水族館プロデューサー・中村元が語る「水族館を成功させる発想の転換」

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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に、水族館プロデューサーの中村元が出演。自身がプロデュースした水族館の経験からその成功する秘訣について語った。

水族館プロデューサー・中村元が語る「水族館を成功させる発想の転換」
黒木)今週のゲストは水族館プロデューサーの中村元さんです。水塊を感じるところが水族館だということですが。

中村)水中世界に入っている感覚を出すとすごく良いのです。それを見せるのが水塊です。たとえば僕が手掛けたサンシャイン水族館には、ケープペンギンというペンギンがいました。

黒木)ケープペンギン?

中村)はい、普通のペンギンです。どこの水族館にもいるので、それほど人気がありませんでした。でも、サンシャインシティのビルの屋上に水槽があったので、上も目の前も空に囲まれた水槽のなかにペンギンを泳がせてみようと考えました。それを「空飛ぶペンギン」として売り出したら、お客さんがそのペンギンだけを見たいと言って集まって来たのです。同じペンギンですよ。水中の広さを、空を借景にして作ったので、開放感があって、「うわあ、ペンギンだ! 生き生きしたペンギンだ!」と思えたから、皆来てくれるようになったのですね。

黒木)そこに工夫があるわけですね。お客様がどうやったら見に来るかという。

中村)何を見たいかですよね。水族館に何を見に来るか。大人は浮遊感が大好きなのですよ。

黒木)大人は浮遊感が好きとは、どういうことですか?

中村)疲れているからです。女性は潤いが好きです。これは分かりますよね。

黒木)水ということ?

中村)はい。潤いのある、いかにも水を感じられるような空間づくりをすれば、お客さんは満足してくれます。

黒木)だから中村さんは水族館プロデューサーなのですね。

中村)でもお客さんたちがそんな風に考えていないから、それを上手いこと騙すことができるのです。「これは海ですよ」と。

黒木)そういう気分にしていただくということですよね。天空のオアシスということですね。

中村)そうです。サンシャイン水族館は天空のオアシスという水族館にしました。

黒木)そして北の大地の水族館というのは、どういう水族館なのですか?

中村)これは北海道の山のなかにポツンとある水族館です。それ自体で存在そのものが面白い。

黒木)そうですよね。

中村)人が来るわけ無いのです。しかもいる魚は北海道の川の魚だと言うのだけれど、北海道の川の魚はすべて鮭です。鮭と鱒ですよね。両方同じです。どうしたらいいかと思いました。北海道の湖だとか川の水塊を見せようと考えたのです。滝つぼの下から覗くようなところや、神秘の湖みたいなものを作って見せる。
最高に受けたのが「凍った水槽」です。滅茶苦茶寒いところでしたから、寒くて人が来ないと言うのです。だったら寒いことを利用して、冬になったら凍っちゃう水槽を作ろうと考えたのです。外に作ったら安くできる上に、冬になったら凍るのです。魚は氷の下でじっと春を待つ。

黒木)え!?

中村)知らないでしょう? 北海道の人も知りませんでした。川に氷が張ったら魚はいなくなっていると思っていたのですよ。実はどこにも行かずに、下でじっと待っているのでそれを見ましょうということになりました。水槽の下までは凍らずに、水が流れていますから。

黒木)凍った水槽の下にじっと魚がいるわけですか。

中村)そうです。

黒木)でもそうしたら飼育できないではないですか。どうするのですか?

中村)その間はエサを食べなくても平気です。冬眠状態になるわけです。

黒木)魚が?

中村)はい、寝たように泳いでいます。ただ、それでも氷を通して光が入るので窓に苔が生える。その苔を除きに、飼育スタッフは潜って窓を掃除します。

黒木)その北海道の水族館は、極寒の気候を活かしたということですね。

中村)そうです。

黒木)つまりマイナスからの発想の転換ですよね。

中村)弱点を利用するのがいちばん楽なのですよ。長所を利用したら絶対に損。

黒木)それも発想の転換です。通常は良いところを探して、そこを伸ばそうというのが普通ですが。

中村)良いところを探すと、良いところというものは一般的に皆も良いから、もっと良いやつがたくさんいるのです。ライバルのなかに飛び込んで行きたくないでしょう。足が速いからオリンピック選手になれますか? なれないですよね。「足が遅いからどうしよう」と考えた方が上手く行く。

黒木)弱点というものも武器になるわけですね。

中村)絶対に武器になります。

水族館プロデューサー・中村元が語る「水族館を成功させる発想の転換」
中村元/水族館プロデューサー

■1980年、成城大学卒業後、(株)鳥羽水族館に入社。アシカトレーナーから企画室長、新鳥羽水族館プロジェクトの責任者をへて、副館長に。
■2002年、鳥羽水族館副館長を退任、退職。新江ノ島水族館プロジェクトのアドバイザーに。2008年まで新江ノ島水族館、展示監督。
■現在、東京コミュニケーションアート専門学校教育顧問(ドルフィントレーナー学科講師)。

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