大人のMusic Calendar

ザ・タイガースの主演映画第3作『ハーイ!ロンドン』は、GSブーム終焉期のタイガースの実情を映し出したセミ・ドキュメンタリー作品でもあった

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今からちょうど50年前の今日1969年7月12日は、ザ・タイガースの主演映画第3作『ハーイ! ロンドン』(東京映画)が封切られた日。この年の3月に脱退した加橋かつみの後任として岸部シローが参加した新生タイガース初の主演映画でもあった本作は、製作を渡邊晋と田波靖男、脚本を田波靖男が手がけ、監督には『エレキの若大将』で知られる岩内克己を起用。前2作同様にヒロイン役は久美かおりが務め、藤田まこと、左とん平、小松政夫などが傍を固めている。

前年のロスアンジェルス、ニューヨークでの明治チョコレートCM撮影を除いては、タイガース初の海外ロケ作品だが、これは以前から進行していたビー・ジーズのギブ兄弟による書き下ろし新曲「スマイル・フォー・ミー」のロンドン・レコーディング企画との連携プロジェクトとして実現したものだった。実際にロンドン・ロケ2日目の1969年5月29日には、ポリドール・スタジオで「スマイル・フォー・ミー」のレコーディングが行なわれている。


そのレコーディングの2日前、5月27日に羽田を発ったタイガースと撮影スタッフ一行は、ロンドン到着の28日から撮影を開始。キングス・ロード、ピカデリー・サーカス、ハイドパーク、大英博物館、ケンジントン墓地、ウインザー城などを廻って撮影スケジュールをこなしていく。

その中には、日本でも「マンチェスターとリヴァプール」のヒットで知られるピンキー&フェラスが、ポリドール・スタジオで「ビューティフル・デイ(On A Beautiful Day)」をレコーディングしているところをタイガースの面々が見学しているシーンも含まれているが、これが同じポリドール・スタジオで行なわれた「スマイル・フォー・ミー」のレコーディング日と同日なのかどうかは不明である。

また、6月1日にはビー・ジーズのマネージャーであるロバート・スティッグウッドの別荘で、タイガース(日本で知り合った仏人ガールフレンドを訪ねてパリに出かけた瞳みのるを除く)とバリー・ギブの会見が実現。映画本編にもその撮影カットが使われている。さらにオフタイムには、ケンジントンの日本レストランで食事中のミック・ジャガーとマリアンヌ・フェイスフルに沢田研二と森本太郎が遭遇。サインを貰うという嬉しいハプニングもあった。

こうして6月9日に帰国の途に就いた一行は、休む間もなく11日から東宝撮影所や都内ロケで国内シーンの撮影に入り、19日と20日には、日比谷の『ヤング・メイツ』に600人のファンを招いてライヴ・シーンを撮影。同じ渡辺プロダクション所属のGSアダムスが「にくい時計」を歌うシーンもここで撮影されている。その後、 多摩川土手や湘南海岸でのロケを終えて、6月末にクランク・アップ。前述のように7月12日に全国の東宝系封切り館で、加山雄三の主演映画『ニュージーランドの若大将』との二本立てで公開された。

前作『華やかなる招待』で架空の高校生役に挑んでいたタイガースが、再びデビュー作『世界はボクらを待っている』同様に自分たち自身を演じているものの、『世界は~』のように“星の王子様”的にデフォルメされた虚像ではなく、もっと等身大に近い感じで描かれている。

時おり画面に映し出されるタイガースの演技とは思えない疲れ切った表情と作品全体に漂う倦怠感は、超多忙なスケジュールの毎日に嫌気がさしたタイガースが、魂を担保に時間を売る悪魔の代理人(藤田まこと)から1週間のロンドン休暇を買ったことで巻き起こるトラブルという、荒唐無稽なストーリーに妙なリアリティを与え、トップGSならではのオーラとファンタジックな魅力あふれる前2作とは、まるで異質の作品に仕上がっている。

実際、GSブーム終焉期に製作されたことや、タイガース内部でも瞳みのるの脱退宣言など、グループの先行きに暗雲が漂い始めた時期だったこともあり、作品自体はフィクションながらも、思いがけず実像を映し出してしまったのかもしれない。そういった意味では、まさに本作はセミ・ドキュメンタリー映画と呼べるのではないだろうか。

映画本編内で使用されたのは、オープニングの「美しき愛の掟」をはじめ、劇場公開の1週間前に発売された最新シングルから「嘆き」と「はだしで」、そして公開日にはまだ発売されていなかった「スマイル・フォー・ミー」(7月25日発売)などだが、その中に「LOVIN’ LIFE」という新曲も登場する。ロンドン行きの6日前6月21日に「嘆き」「はだしで」と共に日本グラモフォン・スタジオでレコーディングされた作品で、映画の中では作曲者の村井邦彦も出演するこの曲のレコーディング・シーンも出てくるが、これが6月21日に撮影されたものかどうかは不明だ。



当時「LOVIN’ LIFE」はレコード化されることはなかったが、タイガース解散後の74年11月リリースされた全2巻のベスト・アルバム 『ザ・タイガース物語』の特典シングルに収録。現在では『レジェンド・オブ・ザ・タイガース』(92年)等のレア・コンピレーションCDで聴くことが出来る。

ザ・タイガース「嘆き」「スマイル・フォー・ミー」「美しき愛の掟」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】中村俊夫(なかむら・としお):1954年東京都生まれ。音楽企画制作者/音楽著述家。駒澤大学経営学部卒。音楽雑誌編集者、レコード・ディレクターを経て、90年代からGS、日本ロック、昭和歌謡等のCD復刻制作監修を多数手がける。共著に『みんなGSが好きだった』(主婦と生活社)、『ミカのチャンス・ミーティング』(宝島社)、『日本ロック大系』(白夜書房)、『歌謡曲だよ、人生は』(シンコー・ミュージック)など。最新著は『エッジィな男 ムッシュかまやつ』(リットーミュージック)。

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