須田慎一郎によるマスコミが書かない「G20大阪サミットの総括」

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ニッポン放送「飯田浩司の OK! Cozy up!」(7月1日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。G20を独自の視点で総括した。

須田慎一郎によるマスコミが書かない「G20大阪サミットの総括」

G20大阪サミット・インテックス大阪雑感。会場内では準備が着々と進んでいた=2019年6月27日午前9時6分、大阪市住之江区 写真提供:産経新聞社

G20大阪サミットが6月29日閉幕

20ヵ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は6月29日、首脳宣言「大阪宣言」を採択して閉幕した。今回のG20の成果、問題点、議長国としての評価などをジャーナリストの須田慎一郎が総括する。

飯田)首脳宣言がとりあえず出た、というところ。総理は一致点を見出すと、閉幕の会見で強調していました。須田さんはどうご覧になりましたか?

須田慎一郎によるマスコミが書かない「G20大阪サミットの総括」

20カ国・地域(G20)首脳会議(大阪サミット)に出席するため来日した、中国の習近平国家主席(中央)=2019年6月27日午後、関西国際空港 写真提供:産経新聞社

G20の最大の焦点は米中首脳会談だった

須田)自由で公平、無差別で透明性がありという綺麗な文言が並んでいましたが、保護主義の台頭に対する批判的な文言が出ていないのは、相当アメリカに配慮したのだろうなと、苦しい首脳宣言だったのではないかと思います。今回のG20は1にも2にも米中貿易戦争、決着の糸口を見せるのかどうかが最大の焦点でした。つまり多国間で協議をしても意味がありませんから、G20と言いながら米中首脳会談が最大の焦点だったということです。米中首脳会談を受けて即座に対立が激化して行くというよりも、問題を先送りにして一定の時間の猶予を得たという点では、それなりの成果があったのではないかと思います。

須田慎一郎によるマスコミが書かない「G20大阪サミットの総括」

G20大阪サミット・IMC(国際メディアセンター)。利用が始まったIMC(国際メディアセンター)=2019年6月27日午前11時38分、大阪市住之江区 写真提供:産経新聞社

アメリカのWTOへの妨害~安倍総理を含む各国の紛争解決機関としてのWTOの改革

須田)とは言え、2国間の交渉協議が最大の焦点ではあるけれども、安倍さんは多国間の場において米中貿易戦争に何らかの方向性を見出そうと、一生懸命やっていたことは間違いない。その意味するところがWTO改革です。いま、世界貿易機関が機能不全に陥っています。これは私の個人的な認識ですが、WTOの最大の役割、2国間の貿易紛争を収める二審制の紛争解決機関が、実はWTOにあります。きちんとしたルールが制定されていて、各国がそのルール、裁定に従うという状況が作られている。話が少し逸れるのですが、アメリカが中国に対してファーウェイ問題で様々な制裁措置を取りますよね。必ず安全保障上の問題があるからという国内手続きを踏んで、ファーウェイに対する措置を取る状況になっている。或いは中国に対する関税措置もそうなのですが、なぜ安全保障上の問題があるという前提を作るのかと言うと、それがWTOルールなのです。アメリカはWTOに対して非協力的だと言われますが、とりあえずルールには乗っ取った対応をとっています。その紛争を解決する機能はWTOにとって王冠の宝石と言われていて、要するに王冠があるのも宝石があるからだと。その宝石に当たるのが紛争解決機能なのです。ところが2017年夏以来、アメリカは紛争解決機関の二審のうち、上級委員会に強い不満を抱いています。なぜかと言うと、中国とアメリカはこの紛争解決機関に、とある問題を委ねたのです。中国は政府自治体、政府系の企業が様々な形で輸出企業に対する補助金を出して、結果的に価格面での競争力を強化していると。補助金を出すのは不公平ではないかということを訴えていたのですが、WTOの紛争解決機関は、「政府系企業の補助金は政府機関に当たらず」としたのです。

飯田)政府系企業から出る補助金は、ということですよね。当たらないのですか?

須田)そのような判断を下したため、「おかしいだろう」とアメリカが怒ってしまって、上級委員会という裁判所のようなものがありますが、その裁判官、委員を決めることに対して徹底的に妨害を施しているのです。このまま行くと、年末には上級委員会は機能不全に陥ります。そうすると王冠の宝石がなくなるということで、世界各国は何としてもWTOが機能するように改革しようではないか、という方向に動き始めた。安倍さんはそれに積極的に取り組んでいるということなのだろうと思います。

飯田)なるほど。今回の成果文書のなかでも、デジタル分野も含めてWTO改革が大きな1歩になるということは、かなり会見でも強調していましたからね。

須田)2国間でアメリカが中国に要求している問題と、完全に重なって来るのですよ。

飯田)デジタルの話も、ファーウェイ問題のデジタルデータのやりとりなど、そこもリンクして来る。今回、きちんとした信用がある形でのデジタルデータ、その自由な流通の枠組み作りは、大阪トラックと名前が付きました。これも、アメリカの意向を汲んだ形ですか?

須田)中国はデジタルデータのなかでは、閉鎖されたマーケットですよね。果たしてこれをどうするのかという問題が出て来る。それに対して自由な流通となると、中国としては相当な危機感を持っていると思いますよ。

飯田)アメリカはそうやって、政府の介入やデジタルデータの分野もそうだし、出資補助金の分野なども、1つ1つ剥がして行きたいと。

須田)知的財産権の分野もそうです。ただ、アメリカはWTOの場では無理だろうと思っている。だから徹底的に、最強度のプレッシャーを中国にかけて行かざるを得ない。中国としては持久戦、慎重戦に持ち込もうとしているのが実態です。

飯田)なるほど。そのなかで中国をこじ開けつつ、アメリカの意向も汲みつつでやる1つの落としどころが、WTO改革を前面に押し出して、データの流通もとりあえずWTOに任せてみようとなって来た。あまり報じられませんね。

須田)WTO改革はとても重要ですから、米中貿易戦争のコインの裏表の裏側として、注目していただきたいと思います。

飯田)日本もWTOが吹っ飛んでしまって、本当に2国間でやるという話になると、地政学的に強い国にはどうしても負けてしまう。

須田)加えて、FTAやEPA、TPPを結んでいない国とはNOルールになってしまいます。

飯田)WTOのルールが下敷きになっているから、それすらなくなってしまう。どんな関税でもかけ放題になってしまいますね。

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