あけの語りびと

『学校を変えた校長講話』~聞きたくなる“校長先生の話”とは?

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

卒業式シーズンたけなわ。卒業をめぐるいい話を連日、耳にします。

長崎県の佐世保市立小佐々中学校の美術の教師は、卒業生60人の似顔絵を黒板に描いて、その門出を祝った。
栃木県の上三川小学校では、児童たちが感謝を込めて、定年の校長先生にも手づくりの「卒業証書」を手渡した。

こんなふうに胸に残る卒業式だけならいいのですが、現実は違うようです。「校長や来賓の話は長くてつまらなかった」というのが多くの人の感想。早く終わらないかなぁ、と思った経験をお持ちの方が多いと思います。

広島県立広島中学校・高等学校の前校長 榊原恒雄 先生(榊原恒雄氏 提供)

さて、広島県立広島中学校・高等学校の前校長、榊原恒雄先生の話は違いました。生徒たちのみならず教職員もそろって、熱心に耳を傾けたと言います。

榊原校長が、広島商業高校からこの学校に就任したのは2008年。以来9年間の在任中、式典や学校集会での講話や文集などに寄せた言葉、ホームページの文章は多くの感動を呼びました。榊原さんは当時を振り返ります。

「広島中学校・高等学校は、県立の中高一貫のモデル校として2004年に開校したばかりでした。校内を見て回ると、掃除の行き届いていない箇所が目についたんです。そこで私は、時間を守る、挨拶をきちんとするなど、人間として大切なことをまず教えたい。学校ですから偏差値も進学率も大事でしょう。けれども『当たり前のことをバカにしないで、ちゃんとする。それができる人』を育てたいと思ったんです」

あらゆる題材から講話を考えると言う榊原さん(榊原恒雄氏 提供)

こんな思いから、榊原さんは自分の講話の中身に全力を注ぐようになりました。
「月1回の学校集会では、中・高合わせておよそ1,200人の生徒に話します。10分×1,200人=とんでもない時間です。粗末にはできません。最初に心がけたのは、同じ話をしないこと! 中学生によく分かり、高校3年生にはためになる話をすること!」

新聞の隅々まで目を通して時事ネタを拾う、図書館に通って古今東西の偉人たちの言葉を見つける。自宅の畑で掘った大根も題材になりました。

榊原恒雄さんは元々、数学の教師。数学で使う道具を使った講話も得意です。
「みなさんは、分度器を知っていますね。角度が1度の目盛りを思い出してください。ノートに10cmの線を引いたとき、1度の高さは1.7mmです。1m先までのばすと、1.7cmの高さになります。1km先まで行けば、17mの高さになるんです。地道で目だたない努力の積み重ねが、長い年月を経ると大きな差になって現れるのです。1度の角度の努力を続けましょう!」

ときには野菜も講話の題材に(榊原恒雄氏 提供)

昔の言葉を使ったときは「分からない」と生徒に質問されたそうです。
「『今日の一針 明日の十針』という言葉が分からないと言われました。これは縫い物の言葉で、きょう縫えば1針で済むところでも、明日なら10針縫わなければならない、ということだと説明しました」

榊原校長が学校集会で話すときは、演台を使ったそうです。その演台の下には、カボチャ、ハクサイ、ブロッコリー、様々なものを忍ばせたと言います。ある日は、実家の農家の畑で掘ったダイコンを用意しました。榊原さんは、そのダイコンを高く掲げると言いました。

「何にでも『最適な時期』というものがあります。みなさんはいま、何をする時期でしょうか? 将来の花を咲かせるため、頭や体を鍛える時期なのです」

実家の畑で掘ったダイコンも使います(榊原恒雄氏 提供)

1,200名の興味をそらさないために必死でした、と振り返る榊原さんですが、話の途中でたった1度だけ、大きな声で怒鳴ったことがあると言います。
「うるさい!」高校3年生の私語が、あまりに大きかったためでした。けれども榊原さんは、その後でこう反省しています。「生徒が私語をしたのは、私の話に魅力がなかったためだ。恥ずかしい」

同じ話をしないなど、ためになる話を心がける榊原さん(榊原恒雄氏 提供)

言葉の大切さを教えるために、詩を引用したこともあります。

『その一言で、励まされ その一言で、夢を持ち
その一言で、腹が立ち その一言で、がっかりし
その一言で、泣かされる ほんのわずかな一言が
不思議な大きな力を持つ ほんのちょっとの一言で…』

これまでで、いちばんウケたのは、高校3年生に向けてのこんな講話。
「もう何も迷わないで進んでほしい! 目指すのは『栄光の架橋』だ!」こう叫んだ榊原校長は、自宅の庭で採った「ゆず」を高く掲げました。このシャレに気づいた3年生からは割れんばかりの拍手が起き、体育館は大変な熱気に包まれたと言います。

『学校を変えた校長講話』/トーク出版

こうして続けた榊原校長の講話のうち、153編がこのたび1冊の本にまとまりました。
広島県内の学校情報や受験情報などを発行している地元の出版社「トーク出版」の社長・石田利英さんが、榊原校長の元へ何度も通って、やっと出版に漕ぎつけたと言う本です。

タイトルは『学校を変えた校長講話』。「トーク出版」のホームページからお求めになれます。

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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