巨人・髙木京介投手 松井秀喜からの厳しくも温かいエール

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、失格処分を乗り越え、5月2日の中日戦で4年ぶりの勝利を挙げた、巨人・髙木京介投手のエピソードを取り上げる。

巨人・髙木京介投手 松井秀喜からの厳しくも温かいエール

【プロ野球巨人対中日】 5回から登板し、勝利投手となった巨人・高木京介投手 =東京ドーム 撮影日2019年05月02日 提供産経新聞

「久しぶりすぎて何と言いますか…。不思議な感じ。たくさんの方に支えられて、勝ちがあると思います」 

2日に東京ドームで行われた、巨人-中日戦。巨人は先発・ヤングマンが序盤に3点を失い、5回に連打を浴びて途中降板。2点リードを許し、なおも1死1、2塁のピンチ。ここで2番手としてマウンドに上がったのが、髙木京介でした。

「ここで流れを変えてやろうと思った」

今季4度目の登板となった髙木。開幕以来、中継ぎ陣に不安が残る巨人ですが、髙木はここまで3試合に登板して1失点と、まずまずのピッチングを見せていました。

「流れを変えてやる」の言葉どおり、まずは高橋を0ボール・2ストライクと追い込むと、3球目は1球遊ばず、アウトローに真っ直ぐを投げ見逃し三振!続く阿部をレフトフライに打ち取ってピンチを切り抜けると、ここから試合の流れは一転します。

その裏、2死から岡本の放った内野フライが天井を直撃。角度が変わって中日野手陣の間にポトリと落ち、ラッキーな同点タイムリーに。直後、動揺した中日先発・ロメロが陽に看板直撃の特大3ランを浴びて、巨人は一気に逆転。髙木に勝利投手の権利が転がり込みました。

その後、巨人はさらに3点を追加。9-3で快勝し、髙木は2015年10月3日以来5年ぶり、実に1307日ぶりの白星を挙げたのです。ホームランを打った陽・炭谷とともに、久々のお立ち台に上がった髙木は、こうコメントしました。

「久しぶりすぎて何と言いますか…。不思議な感じ。たくさんの方に支えられて、勝ちがあると思います」

高木は北陸の名門・星稜高出身で、2007年夏の甲子園に出場。国学院大を経て、11年、ドラフト4位で巨人に入団しました。左の中継ぎとして1年目から活躍。ルーキーイヤーの12年には、セ・リーグ新人記録の29試合連続無失点をマーク。優勝に貢献しました。

以後もリリーフで活躍を続け、15年には「プロ初登板から117試合連続で黒星なし」というプロ野球新記録を達成(現在もこの記録は継続中)。まさにチームにとって欠かせない戦力だったのです。

ところが……15年のオフに明るみに出た、巨人3選手による野球賭博に、髙木も関与していたことが判明。3選手にはNPBから「無期失格処分」が下され、球界から事実上の永久追放となりましたが。髙木だけは、1年間の有期失格処分となりました。

賭博に関わった期間が短く、金額も他の3人に比べると少なかったこと、1人で会見に臨み、深い反省の姿勢を見せたことなどが考慮されたのです。

もともと野球賭博関与も、人の良さにつけ込まれてしまった面もあり、誰もが認める真面目な人柄と、リリーバーとしての能力の高さも、復帰の道が開かれた大きな理由でした。

失格処分中は、母校・国学院大のグラウンドで練習を続け、処分が明けた17年3月に、育成選手として巨人と再契約。その後、3軍戦や2軍戦、オープン戦で実績を積み上げ、昨年3月、再び支配下登録。1軍の試合に出場できる資格を、ついに勝ち取ったのです。処分から実に2年が経過していました。

もちろん、復帰を歓迎する声ばかりではなかったのも事実です。髙木自身「自分の過ちは消えることはない」と批判は覚悟の上でしたが、昨年の1軍登板は、結局わずか3試合にとどまりました。精神的に過去を引きずっていたことで、本来の力が十分に発揮できなかったのです。

そんな髙木に対し、厳しくも温かいエールを贈った人物がいました。星稜高の先輩であり、巨人軍の先輩でもある松井秀喜さんです。17年のシーズン中、髙木が巨人と再契約したことについてどう思うか聞かれた松井さんは、こう答えました。

「復帰をみんなに納得してもらえることは、まずない。ただ、『戻して良かった』と思ってくれる人が少しでも増えるような姿勢を見せてほしい」
「結果で恩返しをする、ということではない。そういう姿勢を示すことが大事だと思う」

ファンは、グラウンド上のプレーだけを見ているわけではない。私生活も含めて、どれだけ自分を律することができるのか?……ひとたびファンの期待を裏切った髙木は、結果だけではなく、「野球に対する真摯な姿勢」も示してもらいたい。その積み重ねで、再び信頼を取り戻さなければ、真の復帰とは言えない……そんな先輩・松井さんの言葉を肝に銘じ、髙木はこれからもマウンドに立っていきます。

「もがいて、もがいて、もがきながら、ここまで来た。ここからがスタート。1日1日頑張っていきたい」

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