スポーツアナザーストーリー

G1レース史上初の女性騎手・藤田菜七子へ武豊もエール

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、17日、JRA所属の女性騎手として初めて、最も格付けの高いG1レースに騎乗した藤田菜七子(ななこ)騎手のエピソードを取り上げる。

【競馬東京フェブラリーステークス】コパノキッキングに騎乗し5着入線し検量に戻ってくる藤田菜七子騎手=2019年2月17日 東京競馬場 写真提供:産経新聞社

「いつもはテレビや競馬場で聞くファンファーレを、馬場の中で聞いた時は本当にすごくて……。泣きそうになりました」(藤田)

17日、東京競馬場で行われた競馬G1・フェブラリーステークス。ダート(砂馬場)でのチャンピオンを決める今年のG1レースの開幕戦ですが、この日、東京競馬場には6万人を超すファンが集結。馬券の売り上げも151億円超と、いずれも前年と比べて約2割増しという盛り上がりを見せました。
その大きな理由は、藤田菜七子騎手がG1に初騎乗したためです。JRA所属の女性騎手がG1レースに騎乗するのは、史上初めてのこと。その可憐なルックスでデビュー時からアイドル的人気を博している藤田ですが、デビュー4年目の今年は3週連続で勝利を挙げ、通算50勝も達成。決して人気だけではなく、着実に実力も磨いているのです。
去年、通算30勝を挙げた時点で、G1レースに騎乗する資格を得ましたが、もし勝てば歴史的快挙。その瞬間をこの目で見届けたい、というファンが競馬場に詰めかけました。

もちろん、初挑戦ですんなり勝てるほどG1は甘くありません。武豊騎乗のインティや、ルメール騎乗のゴールドドリームといった人気馬のなかに割って入るのは並大抵のことではありませんが、藤田騎乗のコパノキッキングは単勝4番人気を集めました。これも決して人気先行ではありません。
今回騎乗を依頼した馬主の小林祥晃さんは、風水研究家の「Dr.コパ」としても有名ですが、5年前にコパノリッキーで、このフェブラリーSを制しています。
コパノキッキングは生まれつき気性が荒い性格だったため、デビュー前に去勢(=セン馬)。去年の2月にダート戦でデビューすると、2着馬に8馬身差を付けて圧勝。その後6勝を挙げ、先月、根岸ステークスに勝ってフェブラリーSの優先出走権をゲット。ダート戦ではトップクラスの実力を誇っていました。
以前から、物怖じせず馬の能力を引き出せる藤田の実力を高く買い、「菜七子がG1に乗れるようになったら騎乗させる」と公言していた小林さんですが、あえてトップ級の実力馬をG1デビュー戦に用意したのは、もちろん「勝つため」です。

「菜七子はよく努力しているし、ここにきてバランスが良くなってきた。キッキングには当たりの柔らかいジョッキーが合っていると思う。それが菜七子を乗せようと思ったいちばんの理由なんだ」

藤田は小林さん所有の馬と相性が良く、通算50勝のうち5勝が「コパノ」の冠が付いた馬。しっかり結果を残しているのです。
フェブラリーSは、1,600mのマイル戦。コパノキッキングは、過去9戦がすべて1,400m以内の短距離馬。初のマイル戦、200m距離が伸びる分のスタミナをどう温存するかが、勝利へのカギになります。レース前、藤田はこうコメントしました。

「コパノキッキングと私のレースができればいいな、と。勝つイメージは大事だと思うので、こういう風に乗って勝ちたいというのはイメージしています」

いよいよ本番。ゲートが開くと、コパノキッキングは好スタートを決めますが、逃げを打った武豊騎乗のインティがうまくレースを支配し、スローペースに流れます。ハイペースの流れで、先に行った馬が最後の直線でバテたところを抜き去りたいコパノキッキングにとっては、厳しい展開になりました。
もちろん、そこは臨機応変。馬の様子も見て藤田が選択したのは、いったん最後方まで下げ、直線でのスパートにすべてを懸ける待機策でした。人気を背負っているだけに、なかなか勇気の要る作戦ですが、最後の直線で大外に馬を持ち出すと、そこから一気に追い込み、他馬を次々に抜き去り5着。先を行くインティには届きませんでしたが、初G1で掲示板に載る5着入線は実力の証。小林さんもレース後、こう藤田を讃えました。

「展開が向かなかったが、彼女の乗り方は満点。褒めたい。距離を心配していたら、あんな外を回して来られないよ。実際に伸びていたし、彼女のアイデアが正しかった」

そして、勝った武豊も、こんなエールを送りました。

「負けなくてよかった。彼女が勝って、僕が2着はキツい(笑)。5着は本当に立派。僕も初めてのG1は6着でしたから。彼女はこの経験を生かしてくれると思うし、今後は当たり前のように(G1に)乗れるようになっているといいですね」

レース後、目が潤んでいたように見えたことを報道陣に問われると、語気を強めて「泣いていません!」と返した藤田。この気丈さと、大舞台でも自分のレースに徹する冷静さがあれば、初のG1勝利はそう遠くないことでしょう。

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