築地市場の猫を世話して20年~この春に新たな関係へ

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【ペットと一緒に vol.130】

築地市場の猫を世話して20年~この春に新たな関係へ
前回の記事で紹介した、東京都中央区の築地市場などで猫の保護活動を続けて来た竹内美根子さん。約20年間にわたるTNR活動や保護活動は、この春、新たな局面を迎えるそうです。今回は、猫を取り巻く環境の変化と、竹内さんの新たな活動をクローズアップします。


猫仲間同士、点と点がつながって線に

猫嫌いだったのに、ある日たまたま三毛猫になつかれたことや、たまたま地域猫のエサやりのピンチヒッターを頼まれたことから、猫の世界へ導かれて行った竹内さん。主に自身が暮らす東京都中央区の晴海地区の地域猫を捕獲しては、実費やフリーマーケットに出店して得た費用をもとに去勢・避妊手術をしてもとの場所へ戻す“TNR活動”を行って来ました。

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竹内さんたちが保護した猫

竹内さんによると、地域猫といえども、案外遠くへ移動してしまうものなのだとか。
「それで、フリマで知り合った猫仲間や、中央区内の各地域でエサやりをしている方と、情報交換をするようになったんです。『最近、新しく茶トラのオス猫が来るんだけど、知ってる?』、『あ! それは築地〇丁目の猫かも。最近見かけないと思っていたのよね』という具合に」。

猫が移動したことや、猫仲間のネットワークができたことで、竹内さんは築地市場の猫のTNR活動や子猫の譲渡先を探す活動を、猫仲間とともに始めるようにもなりました。

「ダンボールに入れられて正門の前に置かれている子猫を保護したこともあります。2002~2003年当時は、築地市場にたくさんの猫がいましたね。だから、エリアごとの猫の色や頭数などを記した築地の猫マップを作って、仲間と共有していました」とのこと。

竹内さんは毎週のように築地市場に足を運び、猫を捕獲していたと言います。
「避妊・去勢手術をした猫は、目印に耳先をカットするのですが、そうした“桜耳”になっていない猫を見つけたら、即行で捕獲。徹夜で粘ることもめずらしくありませんでした」。

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子猫は保護して新しい飼い主を探します


中央区からTNR活動の助成金が出るように

捕獲しても捕獲しても、築地市場の猫は減らなかったと言います。
「足しげく通って猫の様子を日々チェックしているから、捕獲はうまく進みましたけどね。それにしても、いつになったら築地市場のTNR活動は終わりを迎えられるんだろう……、と頭を抱えていた矢先、中央区から地域猫の避妊・去勢手術代に助成金が出るようになったんです。2005年のことです」(竹内さん)。

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捕獲・保護した直後は警戒心が強い猫が多いとか

2005年には“中央区動物との共生推進員”制度もスタートしました。これは中央区保健所と、中央区から委嘱された推進員の連携プレーで動物愛護活動を推進して行こうというもの。

中央区の未避妊の地域猫から子猫が生まれてしまった場合、竹内さんのような区内の民間の愛護グループが保護して、シェルターや一時預かりボランティア宅で健康管理や社会化を行ったのち、中央区が場所を提供して行われる猫の譲渡会で新しい飼い主を探すといった活動も行われるようになりました(ペットと一緒に vol.68)。

竹内さんが2011年から運営を始めた保護猫シェルターの“みにみゅう”ほか、区内の複数の保護猫の愛護グループが、その猫の譲渡会に参加しています。

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中央区月島区民センターで開催された飼い主のいない猫譲渡会の様子(手前に向かって歩いているのが竹内さん)

「一度、築地市場で子猫が保護されたときに私のところへ連絡が来たんですが、どうしても駆けつけられなくて。そこで、ほかの猫シェルター運営者でもある推進員仲間に連絡をして引き取ってもらったこともあります。推進員としてお互いにうまく連携が取れているから、保護猫活動は順調に進められるんですよ」と、竹内さんは語ります。
2005~2017年までの13年間に、1,599匹の猫が中央区内で避妊・去勢手術を受けました。

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譲渡会で新たな飼い主を待つ保護猫


築地市場の猫の保護施設が今春開設

実はここ数年、中央区の地域猫を取り巻く環境は大きく変化していると言います。大規模な再開発が各地で進行し、地域猫の居場所が失われているのだとか。

「それに加えて、エサやりを続けて来た方々の高齢化も進んでいます。老人ホームに入られたり、健康を害してエサやり場に朝晩通えなくなったり……。避妊手術をして猫をもとの場所へ戻したくても、置きエサ場も寝場所もなく戻せないという状況なんです」と、竹内さん。戻せない猫たちは、区内の愛護グループが所有するシェルターなどで保護せざるを得なくなるそうです。

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老齢や人に慣れない猫は終生シェルター生活になることも

ただ、街から野良猫がいなくなることは、住民トラブルの減少にもつながっています。地域猫がいると、糞尿問題がどうしても発生します。また、猫が好きではない場合、猫たちの鳴き声がうるさいと思うこともあるでしょう。そうした問題が解決されるからです。

「昔はリリースが当たり前だったけど、時代が変わりましたね。長年地域猫として暮らして来た猫たちは、なかなか人に慣れなかったりして譲渡会デビューするまでも大変。猫によっては終生預かりになったりもします。おまけに、区内は土地がないから私たちみたいな小規模シェルターばかりで、どの愛護団体も保護猫を受け入れるスペースが足りません」(竹内さん)。

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譲渡会デビューまでの間、人慣れや社会化を行うそうです

そんななか、中央区は築地市場の解体に伴って、居場所を失う猫たちを保護する施設を作ることを発表しました。保護スペースが不足しているなかでも、緊急性の高い築地市場の猫への対策がなされることになったのです。

晴海臨海公園内に2019年4月にオープンするこの施設には、築地市場にいた約30匹の猫を収容して、竹内さんたちが光熱費やエサ代を負担してケアをするそうです。
「築地市場出身のその猫たちが、新しい飼い主さんを探せたらいいなぁ~と思っています」と、竹内さんは微笑みます。

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中央区の猫たちに幸あれ!

連載情報

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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