「長い」ではなく、『永い言い訳』 【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第85回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回の「しゃベルシネマ」では、日本映画界が誇る女性映画監督のひとり、西川美和監督の最新作『永い言い訳』を掘り起こします。

自らの著作を完全映画化した、新たなテイストのラブストーリー

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ある番組のインタビューで初めてお会いしたとき、「才色兼備という言葉はこういう人のことを指すんだろうなぁ」と、思いました。
その人の名は、西川美和さん。
『ゆれる』『ディア・ドクター』をはじめ、鋭い人間観察力と描写する技量でこれまで発表した作品は、どれも秀作ばかり。
原案・脚本・監督をすべて自身で務め、ゼロから映画を構築していくフィルムメイカーは、国内に限らず、現在の映画制作の現場においては杞憂な存在でもあります。
そんな西川監督の最新作『永い言い訳』は、第153回直木賞候補にもなった自著を映画化。
他人の家族との交流を通じて人を愛することの素晴らしさを実感する男を描いた、ラブストーリーです。

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“津村啓”というペンネームで活躍する人気小説家の衣笠幸夫は、長年連れ添った妻を突然のバス事故で失ってしまう。
しかし妻との間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、死の知らせを受けた時は、不倫相手と密会中。
世間に対しても、妻を亡くして悲しみに暮れる悲劇の主人公を装い、涙を流すことすら出来なかった。

ある日、同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と会うことに。
トラック運転手の大宮は、幼い2人の子どもを遺して妻が旅立ってしまったことに憔悴しきっていた。
幸夫はふとした思いつきから、幼い兄妹の面倒を見ることを申し出る。
何故、そのようなことを口にしたのか、その理由は幸夫自身もよく分かっていなかったのだが…。

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主人公の衣笠幸夫を演じるのは、演技派としてますます凄みを増している本木雅弘。
その妻役に深津絵里、大宮役に竹原ピストル、さらには池松壮亮、黒木華、堀内敬子、山田真歩が脇を固めるなど、魅力的な顔ぶれが揃いました。
またオーディションで選ばれた子役たちのナチュラルで屈託のない存在感が、本作により深みを与えています。
ほかにも「え、あの人が?!」という人気俳優がカメオ出演していたり、遊びゴコロあふれるキャスティングに注目ですよ。

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人が誰しも心の奥底に持っている性悪な感情や自覚しがたい心理を、繊細かつ鋭く描く西川演出。
俗に言う“人間の(性[さが]の)グレーゾーン”を描くのが巧い監督さんだなぁ〜と、作品を拝見するたびに思います。
それでもどこか温かな気持ちになることが出来るのは、「人間は不完全な生き物だからこそ愛おしい」というような西川監督のメッセージが込められているから…と思ってしまうのは、私だけでしょうか。

それにしても『永い言い訳』とは、意味深なタイトル。
「長い」ではなく、「永い」。
生きていく限りつきまといそうなこの言葉の重さも、嫌いではありません。

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永い言い訳
2016年10月14日から全国ロードショー
原作・監督・脚本:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里 ほか
©2016 「永い言い訳」製作委員会 PG-12
公式サイト http://nagai-iiwake.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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