人間は話したい生き物である

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、あいづちと共感について---

人間は話したい生き物である

柿崎元子のメディアリテラシー

面接で問われる対応力

9月8日に首都圏を直撃した台風15号は甚大な影響をもたらしました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。年々想定を超える自然災害が日本列島を襲い、地球温暖化のツケが形になって表れ始めたことに不安を覚えると共に、将来への備えはどのようにすればよいのかと憂えるばかりです。有事に備えることに加えて、何か起こっても動じず、冷静に対応できる力も必要なのではないだろうかと思います。

コミュニケーションの世界でも会話の対応力が問われる場面があります。例えば面接です。どんな質問が飛んできてもしっかり自分の考えを述べられる人。あるいは質問を利用して、なるほどと思わせるストーリーで質問者の気持ちを動かせる人。どんな経験を積んだらそんな上手に答えられるのだろうと思うことはありませんか。そこで対応力を養うために私が注力するポイントをお伝えしましょう。それはあいづちです。

人間は話したい生き物である

柿崎元子のメディアリテラシー

あいづちのタイミング

効果的なあいづちは瞬間的に「今あなたの話をきいています」という姿勢を示し、会話を弾ませることが出来ます。笑顔で頷くだけでもOKです。相手は自分が受け入れられていると安心します。「え?」「うわー」「すごいね」「へぇ」「なんと」などの感嘆詞は、話がどんどん展開していくきっかけになります。感嘆詞をひとこと発するだけなのでそんなに難しくありません。

実は私たちアナウンサーはあいづちについてとても厳しい訓練を受けます。番組でゲストとトークをしたり、インタビューをする際に必要なスキルだからです。話を展開させたり、深堀りして面白くしたりするのは、案内役のアナウンサーの責任でもあります。ですからあいづちは、「はい」「ええ」だけではなく、様々な言葉を使うように言われますし、同じ言葉は多様しないよう注意されます。「ほー」や「はぁ」を使うこともあります。「はひふへほ」は上手に用いるとかなり使い勝手がありそうです。

このひとことのあいづちは、相手が話している際に同時に発してはいけません。言葉が重なると聞きづらいからです。相手が息を吸うタイミングで素早く言い放つ。このように、相手の息づかいを狙ってあいづちを入れ流れるように進むと、“息の合った会話”と言うことができます。

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話を面白くするあいづち

さらに、もう一歩踏み込んだあいづちもあります。それは質問をプラスすることです。

「え? それでどうしたの」や「すごいね、それで?」と話の展開を促すのです。これにより話者は「話をしてもいいんだな」というお墨付きをもらい、安心して話を展開します。答えが予想もしなかったり、新しい事実だったり、驚きに値するものだったりすると聞く立場にとっても楽しい話になりますね。

人は根本的に話したい生き物です。普段あまり気にしていないかもしれませんが、うれしいことがあると誰かに言いたくなるのが当たり前です。その習性を理解してうまく促してあげることで会話を楽しくする―。それがあいづちの効果です。

人間は話したい生き物である

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共感力のある人とない人

効果的なあいづちは、共感力とも言い換えることができると思っています。「そうそう、その通り」や「その気持ちよくわかる」という状態です。共感力を高められれば会話の時間を楽しかったと思わせることが出来ます。しかし、これがもし会議だったら状況は違います。「そうですね」では通用しません。意見や解決案を求められている時に共感しているだけでは何も決まらず、会議を開いた意味もありません。

ただ逆に、常に意見を述べてる人、自分の考えを披露することに慣れている人は、共感力に欠けていることがあります。例えば……

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大学生の中村くんはラグビー部の応援イベントを企画し、リーダーとしてがんばっています。ある日、仲間の山口くんが風邪をひいてミーティングに来られないことがありました。風邪が治った山口くんが、中村くんにあやまっています。

「中村くん、この前は突然休んで申し訳なかったよ。」「お!山口。」「まさか39度も熱がでるなんて…」「おまえ昔から無理するよな。そうだよな?楽しいと時間を忘れて一生懸命になる。アルバイトが楽しいて言っていたけど、そこに力をかけすぎているんだよ。そうだよな。だから、一生懸命になりすぎて気が付いたら体力を使って、大事なイベントの前日に熱を出したりするんだよ。そうじゃないか?俺は自分の行動に優先順位つけたり、力のかけ具合を考えたりしているからうまく行っている。な、山口もそうした方がいいぞ」
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中村くんは山口くんの5倍はしゃべっています。会話は何度もボールを投げ合うことが基本です。一方的にまくしたてるのはよくありません。何より、謝ってくれた山口くんに共感することが必要でした。「大丈夫か?」や「大変だったな」あるいは「珍しいな熱をだすとは…」といった気遣いのあいづちで一旦気持ちを受け止めないと、中村くんは山口くんのあやまったことを聞いていないのでは?と感じます。また、中村くんの口癖は「~した方がいい」や「そうだろう?」です。聞かれてもいないのに意見を言い、それを実践しろという口調です。自分の考えばかりを相手に押し付ける典型的な共感力なしのコミュニケーションです。

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ゆうこす『共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る』幻冬舎

共感の影響力

YouTubeやインスタグラム、ツィッターなどのSNSで様々な情報を発信しているインフルエンサーのゆうこすは「発信力がある」とは多くの人に影響力をもっているということ。そして、自分が発信する内容に共感して、応援してくれるフォロワーを如何に増やせるかが重要だと話しています。つまり、共感を生む情報を発信できているから反響があるわけで、その人たちにどれだけメリットを提供できるかがSNSの活動を維持するポイントだと言っているのです。あいづちは共感の第一歩。受け身のようにも思えますが、実はあいづちは、発信するための最強ツールです。そして言葉操ることができる私たちはそれを使わない手はないと思うのです。対話力を高めて上手にコミュニケーションを取りましょう。

人間は話したい生き物である

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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