大人のMusic Calendar

『おそ松くん』から『おそ松さん』への50年~5月24日は、あの“6つ子”の誕生日

【大人のMusic Calendar】

平成から令和へと元号が変わって新しい天皇が即位されたが、その今上天皇が小学生時代の1970年、日本万国博覧会(大阪万博)の会場で、とある漫画のキャラクターのポーズを真似されたことが話題となったのをご記憶だろうか。赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』の登場キャラクター:イヤミによる「シェー!」のポーズである。1966年のザ・ビートルズ来日公演時には、「今、日本で一番流行っているものは何?」との問いに対し、『ミュージック・ライフ』誌の当時の編集長:星加ルミ子氏が教えたという「シェー!」のポーズを取るジョン・レノンの姿も写真に残されている。また、1965年の映画『怪獣大戦争』では、あの怪獣王ゴジラでさえもこのポーズを披露しているなど、当時、社会現象と言われるほどに流行していた『おそ松くん』の人気のほどは、この歴史的な「世界三大シェー!」の存在からも十分に伝わってくるのではないだろうか。漫画『おそ松くん』の「週刊少年サンデー」(小学館)での連載期間が1962年から1969年であることを踏まえると、その人気が、大きさのみならず、いかに息の長いものであったかも窺い知れる。さらに言えば、『おそ松くん』を原作とするアニメーション作品は、1960年代、1980年代、2010年代にそれぞれ製作されており、原作漫画世代を超えた人気と認知度を得ていることも忘れてはならないだろう。『おそ松くん』本来の主人公である6つ子(松野おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松)の誕生日とされている本日は、『おそ松くん』アニメ三世代、それぞれの音楽事情を振り返ってみたい。

『おそ松くん』のテレビアニメ第1作は、漫画の連載期間中だった1966年2月から1967年3月の約1年間、全59回にわたって放送されている。毎日放送、ひいては在阪TV局全体においても初めての自社制作テレビアニメ作品であった。放送前半の音楽を担当した渡辺浦人は、東京音楽学校選科でヴァイオリンを学び、後に山本直忠(山本直純の実父)に作曲と指揮法を師事している作曲家である。クラシック音楽を基本としながらも、祭囃子や太鼓など、日本の土俗的な楽器・リズム・メロディを積極的に採り入れた作風で評価されている。子ども向けの映像作品に関しては、映画『赤胴鈴之助』シリーズ(1957~58)、テレビ『まぼろし探偵』(1959)、映画『わんわん忠臣蔵』(1963)などの経験はあるが、『おそ松くん』のようなナンセンスギャグものは珍しい。また、長男の渡辺岳夫もテレビ音楽の作曲家として知られ、『おそ松くん』と同時期には、時代劇『新選組血風録』(1965)、『俺は用心棒』(1967)、『大奥』(1968)、アニメ『巨人の星』(1968)などの音楽で既に定評を得ていた。

そして放送後半では、作編曲家・ジャズピアニストの三保敬太郎に音楽担当が変更になっている。三保はジャズピアニストとして慶應義塾大学在学中から既にプロデビューし、1959年には前田憲男、山屋清と共に「モダンジャズ3人の会」を結成。日本のモダンジャズ黎明期を演奏と作編曲、両面にわたって牽引した存在である。日活映画を中心に数多くの映画音楽を手掛けている他、日本テレビ系の深夜番組『11PM』のテーマ音楽等で広く知られている。テレビアニメでは『隆一まんが劇場 おんぶおばけ』(1972)主題歌など、『おそ松くん』同様、意外な作品への参加も見られる。



『おそ松くん』主題歌は、前期は渡辺浦人作曲、6つ子の担当声優による歌唱、スパイク・ジョーンズ的冗談音楽の風味が漂う「おそ松くんのうた」が、後期は三保敬太郎作曲で、当時、テレビドラマ『てなもんや三度笠』(1962~1968)で時の人であった俳優:藤田まことが歌を担当するジャズ風の「おそ松くんのうた2」が作られている。作詞は双方とも原作者の赤塚不二夫自身の手によるものである。



テレビアニメ第2作『おそ松くん』は、フジテレビ系土曜18:30台という、『ゲゲゲの鬼太郎(第3作)』が2年以上守っていた重要な枠を引き続き、1988年2月から1989年12月の全86回放送という人気を誇っている。オープニングテーマは、とんねるず『雨の西麻布』(1985)や、おニャン子クラブ『恋はくえすちょん』(1986/テレビアニメ『あんみつ姫』主題歌)などでヒットを得ていた秋元康&見岳章タッグによる演歌風の「正調 おそ松節」。この曲の作詞:秋元康、作曲:見岳章、編曲:竜崎孝路と同じ座組で、『おそ松くん』放送中の1989年1月には、美空ひばりの生前最後のシングル作品『川の流れのように』が創り出されることになる。エンディングテーマの「おそ松くん音頭」(作詞:森雪之丞、作曲:中山大三郎、編曲:竜崎孝路)ともども、歌を担当したのは演歌歌手の細川たかし。1975年のデビュー曲『心のこり』で日本レコード大賞最優秀新人賞、1982年『北酒場』、1983年『矢切の渡し』で大賞2連覇、1984年『浪花節だよ人生は』で最優秀歌唱賞受賞という「レコ大三冠達成」でデビュー以来の第二の絶頂期を迎え、人気・知名度ともに盤石となった時期でのアニメ主題歌の担当には、演歌ファン、アニメファンの双方が少なからず驚かされた。


また劇中音楽は、作曲家:本間勇輔が担当。フジテレビとの縁が深く、『のらくろクン』(1987)、『ひみつのアッコちゃん』(1988)、『平成天才バカボン』(1990)などのアニメや、『勝手に!カミタマン』(1985)、『美少女仮面ポワトリン』(1990)、『うたう!大龍宮城』(1992)等の東映不思議コメディーシリーズでも一時代を築いている。彼の筆によるテレビドラマ『古畑任三郎』シリーズ(1994~)のメインテーマは、多くの人の耳に記憶されているのではないだろうか。

そして、テレビアニメ第3作は、成人しながらも定職に就いていない「ニート」となった6つ子をフィーチャーするという、大胆な原作アレンジで話題となった『おそ松さん』(2015~)だ。文中冒頭の「シェー!」人気の話にも象徴されるように、これまでの『おそ松くん』では、どちらかといえば騒動を巻き起こす側のイヤミやチビ太の方が生き生きと描かれており、ギャグマンガとしての笑いの発生源として人気も高かった。本来の主人公であるはずの6つ子は、読者の心情を代弁する「迷惑を被る側」「ツッコミ役」のように「個性のない六人」としてまとめて表現されることが多かったのだ。しかし『おそ松さん』では、それを逆手に取り、六人に明確な個性や見た目の違い、イメージカラーを与え、それぞれに人気男性声優を配置するという、これまでになかったアプローチでおそ松くん世界を再構成。これが見事に奏功し、ブラックジョークや下ネタ満載の内容ながら女性ファンに大人気となった。60年代の原作に2010年代のセンス、加えて、漫画『行け!稲中卓球部』や、TV『ダウンタウンのごっつええ感じ』を懐かしく想起させるような90年代型の笑いの要素なども上乗せされ、多層式に魅力が詰め込まれた作品として爆発的な人気を得ることに成功。2017年には第2期も放送されるなど、2010年代を象徴する人気アニメ作品の一つとなっている。

音楽を担当したのは作曲家:橋本由香利。数々のアニメソング、アニメ劇伴を担当しているが、この令和元年、NHK朝の連続テレビ小説第100作『なつぞら』という大作の音楽を任されるに至り、今、大いに注目を集めている作曲家の一人である。

オープニングテーマは、第1期、第2期とも一貫して、「アニメ“勝手に”応援プロジェクト」から生まれたアイドルグループ「A応P」が担当。エンディングテーマは、第1期においては番組人気の原動力ともなった6つ子のキャラクターと、それを演じる男性声優陣をフィーチャーし、70~80年代ディスコやフュージョン風のキラキラサウンドでまとめあげた楽曲「SIX SAME FACES 今夜は最高!!!!!!」および「SIX SHAME FACES 今夜も最高!!!!!!」がそれぞれ大ヒットしている。

また、第2期のエンディングテーマにおいては想定を裏切る大型サプライズが仕組まれた。前半は、大槻ケンヂ、田島貴男、斉藤和義、渡辺美里、宮田和弥、中川敬、増子直純、スガシカオ、ABEDON、伊藤ふみお、吉井和哉、八熊慎一、トータス松本、斉藤由貴……という、1966年生まれのアーティストがズラリと顔を揃える驚異の豪華ユニット「ROOTS66」による楽曲「レッツゴー!ムッツゴー!6色の虹」が使用された。さらに後半には、高橋幸宏プロデュースによるスペシャルユニット「The おそ松さんズ」が登場。鈴木慶一、大貫妙子、矢野顕子、奥田民生、柴咲コウ、小原礼、鈴木茂、佐橋佳幸、重住ひろこ(SMOOTH ACE)、Dr.kyOn、ゴンドウトモヒコらが参加しているという、目も眩むような豪華メンバーによる楽曲「大人÷6×子供×6」がエンディングを飾っている。第1期の爆発的ヒットを追い風にしつつも、そこに安住しない挑戦的な姿勢が随所に見られた第2期『おそ松さん』。このゴージャスなエンディングも、そうしたチャレンジスピリットの現れなのだろうが、下世話ギャグ満載の本編とは若干ノリが乖離してしまった感は否めず、番組ファンの間では、第1期の「6つ子&声優」曲の感触を懐かしむ声が多かったのも事実。このあたりが、アニメソングというフィールドのチカラ加減の難しさ、といったところだろうか。とはいえ、「ROOTS66」メンバーたちの生年である1966年といえば、原作漫画およびアニメ第1作による『おそ松くん』人気の最初の絶頂期であり、あのジョン・レノンが「シェー!」をやった年。『おそ松くん』を巡る世代の輪廻は、ここで確実に50年間の輪をつなげるに至った、と言えるのではないだろうか。

今年の3月15日には完全新作の劇場用アニメーション『えいがのおそ松さん』が公開されるなど、このムーブメントはまだまだ健在である。我われが「赤塚イズム」を楽しむ心を失わない限り、今後も『おそ松くん』は何度でもよみがえるはずだ。

「おそ松くん」「おそ松くん2」「おそ松くん3」藤田まこと「おそ松くん」細川たかし「正調 おそ松節」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター、CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。

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