あけの語りびと

居酒屋『花門』の店主再び!~芸術家としても人々を笑顔にする多才さ

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

この番組を長く聴いてくださっている方のなかには、2016年9月21日、このコーナーでご紹介した上板橋の居酒屋『花門(かもん)』をご記憶の方がいらっしゃると思います。

「花」の「門」と書いて『花門』。この古風なネーミングにもかかわらず、ご主人はイラン人のコルドバッチェ・マンスールさん、54歳。この店を有名にしたのは、およそ50種類の料理が全品400円という安さ。そして誰もが「エエ~ッ!」と目を丸くするボリュームのものすごさでした。

居酒屋『花門』を経営するコルドバッチェ・マンスールさん(2016年9月当時の写真より)

エビフライもチャーハンもハムエッグもサラダも、これでもか! これでもか! の上にもう1つ、これでもか! と盛り上げた料理が出て来ます。

マンスールさんが料理をこんなふうに超デカ盛りで出すようになったのは、1994年に開店して2年目、ランチタイムに立ち寄った若い夫婦の会話がキッカケでした。奥さんのお腹は大きく膨らみ、間もなく臨月の様子。お腹が空くのでしょう。壁のメニューをながめながら、彼女が言いました。

「あたし、サイコロステーキがいい」「850円かぁ、高いな~、ダメだ」と、若い夫。「そうね、じゃあ何にしようかなぁ」というやり取りの後、2人は380円の焼きそばを注文しました。マンスールさんは、黙って焼きそばを2つ焼きました。

その夜、マンスールさんはなかなか寝付けませんでした。繰り返し、あの若夫婦の会話がよみがえって来たのだと言います。

(彼女は、お腹の赤ちゃんのために栄養をつけたかったのだろう。でも僕に何ができた? 僕は、どうすれば良かったんだろう?)

そのとき、パッと頭にひらめいたのが、奇想天外のアイディアでした。
「そうだ! メニューを全部、380円にしてしまえばいいんだ!」

「お客さんを驚かせたい」と、特盛にされた料理の数々!(2016年9月当時の写真より)

まだ、消費税が3%だった時代の話。次の日から『花門』のメニューは、全品380円に書き換えられました。お客様がそのメニューにビックリすると、マンスールさんのサービス精神はさらにエスカレート! もっと驚かせたいと、料理の量もサイズも巨大化して行ったのです。

今回、『花門』のお話にふたたび触れたのは、マンスールさんに「芸術家」というもう1つの顔があることをご紹介したかったからです。

マンスールさんはイランで、14歳のときから絵を習い「一番弟子」と呼ばれるまでになりました。高校卒業後、2年間の兵役に召集されますが、このときも絵心は忘れられず、訓練の合間を縫って戦車や風景のデッサンを続けたと言います。

マンスールさんのアトリエと作品の数々(Facebookより)

兵役が明けてからは、日本語を習得するために来日。外国への持ち出しは300ドルまでと決められていたので、昼は日本語学校、夜は居酒屋でのアルバイトという生活が4年間も続きました。この間はさすがに生活に追われ、絵筆を持つことは無かったと言います。

縁あって4年後、居酒屋を開店。その店が『花門』の母体となりました。持ち前の明るさと頑張り精神で、店は繁盛。商売が軌道に乗り始めると、常連のお客たちと夜な夜なカラオケ三昧という暮らしが続きました。そんなとき、常連客の1人がこんなことを言ってくれたそうです。

「遊んでばかりの毎日では心もとない。何か趣味を持ちなさい」こう言ってくれたのは、画家の鶴田松盛さんでした。

「先生、実は私、絵を描いてたんです」「ほぅ、1度見せてくれないか」…マンスールさんの絵をひと目見た先生の口から、こんな言葉が漏れました。
「うん、これはなかなか大したものだ。素晴らしい!」

マンスールさんは、当時を振り返って言います。
「鶴田先生の、あの一言が無かったら、僕は気のいい居酒屋のおやじで終わっていたでしょう」

彫刻作品の制作風景(Facebookより)

店が休みの日は、先生のアトリエに通い、店がある日は閉店後から深夜まで絵筆を持つ日が続きました。こうして描き上げた絵を、初めて「二科展」に出してみると、何と入選! 初出品の年から続けて4年、連続入選!

勢いを得たマンスールさんは「日展」にも応募しますが、まさかの選外…。「え? 何で俺の絵が? どこがいけない? 何が足りない?」と苦しみながら挑戦し続けているうちに、10年の月日が流れました。

こんなとき、出会った言葉が『あせらず、あわてず、あきらめず』…。この言葉を支えに2007年、ついに悲願がかなって日展に初入選! 以来11回連続入選を果たし、いまでは日展の「会友」に名を連ねています。

そして去年の秋、ほとんど例のない驚くべきことが起きました! マンスールさんは、日展の「洋画部門」と「彫刻部門」で、ダブル入選! 彫刻の恩師は、現在、病床に伏しているS先生だと言います。

日展の洋画・彫刻部門でダブル入選した際の新聞記事(Facebookより)

「S先生は病院のベッドで、本当にうれしそうな顔をしてくれました。その顔に感動したんです!」と語るマンスールさん。
私たちは、ここで気づきます。絵にしても彫刻にしても、そして料理にしても、金のためにではなく、人を喜ばすために行うことは…美しくて強いのだと。

「あけの語りびと」の番組も宣伝してくださっていました!(Facebookより)

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

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