西日本豪雨災害で弟犬を救ったチワワの実話が絵本に!

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【ペットと一緒に vol.156】by 臼井京音

西日本豪雨災害で弟犬を救ったチワワの実話が絵本に!
2018年7月に発生した西日本豪雨災害で、飼い主さんにいち早く異変を知らせて弟犬ミルクくんを救った兄犬チョコくんのストーリーをもとに、絵本が誕生しました。今回は、クラウドファンディングを達成して作られた絵本にまつわる秘話を紹介します。

 

クラウドファンディングで絵本が誕生

以前の記事「弟犬を救った兄犬! 西日本豪雨の実話を絵本に残す活動の輪が拡大中」で紹介した、チワワの兄弟犬の実話が、昨年(2018年)末にクラウドファンディングの目標額を達成して絵本化されました。

西日本豪雨災害で弟犬を救ったチワワの実話が絵本に!

右肩上がりでじわじわと目標額に近づいて行きました

岡山県倉敷市真備町に甚大な被害を及ぼした西日本豪雨災害から、ちょうど1年となる2019年7月7日に『ブラザーズドッグ』は発刊。

7月13日には、東京都のとっとり・おかやま新橋館(鳥取県と岡山県のアンテナショップ)での展示販売会と、神保町ブックハウスカフェでトークショーイベントが開催されました。都内で筆者は、“Brothers Dog Project”代表の江草聡美さんと、絵を描いた氏峯麻里さんに話をうかがって来ました。

西日本豪雨災害で弟犬を救ったチワワの実話が絵本に!

江草さん(左)と氏峯さん(右)

氏峯さんは真備町の出身。発災時は、ペットのインコとボートで同行避難をしたそうです。

「自宅は2階まで浸水したので、幼少時代からこれまでの作品や画料はすべて泥水に浸かり、失ってしまいました。被災から3ヵ月が過ぎて少し気持ちが浮上してきたときに、ひょんなご縁で『ブラザーズドッグ』の絵本の画を描かないかというお誘いをいただいたんです。ふだんは壁画やCDジャケットのイラストなどを描く仕事をしており、絵本には携わった経験がないので不安はありました。でも、絵を描くことで、自分を育ててくれた真備の町やまわりの方々に何か恩返しができるのではないか。そう思って、即答しました」(氏峯さん)。

 

災害を風化させず語り継ぎたいから

絵本のプロジェクトリーダーである江草さんは、クラウドファンディングの目標額が達成する前から、絵を描いてくれる人を探していたと言います。

「10月2日からスタートしたクラウドファンディングの締切は、12月31日。発刊できるならば翌年7月7日と決めていました。賛同して支援してくださる方々の期待に応えられる良い作品にしたい。そのためには、目標額に達することを信じつつ、プロジェクトメンバーと絵本化の活動をずっと進め続けて来たんです」とのこと。

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実際に絵本に登場する馬のリーフに絵本の完成を報告

絵本の作者である、おはなしのWA♪ は、絵本の朗読会をしているグループ。江草さんを含む元アナウンサーの仲間が集まって結成され、これまでに東日本大震災復興支援の朗読会を継続して行って来ました。

「『ブラザーズドッグ』も、私たちが朗読によって語り継ぐことを目標にしている絵本です。なので、文章の区切りなどにもこだわり、表現も何度も練り直しました」と、江草さんは言います。

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岡山県下399の小学校に寄贈するにあたり行われた、倉敷市長への贈呈式

泣きながらチワワたちの絵を描く

クラウドファンディングの目標額が達成してから、氏峯さんは約3ヵ月間、『ブラザーズドッグ』の絵を描くことに心血を注いだそうです。

氏峯さんは、もともとは細部までじっくりと描き込むペン画を得意としていて、1枚描くのに1ヵ月近くをかけるとか。絵本は、実際のチョコくんやミルクくんの写真を見ながら、本来のタッチとは異なるやわらかいタッチで描くことを心がけたと言います。

「文章から伝わって来る感情を、絵で表現するという作業はむずかしいものでしたね。実はチワワ2頭が屋根の上で顔を見合わせるシーンを描いていたら、自然と涙があふれて来ました。自分自身がこの災害に遭い、乗り越え、そしていま、生きているということ。その事実にまつわる様々な思いがめぐったのかもしれません」と、氏峯さんは振り返ります。

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「泣きながらこの絵を描きました」と、氏峯さん

絵本が完成すると、江草さんは不安な気持ちも湧き上がって来たと語ります。

「これを読んだ人が、災害を思い出して悲しい気持ちになってしまったらどうしよう。子どもが泣いてしまったらどうしよう。いまもまだ、雨音を聞くとドキドキする方がいらしたり、大変な思いを抱えている方もいるのに……と。使命を果たせた安堵感はありましたが、この本が受け入れられるかどうかは不安だったんです」。

 

チワワの兄弟が伝えてくれることとは

2019年7月6日、倉敷市芸文館アイシアターで「真備のWA♪ にじのかけはしフェスティバル」が開催されました。このイベントのなかで、おはなしのWA♪ としては初となる『ブラザーズドッグ』の朗読も行われたそうです。

「聞いてくれた小学生のお父さんが、娘さんの頭をやさしく撫でている姿も見られました。子どもたちが真剣に耳を傾けてくれる様子を見て、ほっとしましたね」(江草さん)。

西日本豪雨災害で弟犬を救ったチワワの実話が絵本に!

7月6日のイベントでの1コマ

その後、次のような絵本の感想が、岡山県を中心に全国から寄せられているとか。

「チョコの気持ちがミルクに伝わってよかったね」

「絵本から勇気をもらいました」

「人間とペットの温まるエピソードに温かさを感じました。またペット連れの方々は避難所に入ることも控えられていたことに切なくなったり、1冊のなかに様々な思いが込められていると感じました。岡山で起きた大きな災害。全国からたくさんの手が差し伸べられたことや、励ましの声があったこと、忘れてはいけないと思いました」

岡山県出身のオリンピックのマラソンメダリストの有森裕子さんは、絵本の帯に「生きている こと への感謝の気持ち は 亡くなってしまった 命 を 忘れないこと」というメッセージを寄せています。これからも、チョコくんとミルクくんは絵本と出会った多くの人々にかわいがられると同時に、生きている命の大切さを伝え続けてくれることでしょう。

※『ブラザーズドッグ』は岡山県内の書店をはじめ、楽天やAmazon等のネット通販で購入が可能です。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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