人権侵害だと批判するだけでは、解決できない移民問題

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月17日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。トランプ政権がメキシコ国境での移民申請を厳格化するというニュースについて解説した。

人権侵害だと批判するだけでは、解決できない移民問題

トランプ政権、メキシコ経由の難民申請を厳格化

アメリカ、トランプ政権は15日、メキシコ国境での難民申請の要件を16日から厳格化すると発表した。メキシコを経由してアメリカを目指す者たちが難民の受け入れ制度を悪用しているとし、不法移民対策を強化する。

飯田)NYのダウ平均株価が上げていて、昨日(16日)は少し下げましたが、27335ドル63セント。前の日と比べて23ドル53セント安い。景気絶好調だから難民が押し寄せているという話もあります。

人権侵害だと批判するだけでは、解決できない移民問題

移民と難民は違う

佐々木)それもあるでしょうね。よく誤解されるのですが、移民と難民は違うという話をきちんと定義しておく必要があります。シリアや中東から難民がヨーロッパに押し寄せているということがありました。あのときに、難民の人たちにインタビューしている映画を観たのですが、多くの人がパキスタンから来たと言っていたのです。

飯田)パキスタン。

佐々木)なぜパキスタンからと聞かれて、パキスタンは経済的に困窮しているからと答えていました。経済難民という言い方もありますが、一般的な難民の定義とは紛争地から国を追われ、住むところを追われた人たちです。命の危険がある場合を難民と言う。経済的に困窮しているから、他の国に出稼ぎに来る人は移民なのです。そこをまず切り分ける必要がある。この問題を話すと、必ずここが混ざってしまっている。

人権侵害だと批判するだけでは、解決できない移民問題

2018年10月29日、ベルリンで記者会見するドイツのメルケル首相(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

移民、難民を人権侵害だと批判するだけでは、解決しきれなくなっている

佐々木)もう1つは、非白人の移民に対して国へ帰れと言ってみたり、確かにトランプさんの言うことは過激すぎると思います。一方で、こういった移民問題について「移民の流入を制限しましょう」という発言に対して、圧倒的に多くの人が支持しているという現実もあるのです。実際、ヨーロッパなどでも、シリアの問題などが影響しているのか、例えばドイツのメルケル首相が「大量に難民を受け入れます、100万人」と言った瞬間に、支持率が急落しましたよね。実際に問題やトラブルなども頻発しています。いま、ヨーロッパではリベラリズム政党が移民、難民の制限を口にするようになっているという状況があり、それを人権侵害だと批判するだけでは、もはや解決しきれなくなっている現実を我々は一体どう受け入れるのか。難しいですよね。

飯田)いままでだったら安価な労働力だということもあり、積極的に受け入れ、人道面でも受け入れるべきだというようなところがありましたが。

佐々木)そう言っていれば、何となくリベラルな仕草としてよろしいという話になっていたのですが、これだけ移動が自由になっていて、しかもヨーロッパなどは典型ですが、移民が流入することによって本来持っていたヨーロッパのリベラリズムという、白人の間で共有されていた理念そのものが、イスラムの流入によって破壊されている。そのことに対して懸念を抱いているリベラルな白人がいっぱいいるのです。この何とも言い難い、価値転倒した状況を一体どうするのか。

飯田)リベラル、中間層以下の白人からすると、「何で俺たちよりも移民手当をしているのだ。誰が税金を払っているのだ」という話になって来る。

佐々木)だからアメリカにも結局、ポリコレみたいなものが流行りすぎて、LGBTや非白人の黒人などが大事にされすぎた結果、「俺たちは忘れ去られた」と怒った中西部などの貧困層の白人が、トランプ大統領を支持したということになる。そういう状況があるわけです。「いったい民主主義とは何なのか」と問われているという話ですよね、この難民、移民の問題は。

飯田)そもそもヨーロッパ的、近代的な国の成り立ちというものが、同じような民族であったり、同じルーツの人たちと固まった方が外に対して強いとか、そういう要請もあって始まった国民国家という概念そのものが崩れて来ている。

人権侵害だと批判するだけでは、解決できない移民問題

崩壊したフランスの多文化主義

佐々木)そもそも、「自由、平等、博愛」みたいな理念を共有できるところからスタートしているのです。共和国とはそういうものですよね、フランスなどを考えると。ところが、その理念を共有しない人たちが流入して来た場合に、それでも共有が続けられるのかということです。フランスの多文化主義は、いろいろな人が流入して来ても受け入れましょうとやった結果、いまや多文化主義は崩壊したと言われてるのですよ。結局そこは多文化主義ではなくて、共和国の理念みたいなものがあるとしたら、その理念に賛同してもらわない限り駄目だと。だからブルカ禁止のようなことをやる。そして、それはそれで人権侵害ではないかと言われてしまう。

飯田)イスラムのスカーフですよね。女性が纏っている。

佐々木)それを気にするかどうか。気にするということが、リベラルな理念に賛同すると見なす。要するに宗教は一切、学校内に持ち込まない。宗教を持ち込まないという理念が、イスラムの政治と宗教は一体であるという理念に反するということです。理念同士がぶつかってしまう場合、一体どうするのかという問題になって来るのです。この問題は日本も避けられない状況になって来るのではないかという感じはしますね。

飯田)他方では、アメリカは建国の由来からして、移民の国です。そこにはネイティブアメリカンの迫害などもありましたけれど、それは脇に置くとして。移民の国であり、そこで理念を共有し、言葉を共有するというところで統合して来たのだけれど、その国であっても、やはり統合しきれない。

格差社会によって貧困層の白人がおいて行かれてしまったアメリカ

佐々木)実体経済が成長し続けた近代においては、そこは包摂、吸収できたのです。しかも、それは安価な労働力の供給と、先ほど飯田さんがおっしゃったようなことになったわけです。アメリカでも経済成長しにくくなっていて、尚且つ格差はどんどん進行して、富裕層に富が集中している状況がある。そのなかで貧困層の白人がたくさん置いて行かれてしまった。そうすると、最早そこに移民が流入して来ても、それを吸収できて豊かになるという余力がなくなりつつある。そのような状況なのです。だから近代の枠組み、20世紀までの枠組みでは、いまの社会は説明、定義できなくなって来ている。

飯田)経済政策と一体化というか、全部が混在一体しているのですね。

佐々木)富の分配の問題まで含まれて来る。

飯田)そうするとベーシックインカムみたいなことを、ドラスティックに導入した方がいいのではないかと。

佐々木)アメリカでも実際に、貧困層の白人に富裕層の、例えばマーク・ザッカーバーグ氏が持っている何兆円みたいな金を分配できる仕組みを作れるのであったら、彼らの不満もなくなるわけです。それならば移民が流入して来ても、「よきに計らえ」と言えるのかもしれないですよね。結局すべての問題は、格差が進行して貧困が進みつつあるという状況に全部結びついて行くのではないかなと思います。

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