夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第525回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、12月1日に公開された『彼が愛したケーキ職人』を掘り起こします。


宗教も性差も超える! 究極の人間賛歌

夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…
ベルリンのカフェで働くケーキ職人のトーマスは、イスラエルから出張でやって来るなじみ客のオーレンと恋人関係になっていく。ある日、いつものように「また1ヶ月後に…」と言って、オーレンは妻子が待つエルサレムへと帰って行ったが、その後、オーレンからの連絡が途絶えてしまう。彼は交通事故で亡くなったのだった。

エルサレムで夫の死亡手続きを済ませた妻のアナトは、休業していたカフェを再開し、女手ひとつで息子を育てるため多忙な日々を過ごしていた。そんな最中、アナトのカフェに、トーマスが客として現れる。職を探していると言うトーマスを、アナトは戸惑いながらも雇うことにするが…。

夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…
イスラエルのアカデミー賞にあたるオフィール賞で主要9部門にノミネート。カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞するなど、海外でも絶賛された『彼が愛したケーキ職人』。第31回東京国際映画祭でも上映された本作が、いよいよ日本のスクリーンで封切られました。

夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…
本作を手がけたオフィル・ラウル・グレイツァ監督は、本作が東欧最大級の映画イベント“カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭”で絶賛され、世界各国で数多くの映画賞を受賞するなど、今後注目の若手超有望株。そして同時に彼は、イスラエルとパレスチナの家庭料理に精通したシェフでもあり、本を出版したり料理教室を開いたりしている人物なのです。

実は本作は、オフィル監督が学生だった頃に体験した、ある男性との出会いがインスピレーションになっているのだとか。それをモチーフにした2人の主人公が魅力的。

ケーキ職人のトーマス役には、ドイツ人俳優のティム・カルクオフ。無名ながらも、本作への出演がきっかけで2018年ヴァラエティ誌が選ぶ「観るべき10人のヨーロッパの俳優たち」に選出され、今後の活躍が楽しみな俳優です。そしてアナトを演じたのは、イスラエルの人気女優サラ・アドラー。それぞれのキャラクターが抱く複雑な感情を丁寧にすくい取った演技は必見です。

夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…
共通の男性を愛し、そしてその愛する人を失った悲しみに暮れる男女の姿をエモーショナルに描いた本作。ケーキ作りを通じて宗教的慣習や文化、国籍、セクシャリティの違いをあぶり出していく展開には圧巻の一言。

しかし、この映画の底辺にあるものは、そうした問題さえも超越した壮大な人間讃歌。食べること、生きること、そして愛することの尊さを感じずにはいられない秀作です。

夫を亡くした悲しみから救ってくれたのは、思いもよらない人物だった…
彼が愛したケーキ職人
2018年12月1日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督・脚本:オフィル・ラウル・グレイツァ
プロデューサー:イタイ・タミール
出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス、サンドラ・シャーディー ほか
©All rights reserved to Laila Films Ltd. 2017
公式サイト http://cakemaker.espace-sarou.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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