あけの語りびと

インスタ映えする「モルフォチョウの壁」も~100周年を迎える『名和昆虫博物館』

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

詩人の西條八十は『蝶』という短い作品のなかで、『地獄へ下るとき 両親や友だちに何を持っていこう』と自問しています。そして彼は『懐から蒼ざめた蝶の死骸』を取り出して、こう言うだろうと答えています。『一生をさみしくこどものように これを追っていました』…と。

一見、淋しく不気味ささえ漂うこの詩が、実は明るく涼やかな光を放ち、多くの人に愛されて来たのはなぜでしょう? それは「一生涯、たった1人で無心に追い続けた夢があった」という生き方へのあこがれが、誰の心にもあるからではないでしょうか?

名和昆虫博物館(大正8年竣工)

さて、日本で最も古い昆虫専門の私設博物館『名和昆虫博物館』は、岐阜市のシンボル・金華山のふもと、岐阜公園のなかにあります。

江戸時代にも飛んでいたというギフチョウの発見で知られる名和靖(なわ・やすし)が、明治29年に設立した名和昆虫研究所。その付属施設として大正8年に開館。2階建ての建物は、当時の新進気鋭の建築家・武田五一の設計によるもので、ギリシャ神殿風レンガ造りに白いタイル貼りというオシャレな造りです。

2階を支える3本の巨木の丸柱は、奈良唐招提寺金堂の解体修理の際、白アリの被害を受けた1200年前のヒノキ材を再利用したもので、白アリ研究の第一人者だった名和靖ならではの古材保存を兼ねた利用法でもありました。国の登録有形文化財の指定を受け、2019年10月に開館100年を迎えます。

館が所蔵する標本は、約1万2000種、30万頭。展示しているのは1000種、3500頭。「頭」は昆虫の数え方の正式な単位です。

記念昆虫館(明治40年竣工)

さて、この日本最古の昆虫博物館に、去年は全国からおよそ2万1000人の親子が訪れたと言います。なかにはリピーターも多いそうです。飽きない、ワクワクする、面白い! そんな知的好奇心を刺激する創意と工夫でいっぱい! それでは『名和昆虫博物館』の秘密に迫ってみましょう!

5代目館長の名和哲夫さんはズバリ、こうおっしゃいます。「建物は100年と古いですがね、中身はここ30年くらいの創意と工夫の積み重ねなんです。たとえば、来館者たちにアンケートを取って『面白かった』という答えは◯、『気持ち悪かった』という答えは×と判断して、どうしたら虫が苦手な女性やいまの子どもたちに喜んでもらえるかを必死に考えました」

名和館長と研究員の松尾登貴雄さんは、魅力ある博物館の展示について、コーヒーカップを片手にいつも話し合っていると言います。たとえば1階は身近に飛んでいる蝶、子どもたちに人気のカブトムシやクワガタ。さらに海外で見られるコガネムシへと広がって行きます。

1階 展示場入り口

また館内の所々には、フタを閉じて中身が見えない標本箱が置かれています。これが『名和昆虫博物館』名物の「隠れ展示」シリーズです。標本箱には「勇気のある人のみ限定!」とか「見ない方がいいかも」という注意書き!

「どうする?」「う~ん、見てみようか!」と勇気を出してフタを開いてみると、世界最大のクモ「ムラサキタランチュラ」がコンニチハ! 世界最大級の蛾の標本や、金色に輝くコガネムシが入っている箱もあります。「わぁ!」とか「キャ~!」とか声を上げながら、みんな楽しそうです。

2階へ上がると参加型のクイズコーナー! 実際の標本を見ながら、ああでもない、こうでもないと考えて楽しめる問題が、全部で13問。「このなかで昆虫でないのはどれ?」と、世界中の珍しい生き物18種の標本から昆虫でないものを選ぶ問題。沢山の蝶の標本から違う種類を選ぶ問題。虫を苦手にしていた人も考えながら、より近くで虫を見つめ、虫に親しんで行くという仕組みです。

名和館長は言います。「人のなかでは、生理的嫌悪感よりも知的好奇心の方が勝るというのが僕の持論です。付き添いで仕方なく付いて来たお母さんが、子どもよりも真剣に標本を眺めていることもあるんですよ」

2階にある「モルフォチョウの壁」

用紙に回答を書き込んで投票箱に入れると、全問正解者には毎年、抽選で「ヘラクレスオオカブト」の標本などが贈られると言います。

また研究員・松尾登貴雄さんが5年前、およそ2ヵ月かけてつくった展示が、いま大きな話題を呼んでいます。青い光を放つ「モルフォチョウの壁」!

中南米に生息する「モルフォチョウ」は、1キロ先からでもわかると言われる青い輝きを放ちます。しかも、見る角度によって輝きが変化する「モルフォチョウの壁」の前では、そのきらめきに多くの人が足を止めます。そして、パチリ!「インスタ映え」のスポットとして人気を呼んでいます。

名和館長は言います。「動いている虫、飛んでいる虫に、子どもが示す興味は本能だと思います。その本能にフタをしてはいけません。虫は、教科書には載っていない大切なことを教えてくれるのですから…」

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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