天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第599回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、4月12日公開の『荒野にて』を掘り起こします。


新星チャーリー・プラマーの瑞々しさが光るヒューマンドラマ

天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て
小さい頃に母が家出し、愛情深いがその日暮らしの父とふたりで暮らすチャーリー。家計を助けるために競走馬リーン・オン・ピートの世話をする仕事をしていたが、ある夜、父が愛人の夫に殺されてしまう。

15歳で天涯孤独の身となってしまったチャーリーの元に、追い打ちをかけるように届いたのは、試合に勝てなくなったピートの殺処分の決定通知だった。チャーリーはピートを連れて、唯一の親戚である叔母を探す旅に出る。しかし彼らの前に広がるのは、あまりに広すぎる荒野だった…。

天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て
『さざなみ』で長年連れ添った夫婦の絆が揺らぐ姿を描き、2015年ベルリン国際映画祭 銀熊賞のW受賞(主演女優賞、主演男優賞)に輝き、さらに2015年全米映画批評家協会賞では主演女優賞を獲得するなど、その才能にいま世界の注目が集まっているアンドリュー・ヘイ監督の最新作『荒野にて』。

孤独な少年と、年老いた競走馬。ひとりと1頭が歩む旅路を、荒々しくも美しく描き出しました。

天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て
主人公のチャーリーを演じたのは、リドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』で、誘拐される孫役に抜擢されて注目を集めた新星、チャーリー・プラマー。人を疑うことを知らず、瞳にはあどけなさを宿す少年の心の揺れを瑞々しく演じ、第74回ヴェネチア国際映画祭ではマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しました。

またチャーリーの“相棒”となる競走馬ピートを演じた、役者馬のスタースキーの存在も特筆もの。本作で映画デビューとは思えない堂々とした存在感で、観客を魅了します。

プラマーは撮影の3週間前から、“共演者”である体重680kgの馬と信頼関係を築くためのアクティビティを重ねたとか。そのなかから次第に生まれた演技を超えた絆と確かな化学反応が、各シーンから受け取ることができます。

天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て
ひょっとしたら本作をご覧になる方のなかには、15歳の少年の過酷で切ない体験を、“荒野”という名の“社会”でもがいている自分自身と重ね合わせてしまう人もいらっしゃるかもしれません。そんな人にとっては、チャーリーとピートの姿から、一筋の希望を見出さずにはいられないことでしょう。

弱くても心細くても、人生はどんなことがあっても前に進んで行かなければいけない。彼らの命の尊さを、あなたの目にしっかりと焼き付けて。

天涯孤独の少年と年老いた馬の旅路の果て
荒野にて
2019年4月12日からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
監督:アンドリュー・ヘイ
原作:「Lean On Pete」ウィリー・ヴローティン(北田絵里子訳、早川書房刊)
出演:チャーリー・プラマー、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー、トラヴィス・フィメル、スティーヴ・ザーン
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017
公式サイト https://gaga.ne.jp/kouya/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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