あけの語りびと

動物写真家・小原玲さん~報道業界を経てアザラシを撮り始めた理由

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

-2℃の海中で撮ったというアザラシの写真(小原玲さんのFacebookより)

転身や転職。それは、思いがけないことがキッカケになるケースがあります。写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンからフリーの報道写真家になった小原玲さん『動物写真家』への転身も、意外な理由からでした。

病室の田中角栄、ロス疑惑、日航機事故、湾岸戦争、ソマリア内戦など、内外を問わず数々のスクープを撮った小原さんは、いわば花形報道カメラマン。
1989年6月4日。この日小原さんは、中国・天安門広場のバリケードのなかにいました。

報道カメラマンから動物写真家へ転身した 小原玲 さん(小原玲さんのFacebookより)

民主化を訴える学生・市民を人民解放軍が鎮圧した天安門事件。近づいて来る戦車に対して、手をつなぐ学生たちの姿を夢中で撮った1枚は、この年のアメリカ『LIFE』誌の「ザ・ベスト・オブ・ライフ」に選ばれ、高い評価を受けました。ところが皮肉にも、この1枚が転身のキッカケになったといいます。小原さんは振り返ります。

「あれは、最後まで非暴力を訴える学生のリーダーたちが、仲間の学生たちの暴走をくい止めるために手をつないでいる姿なんです。ところが説明の記事は違っていて、戦車対学生という位置づけでした。私が意図したことが正確に伝わっていない…と痛感しました」

またあるときは、命がけで撮った写真を「悲惨すぎる」という理由から掲載を断られ、別に興味のない芸能人の密会現場の写真を要求される。写真を撮ることが、だんだん楽しいものではなくなって行ったそうです。この頃交際中だった女性の報道カメラマンが、ポツリと言ったそうです。

「私たちの写真は、人の悲しみばっかり写しているよね」

撮影日に生まれたと思われるアザラシの赤ちゃん(小原玲さんのFacebookより)

彼女が病気で入院中、友だちが持って来てくれた一枚の絵ハガキ。そこには、真っ白なアザラシの赤ちゃんが写っていました。それを見つめながら小原さんは、こう思ったそうです。

「歴史や自分の想いが曲げられる報道写真より、アザラシを撮ってみよう! 人の悲しみを切り取って共感を得るより、自分がいいな、可愛いなと思うものを撮って、人に感動を伝えたい」

『動物写真家』への転身を遂げた小原玲さんは、それから29年間も流氷の海に通い、アザラシを撮り続けて来ました。そして「アザラシ赤ちゃん」をテーマにした写真集を10冊も出しています。2014年に出した写真集のタイトルには、小原さんの願いがそのまま投影されています。『好き! を美しく残したい』…。

いつまでも見ていたくなる寝顔(小原玲さんのFacebookより)

ある日の電車のなかでは、こんな光景を目にしたと言います。
「アザラシの写真が載っている雑誌の発売日。きれいな女性が僕の写真のページを何度も見つめていました。そして彼女は、定規を使ってページから写真を切り取って、手帳に挟んだんです。人に大事にされる写真を撮りたい、という想いを新たにしました」

3年前は流氷の状態がゆるく、アザラシの撮影が期待できない年だったそうです。すると、地元の人がそっと教えてくれました。「シマエナガという小鳥が、アザラシの赤ちゃんみたいな目をしてるよ」

「シマエナガちゃん」と呼びたくなるのも頷ける可愛らしさ(小原玲さんのFacebookより)

小原さんは言います。「北海道では、それほど珍しくない小さな鳥です。でも、そのつぶらな瞳と目が合ったとき、心にグサッと来たんです。『フライデー』時代の張り込みのように公園で何日も待ち続けるので、人に怪しまれることもあります。寒いことは寒いのですが、可愛い姿を撮るためなら、あまり苦になりませんね。報道カメラマン時代の経験が役に立っています」

夏の張り込みの様子(小原玲さんのFacebookより)

撮りためた「シマエナガ」の写真集は、これまでに3冊!「講談社ビーシー」から出版されています。
「シマエナガちゃん」「もっとシマエナガちゃん」「ひなエナガちゃん」この3冊のネーミングにも、小原さんの愛情があふれています。

「講談社ビーシー」から発売中の1冊『ひなエナガちゃん』(小原玲さんのブログより)

「説教くさい写真は弱い。もっとも強い写真は、美しく、喜びや希望が見えるものなんです」
こう語る小原さんは、写真集の発売と合わせて地球の温暖化や自然破壊に警鐘を鳴らす講演会を各地で開いています。沢山の出会いのなかでうれしかったのは、あるお母さんの言葉…。

「私が可愛いなと思って買った写真集なんですが、子どもたちのお気に入りで、取られてしまったんですよ」

また、我孫子市で開かれたバードフェスティバルでは、中学生たちが「おい、いくら持ってる?」とポケットのなかのお金を出し合って、「シマエナガちゃん」を買ってくれたとか。

小原さんは言います。「子どもたちの好奇心に応えられる写真を撮って行きたいですね」

小原玲さんのFacebookより

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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