1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品

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1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリースされた。

筒美京平による第2次三部作の第2弾、70年代アイドルの転換期を象徴するような作品である。彼女のデビュー曲「初恋のメロディー」に始まり「落葉のメロディー」「恋のレッスン」と続いた第1次三部作では作詞を盟友の橋本淳が担当していたが、第2次三部作では安井かずみを起用している。また前作にあたる第2次第1弾「ある事情」では編曲に新進気鋭の萩田光雄を抜擢していたのだが本作では筒美自身が手掛けている。安井かずみとは浅田美代子の「赤い風船」で本格的にタッグを組み、この曲の直前には郷ひろみの「よろしく哀愁」を大ヒットさせている。

1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品
1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品
この時期は1971-72年に新人としてデビューしたアイドル歌手が軒並み二十歳近くを迎えており、筒美が担当してきたアーティストたちもこぞって大人びた曲調へと方向を転換しつつあった。例えば南沙織は74年3月の「バラのかげり」あたりから秋の「夜霧の街」などしっとりとした楽曲が目立ち始め、翌75年にはニューミュージック系の作家を起用し始める。また麻丘めぐみは74年春の「白い部屋」を皮切りに哀愁味を帯びた曲調が目立ち、次の「悲しみのシーズン」を最後により歌謡曲色の強い作家陣へとバトンタッチしている。

1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品
小林麻美の場合はちょうど二人の中間に位置し、サウンドはソフィスティケートされながらもメロディー的にはある種和風の情緒を感じさせるものになっている。それに拍車をかけているのが小唄的なコブシを聴かせる彼女の唱法であり、かつてのいしだあゆみを思わせるその歌声はやはりスレンダー系美女の系譜に位置づけられるものといえそうだ。このあと彼女はもう1曲安井=筒美コンビによるシングル「私のかなしみ」をリリースしたのち再びモデル/女優業に専念、歌手活動の再開は1980年代半ばまで待たねばならないことになる。

1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品
1975年2月20日、小林麻美「アパートの鍵」がリリース~70年代アイドル転換期を象徴する作品
1974年度の歌謡曲シーンでは新人アイドルが不作の年とされ、花の中三トリオやキャンディーズに続く存在は現れなかった。そんな中で筒美京平はアルフィーやオフコースの作品で作詞家・松本隆とのコラボレーションを本格的にスタート、萩田光雄をアレンジャーに迎えた75年度の新人・太田裕美で独自のニューミュージック路線へと結実させている。また74年にCBSソニーへと移籍した秘蔵っ子の平山三紀に対してはフィリー・ソウルの台頭を意識した楽曲を提供、これも翌年デビューの岩崎宏美でのディスコ・サウンド路線へと繋げている。

このように時代の端境期にあっても次へ向けての仕込みを着実に行っているあたりが、筒美の長期にわたる作曲家生活を支えた秘訣だったのではないだろうか?

小林麻美「初恋のメロディー」「ある事情」「アパートの鍵」「私のかなしみ」麻丘めぐみ「白い部屋」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】榊ひろと(さかき・ひろと):音楽解説者。1980年代より「よい子の歌謡曲」「リメンバー」等に執筆。歌謡曲関連CDの解説・監修・選曲も手掛ける。著書に『筒美京平ヒットストーリー』(白夜書房)。
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