“米中関税引き上げ先送り”でも米中摩擦が終わることはない

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月25日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。米中関税引き上げの先送りについて解説した。

“米中関税引き上げ先送り”でも米中摩擦が終わることはない

ワシントンで始まった米中の閣僚級貿易協議(アメリカ・ワシントン)=2019年2月21日 写真提供:時事通信

米中関税引き上げ先送り検討~来月首脳会談で合意へ

アメリカと中国は閣僚級の貿易協議を2日間延長し、週末も交渉を続けた。来月にも開く首脳会談で合意を目指す構え。両国は貿易の不均衡や人民元安の解消で一部合意にこぎつけ、トランプ大統領は3月2日からの関税引き上げを1ヵ月程度猶予することを検討している。

飯田)何を譲歩するかというところで、中国側は小出しで意味が無いのではないかという指摘も一部あったようですけれど。

須田)貿易摩擦の歴史を振り返るときに、時間軸を頭に浮かべて考えると分かりやすいです。もともと1950年代から60年代、70年代前半ぐらいまでは、関税を巡る問題が貿易摩擦のメインテーマでした。それが関税障壁と言われたものです。70年代半ばから後半以降になって来ると、非関税障壁、関税という目に見えるものではなく、ルールであるとか国内の体制、流通などの問題を複雑にすることによって外国製品が入って来にくくする。いわゆる非関税障壁の時代に入って行ったわけです。

“米中関税引き上げ先送り”でも米中摩擦が終わることはない

米中閣僚級貿易協議を前に撮影に応じるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表(左)、中国の劉鶴副首相(中央)、ムニューシン米財務長官(右)(中国・北京)=2019年2月14日 写真提供:時事通信

中国が知的財産の問題に譲歩しない限り米中貿易摩擦は終わらない

須田)それがいまは外国企業の企業秘密を抜き取って、いち早く製品化して売る。あるいはそれに国家が関与しているという、3番目のステージに入っています。トランプ大統領のやっていることは古いのですよ、第1ステージの時代のスタンスで交渉をしている。いまアメリカの政府サイドとしては第3ステージ目の問題で、例えばそれはファーウェイ問題を筆頭とする摩擦を起こしている。ですから大豆の大量買い入れ、あるいは中国の貿易黒字の圧縮ということを言っても、トランプ大統領の頭のなかでは納得するかもしれませんが、アメリカ産業界を含めたところでの納得、説得にはならないのではないかなと思います。
本丸は第3ステージの知的財産をめぐる問題なのです。これに対して中国が譲歩する姿勢を見せない限り、米中貿易摩擦は決して解消に向かうことは無いと思います。

飯田)中国側としては先送り先送りで小出しにして、何とか勝ち取って行きたい。ただアメリカは、大統領はどうか分からないけれども、それ以外のところはそう崩せないということになりますね。

須田)そうですね。ですから司法的な手続きは着々と進んでいる。アメリカトータルの意思としては、知的財産の問題を巡って中国包囲網を敷こうとしています。別にそれはトランプ大統領の指示ではありません。ですからトランプ大統領の納得、譲歩を得たとしても、決して米中貿易摩擦は解消に向かうことは無いのだろうと思います。

“米中関税引き上げ先送り”でも米中摩擦が終わることはない

中国広東省深圳市にある華為技術(ファーウェイ)本社キャンパス(ゲッティ=共同)=2018年12月7日 写真提供:共同通信社

米中貿易摩擦は安全保障問題とリンクしている

飯田)須田さんがかねてから指摘されていたファイブ・アイズという国々。イギリスなどを含めたアングロサクソン系の国々ですが、その辺りはもうファーウェイを使わないと宣言して、それに対して中国も半ば報復的なことをしています。かなり抜き差しならないところまで来ている感じがありますが。

須田)これは単に経済問題、貿易問題ではなくて、安全保障問題とリンクしていますからね。ですから貿易黒字がどうの、赤字がどうのではなく、安全保障上でどう行動すべきなのかということです。貿易問題という一現象面だけ見ても問題解決にはつながらないでしょうし、将来の先行きを見通すことがナンセンスなのです。

飯田)日本にとってもファーウェイを使わずに、例えば5Gの新しい通信網を構築するなりというところに行かなくてはならないですよね?

“米中関税引き上げ先送り”でも米中摩擦が終わることはない
日本の問題は情報戦への危機意識がないこと

須田)日本にとって問題なのは、他のファイブ・アイズの国々と同様のレベルに達していないということなのです。日本の企業からどんどん企業秘密が抜き取られている、盗み取られている。そういう状況にあることを、経済産業省を含めてきちんとした認識を持っていない。まず認識を持った上で、それを防ぐためにはどうしたら良いのか。場合によってはスパイ防止法が必要であるならば法整備すべきなのですが、そういった危機感が欠如しています。
少なくともファイブ・アイズの他の国ではそういう問題意識を持った上で、ファーウェイの問題を捉えています。レベルがまったく違います。日本は非常に低い水準なのです。

飯田)いわゆる国内諜報というところも、例えばアメリカだったらFBIがあったり、イギリスだったらMI5があったりしますが、日本にはそういう組織もないし法律も無い。

シャープが鴻海に安く叩かれた本当の理由

須田)一例を挙げますと、シャープが安く買い叩かれたでしょう? その理由として簿外債務があったからとされていますよね。鴻海は中国共産党と非常に密接な関係にある。実を言うと、ほとんど日本のマスコミは公開していませんが、簿外債務は無かったのですよ。

飯田)無かったのですか!

須田)いいように情報戦にしてやられてしまったのです。

飯田)そうなると、不当に安く買い叩かれたということになるわけですよね。そして、そこには中国共産党の影もある企業だということになる。大損失ではないですか。

須田)こういうことが行われてしまうのですよ。大きな損失ですよ、これは。

飯田)でもそれが、シャープは目立つ大きな企業で大きな業界だから分かったけれども、基幹技術を持っている小さな業界や小さな企業だと…。

須田)もちろんです。頻繁に起こりますよ、そういうことが。

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