中日・167センチ山本が2勝~興味深い「小さな大投手」の系譜

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、8月25日に行われた広島戦で白星を挙げた身長167センチの「小さな右腕」、中日ドラゴンズ・山本拓実投手にまつわるエピソードを取り上げる。

中日・167センチ山本が2勝~興味深い「小さな大投手」の系譜

【プロ野球中日対広島】ヒーローインタビューで絶叫する中日・山本拓実=2019年8月25日 ナゴヤドーム 写真提供:産経新聞社

「何とか5回まで投げられました。大野(奨太)さんが引っ張ってくれましたし、野手の皆さんが打ってくれたおかげです」

5位に低迷する中日ですが、明るい兆しは、若手投手が次々とローテーションに名乗りを挙げていることです。25日にナゴヤドームで行われた広島戦では、プロ2年目・19歳の山本拓実が先発。強力カープ打線を相手に、5回1/3を投げて4安打2失点の好投を見せ、今シーズン(2019年)2勝目を挙げました。

初回、力みからいきなり2点を先制されますが、ベテラン捕手・大野奨の巧みなリードで2回以降は立ち直り、緩急をつけたピッチングでカープ打線を翻弄。

打っても4回、大野奨のタイムリーで3-2と勝ち越した直後、2死一・二塁の場面で、三塁正面の当たりが、手前で弾んでレフト前へ。プロ初安打がタイムリーとなり、自ら貴重な追加点を叩き出しました。

「たまたまです。自分を助けることになったので嬉しかった」

その後、ドラゴンズ打線が6点を追加。10-4と快勝し、勝ち投手となった山本は、本拠地ナゴヤドームで初めてお立ち台に上がりました。

「最高でーす!!……最高でーす!!」

隣にいた阿部に耳打ちされ、2度も絶叫した山本にファンも大歓声で応えました。

山本は2000年1月、兵庫県宝塚市生まれ。市立西宮高出身で、公立高から17年、ドラフト6位で中日に入団。1年目の昨シーズン(2018年)はずっとファーム暮らしが続き、9月に中継ぎで1試合投げたのみでしたが、今年(2019年)7月24日の広島戦でプロ初先発。カープ打線を5回2失点に抑えながら、味方が完封されたため、好投も報われず負け投手になりました。今回、見事そのリベンジを果たしたわけです。

8月1日、子どものころよく通った甲子園で阪神相手にプロ初勝利を挙げ、この試合が5度目の先発と、ローテーションに定着しつつある山本投手。首脳陣は「頭も使えるし、度胸もある」と、そのマウンドさばきを高く評価しています。

童顔で、身長167センチと、プロ野球選手としてはかなりの小柄ですが、母性本能をくすぐるのか、登板時には山本の名前入りタオルを掲げて応援するマダムたちの集団も現れ話題になりました。

プロ野球界では、身長180~190センチ台が当たり前。「小兵選手」は目立ちますし、体格のハンディをものともせず活躍している選手もたくさんいます。

現在、山本と同じ身長160センチ台のピッチャーと言えば、真っ先に思い出すのがヤクルトのベテラン・石川雅規です。167センチながら、キレのある真っ直ぐと、抜群の制球力、打者の読みを外す配球などを武器に、過去17シーズンで11度も2ケタ勝利を記録。今シーズン(2019年)も39歳ながら6勝を挙げ、通算169勝(8/25現在)は現役最多です。

また、楽天の美馬学も169センチ。2013年、巨人との日本シリーズで2勝を挙げ日本一に貢献、MVPに輝きましたが、今シーズン(2019年)も7月19日のソフトバンク戦で、8回までパーフェクトという快投を演じました。9回に四球とヒットを許し、令和初の完全試合はなりませんでしたが、相手が強いほど燃えるのが小兵選手の特徴。その負けじ魂がエネルギーになっているのです。

160センチ台の投手でもう1人、ぜひ知っておいていただきたいのが、元祖「小さな大投手」こと長谷川良平です。広島カープ創設時のエースで、身長167センチながら、14年間の現役生活で通算197勝を挙げました。

当時のカープは選手補強もままならず、バックの援護も期待できないなかでのこの勝ち星は、もっと讃えられていい数字です。「大柄な選手に負けてなるか」という反骨精神が長谷川を支えました。200勝まであと3勝でしたが、63年に現役を引退。広島監督も務めました。

観る人に勇気を与えてくれる「小さな大投手」たち。野球は体格だけがすべてではない競技であることを、彼らは身をもって示してくれています。

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