盲導犬候補生との出会いと別れ。飼育ボランティアの15年の感動物語

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【ペットと一緒に vol.120】

盲導犬候補生との出会いと別れ。飼育ボランティアの15年の感動物語
盲導犬候補の子犬の飼育奉仕、盲導犬候補の子犬の出産と育児をサポートする繁殖奉仕、盲導犬リタイア犬の飼育奉仕と、盲導犬にかかわり続けた松本さん一家。今回は、出会いと別れのなかでかけがえのない思い出を築いた、松本さん一家の約16年のストーリーをご紹介します。


家族で最初に迎えたのは盲導犬候補生

1996年に横浜市内に一軒家を構えた松本さん夫妻は、2000年に当時小学2年生と5年生の息子たちから切望されたことがあると言います。それは、マンション生活で諦めていた、犬を飼いたいということでした。

「結婚する前に実家で、アイメイト協会の盲導犬(※アイメイト協会ではアイメイトと呼んでいますが、本記事では盲導犬と表記します)候補生のパピーを育てるボランティアをしていたので、同じように子犬を迎えようかと家族に提案してみました。すると全員が賛成してくれて、とんとん拍子に話が進みました」と、裕(ゆたか)さん。

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息子さんたちの念願がかなう!

生後2カ月のラブラドール・レトリーバーの子犬を迎えて、松本家は一気ににぎやかになったそうです。
「子どもたちは大喜び。子犬は、はしゃぐ子どもたちの頭や顔に乗りかかってじゃれたりしていましたね(笑)。一般的にはパピーウォーカーという呼び名もある預かり家庭では、人はいかに味方になる存在か、人がその犬をどれほど大切にしているかを子犬に伝えるのが重要だと聞いていたので、本当にたっぷりと愛情を注ぎました」と、明子さんは語ります。

盲導犬として適性が高い血統から繁殖されただけあり、松本家にやって来たレナードくんは1週間でトイレを覚えたそうです。
「すごーい! やっぱり血筋かな? なんて感心したのを思い出します」(裕さん)。

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子犬時代のレナードくん


子犬との別れと新たな出会い

こうしてレナードくんと楽しく過ごした1年間はあっという間に過ぎ、いよいよアイメイト協会にレナードくんが旅立つ日がやって来ました。
「涙涙のつらい別れだと想像しますか? でも、そうじゃなかったんですよ。実は飼育奉仕を続ける約束をしていたので、わりとすぐに次の子犬がやって来る予定だったんです。だから『次はどんなコかなぁ?』なんて、子どもたちも2頭目の子犬を楽しみにしていたようで、レナードとの別れも悲しいというより、がんばれ! と応援する気持ちでした」と、裕さんは笑います。

松本家にやって来た盲導犬候補生の2頭目は、ルピナスという女の子。
「それが、レナードに比べるとかなりのイタズラ好き(笑)。うんちに混ざって子どもの靴下が出て来たこともありましたね」(明子さん)。かじるのも好きで、日に日にじゅうたんが短くなっていったとも。

「同じ犬種でもずいぶんと性格が違うものだなぁ、と思い知らされました」と、松本夫妻は口をそろえます。そうした発見もまた、子犬と暮らす楽しみのひとつでもあったそうです。

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おてんば娘のルピナスちゃん

一緒に遊んだり、少し遠くまで出かけたり、毎日たっぷり散歩をしたり……。2頭目の子犬との思い出も増えていき、1歳数カ月になったころ、また協会へと巣立って行きました。

松本さんたちが3頭目の子犬を迎える準備を始めたところ、繁殖ボランティアをしないかという提案が協会からあったそうです。
「正直、不安はありました。ちゃんと母犬の助産ができるかとか……。でも、チャレンジしてみようと決めました」(明子さん)。

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バルコニーが大好きだったルピナスちゃん

こうして、3頭目は子犬ではなく、2歳のクリスタルちゃんがやって来ました。クリスタルちゃんとは、アイメイト協会の関連犬の集いにも一緒に参加したそうです。

「年に1回、候補犬、繁殖犬、盲導犬になれなかった元候補生や盲導犬リタイア犬など30~40頭が集まってバーベキューをするんです。でも、それほどたくさんの犬がいても吠え声がまったくしない。犬たちはちゃんと笑顔で遊んでますけどね、血筋からかむやみに吠えないのでしょう。すごい!」と、明子さんは驚いたそうです。いつかレナードたちがリタイアしてから一緒に過ごせたらいいなと願う気持ちも芽生えました。


再会したレナードくんは……

クリスタルちゃんも繁殖犬としての役割を無事に終えて、リタイアライフをゆったりと過ごしていた頃、レナードくんが盲導犬を引退したという連絡が協会から入ったそうです。

「引退した盲導犬は、盲導犬使用者の家族や親せきなどがそのまま引き取るケースも少なくありません。ですので、レナードが引退後どうなるかわかりませんでした。協会から、レナードを引き取れると聞いたときは何だか感慨深かったですね」と、裕さんは振り返ります。

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レナードくんが14歳、クリスタルちゃんが12歳の頃

10年以上ぶりに松本家に足を踏み入れた、レナードくん。最初は戸惑う様子も見せたそうですが、庭に出たとたんにパッと顔をあげて走り出したのだとか。
「記憶がよみがえったのでしょう。そのあとは、私たちにベターっと張り付いて。当時の甘えん坊なレナードに戻りました」と、明子さんは微笑みます。

いっぽうのクリスタルちゃんは、「嫌いじゃないけど、このレナードったらいつまで滞在するのかしら?」といった様子で、距離を置きながらレナードくんと接していたそうです。
「部屋の隅と隅、ソファの端と端っていう感じの距離感をキープしていて(笑)。でも、2頭で留守番をさせるたびに距離が縮まって行ったみたい。気づいたら、お互いにぴったりと体をくっつけて寝るようになっていました。と言っても、そこまで半年以上はかかりましたけど」とのこと。

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性格の違う2頭ですが、次第に仲良しに

こうして、思いがけず多頭飼育をスタートした松本さん一家。
「ふと気づけば、私が実家でパピーを預かり毎日1時間ほど散歩していた年齢に、息子たちの年齢も近づいていました」(裕さん)。

レナードくんもクリスタルちゃんも、ラブラドール・レトリーバーとしては長寿と言える15歳まで生きてこの世を去り、いまは松本さん宅には犬がいないそうです。

「60代になって大型犬を看取るのは大変かと思い、今度は繁殖奉仕ではなく再び飼育奉仕として、子犬を迎えようかと考えています」と、松本さん夫妻は新たな子犬との出会いにワクワクしているそうです。

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晩年のクリスタルちゃんのお茶目なショット

※クリスタルちゃんの出産と育児エピソードについては、次回くわしくご紹介します。

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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