を及ぼす理由

シリア北部カミシリで営まれた、トルコ進撃に伴う戦闘で死亡したクルド人民兵の葬儀(シリア・カミシリ)=2019年10月14日 写真提供:時事通信

ISに1万人もの犠牲を出した大同盟国であるクルド人を見捨てたアメリカの罪

宮家)私はこれに対して、本当に腹が立っているのですよ。アメリカは一体どんな国になってしまったのかということです。シリアのクルド人は、トルコはテロリストだと言っているけれど、アメリカにとっては大同盟者ですよね。シリアでIS、いわゆるイスラム国が蔓延ったときには当初誰も手が出せなくていた。そのなかでシリアのクルド人が1万人もの犠牲者を出して戦ったからこそ、アメリカは2018年末にIS掃討作戦は成功したと宣言した。しかも、アメリカ兵は3人しか死んでいないのですよ。クルド人は1万人も死んでいる。あれだけの犠牲を出した同盟者を、アメリカはいとも簡単に見捨てたのです。これをやられたら、アメリカの同盟国は「自分たちはどうなるのか」となる、世界中の人々がひっくり返っているわけです。アメリカ国内の共和党の心ある人たちも、みんなおかしいと思っている。

飯田)超党派で、決議を出そうかという話も出ていますよね。

宮家)出ていますね。あとは上院の共和党がどうなのかということですが。いずれにせよトランプさんの直感というか、勢いと偶然と判断ミスは極まったという感じです。しかもその直後に、トランプさんはエルドアン大統領に手紙を出しています。その書簡が外に出ているのだけれど、これを読むと酷いですね。文法的におかしいし、中身もすごい。トルコの大統領に対して「バカなことはやめろ」「タフガイをやっている場合ではないだろう」と言っているのだから。そして最後に「あとで電話する」と結んでいるのですが、誰もそんな電話を受けてくれるわけがないでしょう。

飯田)直接ペンスさんが行きましたね。

宮家)変わった時代になってしまったと思いました。

飯田)メールでもいただいております、荒川区の方から。「17日の産経の宮家さんのコラム、『ワールドウォッチ』を読みました。アメリカがシリアからの撤退を決め、トルコが進行中と、中東が危険な状態になっていますよね。トランプさんは、ブレーンをどんどん辞めさせて行ってどうなのでしょうか。どんどん方向がおかしくなっているような印象もありますが、見立てはいかがでしょうか?」と。

宮家)シリアからの撤退という話、実は今回が初めてではなくて、2018年の末にも同じような話があり、実際にトランプさんによって発表されています。私に言わせればトランプ政権の最後の賢人、マティス国防長官がそれで辞めてしまった。その後はボルトンさんという、どちらかと言うと強硬なあの人ですら、政権を辞めてしまった。もうトランプさんの周りには、ほとんど外交安保のプロはいないと思います。残ったのはトランプさんの言うことだけは全部聞くイエスマンばかり。これで正しいアドバイスができるのか、心配になりますけれどね。

トルコがシリアで停戦合意~日本へも悪影響を及ぼす理由

米特殊部隊の機密暴露か イラクのアサド空軍基地を訪問し、帽子にサインしようとするトランプ米大統領=2018年12月26日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

シリアだけではなく、アメリカの同盟国全体に悪影響を及ぼす大きな事件

飯田)この「ワールドウォッチ」でも書かれていますが、これはただ中東で起こっていることというよりは、同じアメリカとの同盟国である日本、東アジアが…。

宮家)日本はまだしっかりしていますよ。しかし、例えば韓国は大丈夫なのか。ヨーロッパだって東欧の国々は、アメリカの支援がなかったら立ち行かない国もかなりあるのですよ。彼らは大丈夫なのか。

飯田)あっという間にロシアが。

宮家)バルト三国やポーランドもそうです。今や米国の同盟国は、一体誰を信じたらいいのかという大きな問題を抱えています。この点を英語のコラムにも書いたのですが、早速アメリカの友人から「よくぞ言った」というメールが来ました。要するに、米国人の彼も「酷いことになった」と思っているわけです。これはただ単にシリアでの問題なのではなくて、世界的な規模で、アメリカの同盟国全体に悪影響を及ぼす非常に深刻な事件だと、私は思います。

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