あのラジオドラマが映画になりました。

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第591回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、3月22日に公開された『ソローキンの見た桜』を掘り起こします。


捕虜と看護師、そして敵国同士。切なくも儚い愛の物語。

あのラジオドラマが映画になりました。
日露開戦100年にあたる2004年に、RNB南海放送が制作・放送した『~松山ロシア人捕虜収容所外伝~ソローキンの見た桜』。2005年の第1回日本放送文化大賞で、「ラジオグランプリ」を受賞したラジオドラマです。3月17日には、RNB南海放送、ABCラジオ、東海ラジオ、ニッポン放送で放送され、お聴きになった方も多いのではないでしょうか。

この切なくも美しい物語が映画となり、現在、全国で公開中です。

あのラジオドラマが映画になりました。
2018年、駆け出しのテレビディレクターである桜子は先輩・倉田の指示により、ロシア兵墓地の取材のためにロシアへ赴くことになるが、その仕事に興味を持てずにいた。そんななか、祖母・菊枝から自身のルーツがロシアにあるという話を聞かされることに。

祖母の手元にあるのは、日露戦争時代に看護師をしていた先祖・ゆいの日記。傷ついたロシア兵捕虜の看護にあたっていたゆいは、戦争で弟を亡くしたため、心の奥底ではロシア兵を許すことができずにいた。そんな彼女の思いを知ったロシア軍のソローキン少尉は、その悲しみを取り除いてやりたいと心から願っていた。

ロシア兵を憎む一方で、ソローキンの寛大さや女性を敬う考え方に惹かれて行く、ゆい。そしてソローキンもまた、ゆいに想いを寄せて行く。しかし、捕虜と看護師。さらに敵同士という間柄の2人の恋は、決して許されるものではなかった…。

あのラジオドラマが映画になりました。
当時、世界で一流国と認められるために、日本はハーグ条約遵守を意識していたこともあり、日本で初めてのロシア兵収容所となった松山市の収容所には塀を設けなかった。ロシア兵捕虜たちはアルコールの購入や外出などの自由を認められており、松山市民と交流もしていた。

戦争中の2年の間に収容所で亡くなった98名の兵士の墓が松山市内にあり、いまも市民が足を運び、清掃活動が行われています。そういった歴史的事実にラブストーリーを絡めながら、日露戦争当時と現代という2つの時代を描いて行く人間ドラマ。春になれば美しく咲き、優しく散って行く桜のように儚くも美しい映画となっています。

あのラジオドラマが映画になりました。
戦争さえなければ一緒に桜を愛でることができたはず。しかし皮肉にも、戦争がなければ2人は出会うことさえできなかった…。桜咲く春にこそ観てほしい、オススメの1本です。

あのラジオドラマが映画になりました。
ソローキンの見た桜
2019年3月22日(金)から角川シネマ有楽町ほか全国公開/3月16日(土)愛媛県先行公開
監督・脚本・編集:井上雅貴
原案:青山淳平
原作:田中和彦
脚本:香取俊介
音楽:小野川浩幸
出演:阿部純子、ロデオン・ガリュチェンコ、山本陽子(特別出演)、アレクサンドル・ドモガロフ、六平直政、海老瀬はな、戒田節子、山本修夢、藤野詩音、宇田恵菜、井上奈々、杉作J太郎、斎藤工、イッセー尾形
©2019「ソローキンの見た桜」製作委員会
公式サイト https://sorokin-movie.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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