日産・ゴーン会長失脚“カリスマ経営者”のあっけない幕切れ

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「報道部畑中デスクの独り言」(第98回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、日産自動車のカルロス・ゴーン会長の逮捕を受け、急遽開かれた記者会見を取材した。

日産・ゴーン会長失脚“カリスマ経営者”のあっけない幕切れ

横浜の日産グローバル本社  家宅捜索も入った

「日産自動車のカルロス・ゴーン会長、事情聴取」

一報が入ったのはニッポン放送で夕方のニュースも終わり、ホッと一息つくころでした。「逮捕へ」「逮捕状…」情報が更新されるにつれ、報道部内も緊迫感に包まれて行きました。私はほどなく、横浜の日産グローバル本社に向かいました。

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社屋前にも多くの報道陣

横浜の日産本社は2階部分がプロムナードになっていて、一般の人も往来できるようになっていますが、その出口には報道陣が待ち構え、従業員と思しき人たちに声をかけていました。私もトライしましたが、誰もが口を堅く結び、足早に社屋を後にしました。

ゴーン会長逮捕の一報が入ったのは午後8時前、東京地検特捜部による逮捕容疑は金融商品取引法違反。2011年から2015年の間の5年間に、報酬をあわせて約50億円過少記載した有価証券報告書を提出したというもの。ゴーン会長と言えば、フランスのルノー、傘下の三菱自動車工業と合わせ、年間20億円近い高額報酬を得ていることで話題となりましたが、実際はそれ以上の金をプールしていたことになります。

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1階のギャラリー もちろんクルマに罪はないが…通常通り午後8時に閉館した

側近のグレッグ・ケリー代表取締役も逮捕されました。実はこれに先立つ1時間ほど前に日産からコメントが発表され、今回の不正は内部告発がきっかけで、会社として数カ月に及ぶ社内調査が行われたことも明らかになりました。

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午後9時過ぎ、ようやく会見時刻が決まる

到着から2時間以上が経ち、広報担当者が現れ、並んだ列を整えます。いつも決算会見が行われる会議室で午後10時…ようやく記者会見の時刻が決まりました。

音声収録のセッティングも終わり、午後10時2分、会見席わきのドアが開きます。記者は200人以上、TVカメラはざっと30台。西川廣人社長は口を真一文字にし、会見席に腰を下ろしました。検査不正の会見のときもそうでしたが、大型プロジェクターを前に、立って行う決算会見のスタイルとは違い、地味な長机に座っての会見。しかもこの種の会見では同席することが多い弁護士はおらず、西川社長1人での会見となりました。

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記者会見場 これまでの日産会見でも見たことのない数だ

80余年の歴史のなかでトップの逮捕という、企業として最大の汚点のはずです。しかし、西川社長は捜査中であることから多くは語れないとした上で、ゴーン会長について「重大な不正行為を確認した。会社として断じて容認できない。解任することを決断した」と淡々と語りました。そしてゴーン会長の行為に対し「残念ということを超えて強い憤り、落胆している」、長期政権の弊害については「実力者として君臨して来たことの弊害」「負の遺産」と表現しました。長年の権力集中による“鬱積”を象徴するコメントです。

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記者会見は午後10時過ぎに始まる

いわゆる「不祥事会見」の類ではあるのですが、こうしたときにありがちな冒頭、幹部が立って深々と頭を下げるという場面は一切なく、西川社長にはむしろ「ひと仕事終えた」かのような雰囲気さえ漂っていました。「日産の信頼を大きく裏切ることになってしまった。大変残念で申し訳ない」と謝罪はしたものの、「謝罪会見」ではなく「ゴーン追放会見」の感が強かったと言えます。

実際の解任は22日の取締役会に諮られることになります。また、私的支出の内容については明らかにされませんでしたが、50億円という巨額の過少記載だけに、不動産投資のような規模の大きなものではないかという見方もあり、今後、特別背任などの容疑に発展するかどうかも注目されます。

記者会見の時刻は夜遅くになったものの、それまでの動きはシナリオ通りにも見え、一種の司法取引があったのではないかという指摘もあります。西川社長は「社内調査はほとんど終わっている」と述べた上で、司法取引については明言を避けました。

日産・ゴーン会長失脚“カリスマ経営者”のあっけない幕切れ

記者会見する西川廣人社長 言葉を選びながらも受け答えは淡々としていた

一方、自動車ファンにとっては今後の日産のクルマづくりがどうなるかも気になります。検査不正問題に続く不祥事で、日産ブランドの棄損が懸念されるのはもちろんのことですが、一方でゴーン体制以降、日本市場を軽視していると言われて久しいだけに、今回の事態で軸足に変化があるのかどうか…私の疑問でもありました。

日産・ゴーン会長失脚“カリスマ経営者”のあっけない幕切れ

立ち上がったのは最後のみ

西川社長は日本市場については「全く軽視していない。日本発のブランドの価値をいまの経営陣は十分認識している」と、国内軽視の見方を否定しながら、過去には偏った意見で商品投入された時期があった他、日本のマーケットの重要性が十分に認識されていない時期があったことを認めました。

国内シェアが依然厳しい状態にあるのは事実。以前書きました通り、日産車の旧車には30年~40年経っても愛される名車が数多くあります。今回の事件をきっかけにそうしたDNAを取り戻すことにつながれば、「災い転じて福となす」と言えるかもしれません。一方、かつての日産は労使の対立など、まさに権力闘争の歴史でした。西川社長は今回の事態を「クーデターではない」と否定したものの、そんな時代に逆戻りしないことを願います。

日産・ゴーン会長失脚“カリスマ経営者”のあっけない幕切れ

会見は午後11時28分に終了 最後の言葉は「ありがとうございました」だった

それにしても、ゴーン会長の失脚はあっけないものでした。ゴーン会長は「進退を決めるのは株主」とかねてから述べ、そこには権力者としての自信がにじんでいましたが、内部告発、司直の力も加わり、道を閉ざされることになったわけです。

日産がルノーと資本提携したのは1999年3月27日(記者会見は当時の経団連会館でした。小生の誕生日なのでよく覚えています)。ゴーン氏が社長に就任したのが2001年。当時、“瀕死”の状態にあった日産を立て直した功績は認められるとしても、まさに「諸行無常」「驕る平家は久しからず」と言うべきでしょうか。平成最後の秋も終わろうというときに、自動車業界に超ド級のスキャンダル…自動車ファンとしては複雑な思いです。(了)

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