楽天・平石マジック 2試合連続サヨナラ勝利を導くベテラン起用法

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、5月9日のソフトバンク戦で絶妙な采配を見せた楽天・平石洋介監督と、みごとそれに応えた2人のベテランのエピソードを取り上げる。

楽天・平石マジック 2試合連続サヨナラ勝利を導くベテラン起用法

【プロ野球楽天対ソフトバンク】9回、サヨナラ打の銀次(右)を笑顔で迎える楽天・平石洋介監督(左)=2019年5月9日 楽天生命パーク 写真提供:産経新聞社

「監督が期待して送り出してくれるのは、本当にありがたい。最高の恩返しができたのかな」(渡辺直)
「いい所に打球が飛んでくれた。打球はどうであれ、勝ったので最高!」(銀次)

5月9日に楽天生命パーク宮城で行われた、楽天-ソフトバンク戦。今季のパ・リーグは、GWを終えた時点で首位・ソフトバンクが20勝に1番乗り。貯金を9として独走態勢を築いていましたが、連休明け、これに待ったをかけたのが楽天でした。
8日の3連戦初戦は、4回の時点で0-7と完敗ムードでしたが、小刻みに反撃して5点を返し、迎えた最終回。新外国人・ブラッシュのタイムリーと、ドラフト1位ルーキー・辰己涼介のエンタイトル二塁打で3点を奪って、大逆転でサヨナラ勝ち。

そして9日の第2戦も“平石マジック”が炸裂します。2-3と1点リードされた8回、先頭で代打として送り出したのが、ベテラン・渡辺直人でした。38歳の渡辺直は、平石監督と同じ1980年生まれで“松坂世代”の1人。
この世代の現役選手も少なくなって来ましたが、渡辺直は控えながら、ベンチではムードメーカーの役割を果たし、出場したときはチームプレーに徹する貴重な存在。平石監督からも絶大な信頼を得ています。ここは「同点への足掛かりを作ってほしい」という思いでの代打起用でした。
渡辺直はソフトバンク2番手・モイネロに対し、0-2と追い込まれながらフルカウントまで粘り、6球目の真っ直ぐを振り抜くと、打球は左翼ポール際のスタンドへ一直線! 何と、今季初安打が値千金の同点アーチになったのです。
実は、渡辺直がプロ13年間で打ったホームランはこれが7本目。想定外の1発にベンチはお祭り騒ぎ。平石監督も両腕を突き上げて大喜びしました。

「ホームランは99%、期待していなかった。なかなか出番がないなかで、直人はいつも先頭に立って声を出してくれている。大きな仕事をしてくれて、本当にうれしかった」(平石監督)

これで同点に追い付いた楽天は、9回表、守護神・松井裕樹が登板。ソフトバンク打線から3三振を奪い0点に抑えると、その裏、ソフトバンク3番手のルーキー・甲斐野央から、島内宏明・ウィーラーが連続ヒットで、無死一・二塁とサヨナラのチャンスを作ります。
ここで打席は、今年14年目の31歳・銀次。打っては勝負強いバッティングでチームに貢献。今季は総力戦で控え捕手がいなくなったとき、1軍では初のマスクをかぶったり、フォア・ザ・チームの精神にあふれた選手です。
セオリーではこの場面、バントでランナーを二・三塁に進め、外野フライでもサヨナラの状況を作りたいところ。実際、銀次は初球を三塁線にバントし、ファール。ソフトバンク側は、当然次も送って来るとみて、2球目からバントシフトを敷いてきました。
一塁手が猛チャージし、二塁手は一塁のベースカバーへ。この瞬間、一・二塁間がガラ空きになったのを銀次は見逃しませんでした。実は打席に入る前、ベンチから「一塁手がチャージして来たら、打て!」という指示が出ていたのです。

銀次も、バントシフトを敷いて来たら「投手は真っ直ぐを投げてくる可能性が高い」と読み切っていました。バントの構えから、サッとヒッティングに切り替えると、打球は誰もいない一・二塁間を抜け、二塁走者・島内が生還。楽天は終盤、ベテラン2人の活躍で、2試合連続の劇的なサヨナラ勝利を飾ったのです。

「銀次はバットコントロールがうまいので信頼していた。よく勇気を持ってやってくれた」(平石監督)

これで楽天は、4連敗から3連勝。貯金を2とし、首位・ソフトバンクに2.5ゲーム差の2位に浮上しました。ソフトバンクとの対戦成績も、4勝4敗のイーブンに戻しています。
今季の楽天は、西武からFAで浅村栄斗を獲得。打線は強化されたものの、先発ローテの柱、則本昂大・岸孝之が相次いで離脱。Wエースが両方欠けては、今季も苦しいだろうというのが大方の見方でした。
しかし、昨年(2018年)の監督代行から、今季正式に昇格した平石新監督の大胆な采配が当たり、予想外の健闘を見せています。選手起用がズバズバ当たるのも、選手個々の能力をよく見極め、信頼しているからこそ。

「若手からベテランまで、本当によくやってくれている」(平石監督)

今季のパ・リーグ、このまま平石マジックが続けば、台風の目どころか最下位から6年ぶりの優勝だって、決して夢ではありません。

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