元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

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【ペットと一緒に vol.167】by 臼井京音

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

ひとりの少女が犬との出会いによって成長して行く様子が紡がれている、映画『駅までの道をおしえて』。

主人公の少女と共に暮らした柴犬ルー、そして名演技を披露した元野犬の雑種ルース。犬と少女の間に築かれた実際の深い絆によって、真情あふれる名作になりました。今回は、銀幕を彩る名犬2頭の秘話を紹介します。

 

脱走癖のあった野犬の第3の犬生とは

2019年10月18日公開の映画『駅までの道をおしえて』には、2頭の犬が登場します。主役犬の白柴のルーに負けず劣らずの存在感を放つ、ブラックマズルと凛々しい立ち耳が印象的なルースは、保護犬出身。しかも、山で暮らしていた元野犬でした。

「ルースの本名はミノルカと言います。実は、譲渡先から脱走をしてしまい、当団体に出戻ったという経歴の持ち主なんです。でも、次第にもともと持っていたフレンドリーな性格が引き出されたのでしょう。人におんぶをしてもらうのが大好きに(笑)。ドッグトレーナーさん宅での預かり期間を経て、新しい里親さんも見つかりました」と、動物愛護団体アニマルレフュージ関西(ARK)のスタッフは当時を振り返ります。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

おんぶが大好きなミノルカ

そんなミノルカと譲渡会で出会って引き取った、現在の飼い主で漫画家の玉越博幸さんをはじめ、主人公を演じる新津ちせちゃん、ミノルカの一時預かりをして映画のドッグトレーニングを担当した西岡裕記さんのトークセッションや、映画のメイキング映像『ちせとルーの18ヵ月』の上映がある特別発表会(2019年10月8日)に、筆者は参加しました。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

トークセッションの様子 左から西岡さん、玉越さん、ちせちゃん

誰よりも大きく成長したのは……

トークセッションでミノルカについて聞かれた西岡さんは、次のように語ります。

「フォスターとして共に生活していたとき、ミノルカは工事の音を怖がったり、元野犬ならではの神経質な面を見せていて心配しました。でも、撮影に入ったら人も現場もどんどん大丈夫になって来て。この1年半、誰よりも成長したのはミノルカなんじゃないかと思っています」

ちせちゃんも言います。「ミノちゃんは、人がいるところでもフツウなの」と。ミノルカが映画スタッフからも愛情をたっぷり注がれて受けとめたからこそ、人を信頼するようになり、人とのコミュニケーションも円滑にできるようになったのでしょう。野犬出身であっても、人と幸せに暮らせる大きな可能性を秘めていることを、ミノルカは教えてくれます。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

映画のワンシーン ちせちゃんとミノルカとフセ老人役の笈田ヨシ

「ミノルカは焼きもち焼きなんですよ。それをそばで見ているルーまで、最近は同じようになって来ました」と、玉越さんは笑います。

玉越さん夫妻は、映画の撮影が終了したあとに、監督からの提案でルーを譲り受けたそうです。「ミノルカやこの映画との出会いは、まるで奇跡のよう。さらにルーまで我が家に来てくれたことも奇跡です」とも、玉越さんは語ります。

 

新津ちせちゃんとルーの18ヵ月の生活

『駅までの道をおしえて』のオーディション参加の条件は、出演が決定したらルーと生活を共にすることでした。主人公のサヤカ役への合格をちせちゃんに伝えるところから、『ちせとルーの18ヵ月』のメイキング映像は始まります。

ちせちゃんは、うれし泣きをしていました。「ウキウキわくわくして、ルーが来る日を折り紙に書いて部屋に貼っていました。ルーが来る日は、早く起きて待っていました」と、ちせちゃん。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

トークセッション終了後 久々にルーと会って大喜びのちせちゃん

小学校低学年のちせちゃんですが、ルーにごはんをあげ、おもちゃで遊び、散歩に行き……。と、初めての犬であるルーの面倒をがんばってみていたそうです。撮影中も自宅でも、ずっと一緒だったちせちゃんとルーの間に、深い絆が築かれて行ったのは想像にかたくありません。映画を見ると、実際に育まれたちせちゃんとルーの絆が、ひしひしと伝わって来ます。

メイキング映像の最後は、クランクアップのシーン。ちせちゃんは、「ルー、ルー」と大粒の涙を流し、いつまでもルーを撫でていました。「ルーとの別れが悲しいからっていうのもあったし、複雑な感情」で、ちせちゃんは泣いてしまったそうです。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

いつも一緒だったルーとちせちゃん(映画のワンシーン)

そんなちせちゃんがもっとも印象に残っているのは、雪のシーンだとか。ルーが走り回っている姿が、楽しかった思い出として胸に刻まれているそうです。

 

愛犬の帰りを待つ少女と、ひとりぼっちの老人が出会い……

映画『駅までの道をおしえて』は、伊集院静原作の、ひとりぼっちの少女と老人の友情を描く物語。

少女サヤカは、愛犬ルーの帰りを待ちわびています。喫茶店のマスターであるフセ老人は、先立った息子との再会を願っています。1頭の犬に導かれて2人は出会い、互いの喪失感を分かち合ううちに新しい“何か”を築いて行きます。

犬と人、人と人。種を超え、年齢を超え、心寄り添えること、命が命を輝かせられることを、あらためて感じずにはいられません。

元野犬が映画で名演! 主役の少女と犬は18ヵ月同居し真の絆を育む~『駅までの道をおしえて』

特別発表会にて

『駅までの道をおしえて』
10月18日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

脚色・監督:橋本直樹
原作:伊集院静『駅までの道をおしえて』講談社文庫
出演:新津ちせ/有村架純/坂井真紀/滝藤賢一/マキタスポーツ/羽田美智子/余貴美子/柄本明/市毛良枝/塩見三省/笈田ヨシ

映画公式サイト:https://ekimadenomichi.com/
(c)2019映画『駅までの道をおしえて』production committee

■寄付という一歩で小さな奇跡を。
https://www.animaldonation.org/ekimichi/

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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