1982年の今日、田原俊彦「NINJIN娘」ザ・ベストテン1位獲得。 【大人のMusic Calendar】

NINJIN娘,田原俊彦

1982年の9月9日、TBSの『ザ・ベストテン』で田原俊彦の10作目「NINJIN娘」が前週に引き続き1位を獲得した。オリコン・チャートでは2位どまりだったこの曲、同番組ではトータル3週連続で首位をキープしている。

「NINJIN娘」は、フジテレビ系の幼児向け番組『ひらけ!ポンキッキ』で今月の歌に選ばれ、曲中でも、なぎら健壱が歌った『ポンキッキ』の人気曲「いっぽんでもニンジン」を引用するなど、仕掛け満載の楽しいナンバー。曲想はオールドタイミーな、ディキシーランド・ジャズである。

戦前・戦後から60年代ぐらいまで、流行歌~歌謡曲のベースにジャズが応用されることはごく当たり前であったが、さすがに80年代以降、チャート上位を争うトップ・シンガーのシングルA面ではほとんど見当たらなくなった。それゆえ現役のトップ・アイドルがダンス・パフォーマンス込みで“見せる”タイプの楽曲にジャズを持ってくるとは意表を突く発想であった。しかもエンディングでスローな2ビートに変わり、ビッグ・バンド風の演奏で終らせる見事な楽曲構成である。

作詞・作曲は宮下智(みやした・とも)。従来のアイドル・ポップスとはあまりにも異なる作風は、当時としても大変に斬新なものであったが、この宮下智という作家、田原俊彦の作品以外では、ほとんど名前を見ない。いったい誰だったのか?

宮下智は本名、盛岡夕美子。56年東京生まれで、学習院女子高校1年時に米国に留学、ピアニストのヨルダ・ノヴィックに師事し、米国のピアノ・コンテストで何度も1位に選ばれるほどの才能をもち、75年にサンフランシスコ音楽院に入学、同学院を首席で卒業した79年に帰国。元々はクラシックのピアニストだが、帰国後にクラシック音楽の活動のかたわら、歌謡曲の楽曲提供をはじめる。

その最初のヒットが田原俊彦の2作目「ハッとしてGood!」だった。グレン・ミラー風のスウィングをアイドル歌謡に導入し、アイドルらしいキメ(ハッとして、グッときての部分)のつくり方も面白い。この必ず入る“キメ”が宮下作品の特徴で、作詞と作曲、両方を手がけることで独自のワールドが生み出されているのだ。

1作あけての「ブギ浮ぎ I LOVE YOU」では、最初は普通のポップスで始まり、途中でブルース・コードになり曲調もロックンロールに変化、そしてトシちゃんの高笑いが歌に組み込まれ、♪バカだね~、でしめる凝りまくった曲構成である。

続くラテン・ディスコ調の「キミに決定!」も、やはり途中の♪キミに~けってーい!の部分でトシちゃんの絶叫とともに♪キンコンカンコーン!と「のど自慢」の合格風に鐘が鳴り響き、間奏でアフロ・キューバンのルンバ「南京豆売り」のフレーズを引用しているのも楽しい。歌詞の内容にあわせ曲調を様々に変化させる技法は、作詞と作曲が同一人であるからできること。極めつけは84年2月に発売された「チャールストンにはまだ早い」で、20年代に大流行したダンス「チャールストン」のリズムを導入。爪先を内側に向け膝から下を左右に跳ね上げるダンスを田原俊彦が完璧に踊りこなしている。パフォーマーとしてのトシちゃんを最大限に活かした楽曲作りに、宮下智の豊かな音楽センスと大胆な発想が必須であったのだ。

田原俊彦は1980年6月、レイフ・ギャレットの「New York City Night」をカヴァーした「哀愁でいと」で歌手デビュー。主に2タイプの楽曲で立て続けにヒットを飛ばしている。1つは「恋=DO!」「悲しみ2ヤング」「グッドラックLOVE」など王子様路線と呼ばれる二の線の楽曲で、主に小田裕一郎や網倉一也が楽曲提供し、70年代の郷ひろみを踏襲したかのようなアイドル・ポップスを歌い続けていた。

そしてもう1つの路線が宮下智によるノベルティ・ソングすれすれの面白シリーズで、陽気で明るくショウビズ的な楽しさに満ち溢れた世界。さらに82年の「君に薔薇薔薇…という感じ」以降は、筒美京平によるディスコ歌謡路線が田原俊彦の第三極として登場してくる。宮下が田原に書く詞のシチュエーションは街中や海でのナンパが多く、作詞のみ提供した筒美京平作曲の「原宿キッス」や網倉一也作曲「誘惑スレスレ」では、王子様路線やディスコ路線にナンパ男キャラを加え田原の新生面を打ち出すことに成功している。一方でファンの間で人気の高いバラード「ジュリエットへの手紙」も作詞・作曲しているので、王道の正統派も書ける多彩な作家であった。アルバム曲やB面曲も含め、宮下が田原に書き下ろした楽曲は50曲以上に及ぶ。

ただ、これだけの才能がありながら、その実、宮下智は、田原俊彦以外にはほとんど楽曲提供がない。89年に少年隊に提供した4ビートの「まいったネ今夜」は久しぶりに宮下ワールド炸裂の傑作だったが、ほかは南野陽子の「雪の華片」「抱きしめてもう一度」の作曲ぐらいなのだ。だが、そのアイデアと才気に溢れたナンバーの数々とともに、トシちゃん黄金期を支えた、忘れられないソングライターである。

【執筆者】馬飼野元宏

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