カリスマ先生の指導でわずか半年で全国大会に奇跡の出場を果たした高校のブラスバンド 【10時のグッとストーリー】

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

今日は、まったく無名だった長崎の高校のブラスバンドが、新しく赴任した顧問の先生によって、わずか半年で、全国大会に奇跡の出場を果たしたというストーリーをお届けします。

「吹奏楽のカリスマ先生」として知られる、藤重佳久(ふじしげ・よしひさ)さん・61歳。
福岡の名門・精華(せいか)女子高校の吹奏楽部で35年間にわたって顧問を務め、熱心指導とユニークな指導法で、「ブラスバンドの甲子園」と呼ばれる「全日本(ぜんにほん)吹奏楽コンクール」に通算19回出場。
金賞を10回受賞するという輝かしい実績を残しました。

その藤重さんが、去年の春、精華女子高校を定年退職。
新たな挑戦の場として選んだのが、長崎の女子校、活水(かっすい)中学・高等学校でした。
それまでまったく縁がなかった土地にあえて赴任した理由は「人生、常にチャレンジ」がモットーだから。
たとえ失敗しても、新しい発見があればいい。
そんな意気込みで、藤重さんは新天地・長崎へと向かいました。

活水中学校,活水高等学校

活水中学校・活水高等学校 校門 (同校) Facebookより

ところが…藤重さんが赴任したときの、吹奏楽部の部員数はたった20人前後。
初心者ばかりでコントラバスを演奏できる部員もおらず、定期演奏会を開くことすら、ままならない状態でした。
もちろん、コンクールへの出場経験もほとんどなく、吹奏楽の世界ではまったくの無名校。
しかし、藤重さんが就任するという話を聞きつけ、県内だけでなく他の県からも新入生が集まり、部員は一気に増え、45人に。
それでもまだ、コンクールに参加できる最大人数・55人には満たない状況でしたが、中学生の部員たちも加えて、音に厚みを出していきました。

藤重さんの指導方針は一貫しています。
目標は「部員たちが笑顔で、楽しく演奏すること」。
練習の前に「藤重劇場」と銘打って、面白動画を部員たちに見せ、笑わせてから練習に入ります。
そして指導も、楽しく、分かりやすく。
最初は技術がおぼつかなかった生徒たちも、藤重さんの指導のおかげで、まるでスポンジが水を吸収するように、腕を上げていきました。

「もう1分後には変わってるというんですか、言ったら変わる、言ったら変わる…もう、秒単位で良くなっていきますね」

藤重さんは、全体練習とは別に、部員一人一人に必ず個人レッスンをします。
ただし、時間は一人につき1分だけ。
その生徒にとって必要なこと、エッセンスだけを伝えるそうです。

「意外とね、抽象的な言葉が分かりやすい場合がありますね。もっとワクワクするようにやろう、クレッシェンドは『だんだん大きく』じゃなくて『だんだんワクワクする』みたいなことを言うと、違いますよね。『飛行機のテイクオフするクレッシェンドじゃなくて、ジェットコースターみたいなクレッシェンド」って言ったら、もうみんなビックリしますね。ヒヤヒヤドキドキ、ああいうやっぱりこう、生活感のある言葉っていうんですかね。そういうふうにやると、分かりやすいですね」

そしてもう一つ… 長い練習をするときには、部員たちに必ずやらせていることがあります。

「一日練習する場合は、必ず勉強時間と、昼寝をさせました。シエスタ。20分ぐらいですけどね。2〜30分寝てもいいんじゃないか?僕もその時間、楽ですからね」

こんなポリシーもあります。
コンクール前は、課題曲しか練習しない学校も多い中、藤重さんはあえてそれ以外の曲の練習もさせました。
一見、遠回りに思えますが、その理由は「いろんな曲を演奏することで、いい耳を養う」こと。
それが音の深みにもつながっていくのです。

第1回活水中高吹奏楽部定期演奏会

第1回活水中高吹奏楽部定期演奏会 活水中学校・活水高等学校(活水高校) Facebookより

こういったメリハリのある練習で実力を付けていった活水中学・高等学校の部員たちは、7月の長崎県大会で金賞を受賞し、九州大会へ。
そこでも金賞を受賞し、11月の全国大会に駒を進めると、銅賞を獲得したのです。

高校野球に喩えると、地方大会で毎年初戦敗退していた学校が、いや、出てさえいなかった学校が、突然甲子園に出場したようなもの。
藤重さんは就任わずか7ヵ月でミラクルを起こしました。

最後に、藤重さんにこんな質問をしました。
…定年になっても、ブラスバンドを指導し続けるのはなぜですか?

「同じ演奏は二度とないからですね。毎回毎回違うし、気持ちの入れ方でも違いますね。だから面白いですね」 

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE & MELODY 2016年9月17日(土) より

八木亜希子,LOVE&MELODY