あけの語りびと

86歳の店主が筋肉パフォーマンスも魅せるレストランとは?

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

写真には『健康は富に勝る』の名言が

『現代社会において、男の筋肉はもはや、その意味を失ってしまった』と書いたのは、作家の三島由紀夫でした。井戸端会議で「うちの夫は今度、ニューヨーク勤務ですのよ」と自慢する主婦はいても、「夫の上腕二頭筋が50センチを超えましたの」と自慢する主婦はまずいないだろう…というのが、三島氏の言わんとするところでした。

男の筋肉はいまや、一部のアスリートやボディビルダー、格闘技選手の肉体において、美しい輝きを放つのみとなりました。

レストラン『グリル プランセス』のオーナー、大久保栄次さん

しかし、自分の筋肉を鍛えに鍛えぬいて筋肉パフォーマンスを展開、多くの人との出会いを実現、仕事と暮らしのなかでフル活用している人がいます。

名古屋市千種区のレストラン『グリル プランセス』のオーナー、大久保栄次さんがその人。御年86歳になる方です!

大久保さんは昭和31年に大学を卒業。その後、10年間のホテル勤務とアメリカでのホテル修業などを経て、コック、ウェイター、バーテンダーなどの技術を習得。そして、いまの地に『グリル プランセス』を開業しました。

『グリル プランセス』内装

『プランセス』とは、王女「プリンセス」のフランス語版。フレンチレストランを目指した大久保さんのこだわりがうかがえます。

「だけど創業当時はフランス料理の認知度が低くて、お客様が少なかった」と振り返る大久保さんは、ハンバーグ、カニ肉コロッケ、ビーフカツサンドなど、日本人好みの洋食に着手。これが大人気を呼びました。もちろん、財布に余裕のある場合は、シャトーブリアンステーキ、的矢ガキなど本格的フランス料理を堪能することができます。

「創業以来、的矢ガキ一本でやってます。一年中、新鮮なカキを楽しめます」と胸を張る大久保さん。もう1つの特長は、店内の壁に張り巡らされたピカソ、シャガール、ビュッフェなどの名画と美術品の数々。もちろん、全部本物だと言います!

その資産価値をうかがいますと、「バブル時代にちょっと集めたんですよ」と、あまり多くを語りません。

とてもおいしそうなビーフカツサンド

人気の料理、見事な絵画。そして『グリル プランセス』の3つ目の特長は、大久保さん自身の「筋肉パフォーマンス」です。店の看板には赤いタンクトップの大久保さんが、力こぶをふくらませた写真。ホームページの冒頭には、上半身裸で腕組みをしている写真。見事な筋肉です。

20年ほど前から実践している奇想天外の筋肉パフォーマンスとは、大久保さんに腕相撲や腕立て伏せの勝負を挑んで、勝てばランチ無料! 夜は料金から1000円割引き! というものなんです。

「始めた当初はほとんど負けなかったんですが、最近はテレビの報道を見て、全国からガチの力自慢が集って来るんです。信州、四国、東北からもいらっしゃいます。だから近ごろは、10勝1敗といったところでしょうか」と苦笑いをする大久保さんのお年は、もう1度申し上げます。86歳! これで10勝1敗の戦績は、実にあっぱれな成績と言わねばなりません。

新鮮な的矢ガキも楽しめる

さて、大久保さんが肉体改造を始めたのは、40歳のときからだそうです。伊達や酔狂で筋骨隆々の体を作ったわけではなく、そこには深いわけがありました。

実は大久保さんには、2人の息子さんがいらっしゃるんですが、長男は開業医。次男は、生後9ヵ月でかかった日本脳炎の重い後遺症で、寝たきりの状態が続いていると言います。

「9ヵ月の赤ん坊のまま、話すことも歩くこともできません。たまに見せる笑顔がせめてもの救いです。その息子も、今年(2019年)で52歳になりました」と語る大久保さんですが、ある日ふと気づいたそうです。

「この子の介護を一生やり抜くためには、強靭な肉体が必要だ!」

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その日から大久保さんの日常のすべては、トレーニングになりました。ダンベル、ベンチプレス、スクワットなどの筋トレの他、トレーニングのキッカケは毎日の仕事のなかにありました。ステーキの重たい鉄の皿を3枚重ねて、片手で運ぶ。呼ばれたらパッと立つ。車の信号待ちのときも全身の筋肉をギュッと締める。

「より速く、より強くが私の生活のモットーなんです!」

こうした大久保さんの努力は、8年前に脳出血で倒れ、寝たきりになった奥さんのためにも活かされています。

「息子と妻の2人を抱きかかえ、月に1度は食事に出かけるんです。マイナスをプラスに変えると、介護も楽しみになるんですよ」

お店がTVでとり上げられた様子

いまもランチタイムからディナータイム終了の夜11時半まで、客席の間を飛び回るようにしてエネルギッシュに働く大久保さん。女性のお客様には、大久保さん特製のカクテルを振舞うそうです。

「数字じゃない、結果じゃない、人を想う心が幸せにつながるんです。物事を損得計算で考える人間は、一生悩み続けることになります」

86歳のキン肉マン、大久保栄次さんの言葉です。

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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