報道部畑中デスクの独り言

日本の技術の「誠実さ」「粘り」…そして今後の課題

「報道部畑中デスクの独り言」(第148回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、各自動車会社が開発するモノづくりの「誠実さ」について—

ホンダ・シビック(初代)(ホンダ・シビック-Wikipediaより)

日本の実験棟「きぼう」がNASAの厳しい基準に、技術で誠実に応えたという話を前回の小欄でお伝えしました。思えば、日本にはこうした誠実さを感じさせるモノづくりや、諸外国がハードルの高さにさじを投げた技術を、日本が持ち前の粘りでモノにしたケースが少なくありません。

まずはホンダ(本田技研工業)が開発した「CVCC」。大気汚染が世界的に社会問題化するなか、1970年にアメリカが通称「マスキー法」なる法律を制定しました。正式には「大気浄化法改正法」、当時の上院議員だったエドムンド・マスキー氏の提案によることから、このような通称がつけられました。

内容は、1975年以降に製造する自動車の排出ガス中の一酸化炭素、炭化水素の量を1970~1971年型の10分の1以下にするという厳しいもので、アメリカの当時のビッグ3(GM・フォード・クライスラー)の反発もあり、法律そのものは紆余曲折をたどりました。

ホンダはF1に代表されるスポーティイメージも強いが…(ホンダ本社で)

しかし、その規制を世界でいち早くクリアしたのが、日本のホンダでした。「CVCC」と呼ばれるエンジンは、低い濃度の燃料(混合気と呼ばれます)で燃焼することによって、有害物質を低減するシステムでした。しかし、濃度が低すぎると不完全燃焼により、逆に有害物質が増えてしまいます。その困難を、副燃焼室をつくることによって解決したのです。

当時は画期的な技術とされ、ホンダのブランドを大いに高めました。ホンダはF1などのスポーティなイメージも強いのですが、環境問題にいち早く挑んだメーカーでもあるのです。数年前、ホンダの幹部と話したとき、「ウチは安全と環境なのだ」と強調していたことを思い出します。

マツダ・コスモスポーツ(初代)(マツダ・コスモ-Wikipediaより)

以前小欄でもお伝えした、マツダのロータリーエンジンもまたしかりです。ピストンの往復によって出力を生み出すレシプロエンジンと違い、おむすび型のローターが回転することで出力を得るのが、ロータリーエンジン。もともとはドイツの技術でしたが、自動車用として実用化にこぎつけたのは日本のマツダでした。

詳しくは他の文献に譲りますが、このエンジンは様々な困難に直面しました。最大のものは、技術者の間で「悪魔の爪痕」と呼ばれた「チャターマーク」なるもの。ローターの「おむすび」の3つの頂点には、「アペックスシール」というエンジンの気密性を保つ部品があるのですが、ローターが高速回転する際に、それがローターを覆うハウジングの内壁にひっかき傷をつくってしまうのです。

ハウジングが傷で摩耗しては、エンジンの耐久性は保てません。しかし、マツダはこのアペックスシールの素材や構造を、新設計することで克服しました。その素材はアルミニウム合金のカーボン複合素材というものでしたが、開発段階ではそれは何でも…牛の骨までも試されたそうです。

トヨタの燃料電池自動車「ミライ」

そして21世紀の現在、日本の「粘り」と「誠実さ」を感じさせる技術は、やはり燃料電池自動車でしょう。トヨタが2014年に発表した「ミライ」で、量産化への道が開かれました。

燃料電池車というのはご存知の通り、水素と酸素の化学変化で電気を発生させ、その電気で車を動かすというものです。排出ガスは水、「究極のエコカー」と呼ばれる所以です。

しかし化学変化の際、水素は水素イオン(H+)と電子(e-)の状態で流れます。この状態は硫酸並みの強い酸性を呈するため、燃料電池に使われる電極触媒には、この強酸に侵されないような貴金属が必要です。

トヨタは燃料電池車をバスにも展開しているが…

その他、強靭な水素タンク、凍結対策などに伴う高コストが市販化の大きなネックで、かつては「宝くじが当たっても買えない」と言われました。当時のトヨタの説明では、水素タンクの小型化や、ハイブリッド車と部品を共用化することでコストを抑えたということでした。

現在の市販車両の価格は720万円あまり、結構な値段ですが、ドイツの自動車関係者からは「ゼロが1つ少ないのではないか」と言われたとか。「バーゲンプライス」であることは想像に難くありません。この年(2014年)、自動車評論家の徳大寺有恒氏が亡くなったのですが、トヨタの関係者は「徳大寺さんがご存命の間にお見せすることができてよかった」と話していたことを思い出します。

マツダが2017年東京モーターショーに出品したコンセプトカー「ビジョンクーペ」 ロータリーエンジンの復活はあるのか?

これらの技術は当時、「未来の技術」と言われました。振り返るにつけ、技術の高さだけでなく、困難に直面したときの日本の底知れぬエネルギーを感じずにはいられません。その技術が、現代の自動車産業に残した足跡も大きなものがあることは、論を待たないと思います。

しかし、これらが世界的に技術のメインストリームだったかと言えば、疑問符がつくのも正直なところ。それが日本の技術における最大の課題と言えるのかもしれません。これは国際的にアピールする力、政治力、交渉力に追うところも少なくないと思います。

例えば、燃料電池自動車については国内の水素ステーションの整備など、水素社会に向けた地道な歩みが続けられている他、「仲間づくり」に向けて特許開放という異例の措置も行われています。これらを日本国内だけでなく、世界的な動きにどこまでつなげて行くのか……メーカーだけでなく、政界や経済界にも国際的なアピールを期待したいところです。(了)

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